“時短重視”の時代に“足の遅い交通機関”が絶好調!その理由は?移動時間をレジャーに変えた「東京九州フェリー」の戦略
東京ウォーカー(全国版)
横須賀港と北九州・新門司港間を約21時間かけて結ぶ「東京九州フェリー」が好調だ。柱である貨物輸送事業はもちろん、旅客需要も想定以上に高く、ゴールデンウィークはすでに満席状態だという。タイムパフォーマンスが重視されがちなこの現代に、飛行機で2時間の道のりを約21時間もかけて移動する足の遅い交通機関に、人が集まる理由とは?同フェリーの魅力について、東京九州フェリーの広報担当者に話を聞いてみた。

長距離フェリーは、実はコロナ禍にフィットした乗りものだった!
ーーまず、東京九州フェリーの概要を教えてください。運航スケジュールや運賃はどうなっているのでしょうか?
【広報担当者】東京九州フェリーは、神奈川県・横須賀フェリーターミナルと、福岡県・新門司フェリーターミナル間をダイレクトに結ぶ長距離フェリーです。運航は日曜祝日を除く週6回で、横須賀発23時45分・新門司着翌21時の下り便と、新門司発23時55分・横須賀着翌20時45分の上り便とがあります。所要時間はどちらも21時間前後と、フェリーとしては非常にスピーディな運航を実現しています。
【広報担当者】時期により多少変動しますが、基本料金は片道1名1万2000円です。プラス、個室を選択される方には基本料金にグレードに応じたルームチャージが加算される仕組みです。マイカーごとご乗船される場合は1台4万円からで、この金額には運転手1名分の基本料金を含んでいます。
ーー新規就航は、2021年7月ですね。観光客が少なく先の見えないコロナ禍での船出に、不安はなかったのでしょうか?
【広報担当者】そうですね、感染症対策のために大々的なイベントができなかったことに若干の寂しさは感じましたが、不安は特にありませんでした。観光需要は低調でも物流面での需要は高いと見込んでいましたし、そもそも、マイカーごと乗り込んで、人混みに身を晒すことなく長距離移動ができるフェリーは、むしろコロナ禍にそぐう交通手段ですから。お仕事や帰省などでどうしても長距離を移動しなければならないけれども、感染が心配…という方々の生活の一助になれるのではないかという考えはありました。
ーー長距離フェリーというと「大部屋に雑魚寝」が定番で、他人との接触が避けられないイメージですが、東京九州フェリーは、人と人との距離が保てるつくりになっているということでしょうか?
【広報担当者】はい、横須賀港~新門司港航路は「それいゆ」「はまゆう」という2隻の姉妹船で運航しているのですが、どちらも基本運賃だけでシェード付き、カプセルホテルタイプの「ツーリストA」のベッドをご利用いただけます。さらに、鍵のかかる自分だけの空間を確保したいお客様に向けて、プラス6000円からでテレビ付き半個室「ツーリストS」もご用意しているほか、窓やトイレ、シャワーブースのある「ステート」、専用テラスも備える「デラックス」といった個室もあります。




【広報担当者】パブリックスペースも密にならないように広々と設計しておりますし、レストランでのオーダーをタッチパネル式にし、セルフレジを採用するなど、スタッフとの接触も最小限です。


【広報担当者】「はまゆう」と「それいゆ」の造船にあたっては、新日本海フェリー・阪九フェリー・関釜フェリーを擁する私たち「SHKライングループ」が長い間培ってきたノウハウ・経験が生かされています。長距離フェリーほど「個」の空間に対するニーズが高いため、それに応える形で、よりプライバシーに配慮した設計になっております。
露天風呂にサウナまで!まるで動くホテル
ーー約21時間という移動時間は大変長く感じられますが、船内には気を紛らわすことのできる施設はあるのでしょうか?
【広報担当者】はい、ランニングマシンなどを備えるスポーツルーム、カラオケを楽しめるアミューズメントルーム、映画も上映するプラネタリウム、神奈川や九州の味をラインナップするレストラン、ファミリー向けのキッズルーム、ペット連れの方のためのドッグフィールドなどを準備しています。





【広報担当者】なかでも私のおすすめは、大浴場に併設されているサウナと露天風呂!日常を忘れ、大海原を眺めながらのリラックスタイムが過ごせると、お客様にも、とてもお喜びいただいています。



【広報担当者】冬期以外は洋上BBQもお楽しみいただけます。2023年も3月20日からスタートしました。非常に人気が高く、日によっては抽選でのご案内となってしまうのですが、BBQセットはリーズナブルな価格で楽しんでいただけるよう頑張っております。

【広報担当者】ただ現在、ゴールデンウィークまでの期間限定で、通常の「はまゆう」「それいゆ」の代わりに「すずらん」と「すいせん」という船舶で運航しているのですが、「すずらん」「すいせん」にはプラネタリウムはございません。代わりに、本格的なシアタールームを備えています。また「すずらん」「すいせん」には、レストランと別に、コース料理が満喫できるグリルと、カフェもあるんですよ。
ーー洋上でコース料理が食べられるとはずいぶん豪華ですね!ところで、現在、入れ替え配船されているのはなぜですか?
【広報担当者】高い旅客需要に対応するためです。「すずらん」「すいせん」は、通常、関西・北海道間を結ぶ新日本海フェリーで運航している船舶なのですが、旅客定員613名と、「はまゆう」「それいゆ」の268名に比べより多くのお客様にご利用いただくことができます。おかげさまで、当初の想定よりも東京九州フェリーに対するニーズが高いため、期間限定での入れ替え配船という対応を試験的に行っております。
災害時の活躍にも期待大!
ーーそれにしても、レストランや露天風呂なんて、まさに、動くリゾートホテルですね。話を聞けば、一度乗ってみたくなる。好調という話が腑に落ちました。
【広報担当者】ええ、設備にはとにかく力を入れておりますので、お客様からも「クルーズ客船には手が届きにくいけれど、フェリーで気軽に船旅の非日常感を味わえるのはうれしい」といった声をいただいています。

【広報担当者】こうした船内の設備は、平時だけでなく、いざというときにも存在感を発揮するんですよ。フェリーは災害に強い交通機関ですから。例えば、東日本大震災のときには、新日本海フェリーは日本海側の航路を利用してライフライン復旧の車両や大量の援助物資を運びました。
ーーそれは頼もしいですね!ですが、フェリーが災害に強いというのは?船は台風には弱そうですし、それに、津波で転覆する心配はないのでしょうか?
【広報担当者】台風にはちょっと敵わないので、どうしても欠航することもあるんですけれども、津波の場合、沖へ出ていれば、フェリーはむしろ安全に乗り切ることができます。地震や津波、水害のあとは線路や道路の寸断が想定されますが、海上を移動できるフェリーなら人員・物資の緊急輸送を担うことができますし、設備を活用したさまざまな被災地支援も可能です。
【広報担当者】大規模災害時の被災地支援もフェリーの大切な役目のひとつです。普段旅客として利用される皆様からは見えない部分ではありますが、フェリーについてのそうした側面も知っていただければ、うれしいです。
“時短”が重宝されるこの時代に、横須賀港と北九州・新門司港間を約21時間かけて進む“足の遅い交通機関”が好調と聞きつけ、今回インタビューを行った。話を聞き、同フェリーが人々を引きつける理由がよくわかった。“足の遅い交通機関”の今後の活躍がさらに楽しみだ。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・顧客の声を自社サービスに反映する
・災害時には自社の「得意」を生かして社会貢献できる体制を作っておく
取材・文=仁田茜
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