コーヒーで旅する日本/関西編|地域の嗜好に応えながら、“半歩先”を行く提案で、阪神間のコーヒーシーンを牽引。「TAOCA COFFEE」

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

開放的なカウンターを中心にした店内。コーヒー豆はもちろん、抽出器具やカップなど多彩なアイテムも販売


関西編の第60回は、兵庫県西宮市の「TAOCA COFFEE」。2014年に苦楽園で創業して以来、着実に地元の支持を得て、いまや阪神間を代表するロースターと呼べる存在に。ここ10年ほどでコーヒー激戦区となった阪神間に、大きな変化が起こったのは、全国的に新世代ロースターの開店が相次いだ2010年代前半のこと。中でも苦楽園には、同時期に4、5軒のロースターが続々とオープン。本連載にも登場したBUNDY BEANS、三ツ豆珈琲、そして「TAOCA COFFEE」も、当時、界隈に新風を吹き込んだニューフェイスの一つだった。現在、西宮市内に2店、神戸市内に3店を展開するまでになったが、その道のりは、目指すコーヒーの味と地域の嗜好をつなげる地道な店作りの賜物。地元の日常に寄り添いながらも、お客の半歩先を行く新提案を重ねて、今もファンを広げている。

店主の田岡さん


Profile|田岡英之 (たおか・ひでゆき)
1982(昭和57)年、兵庫県神戸市生まれ、大学卒業後、会社員を経て、大手コーヒーチェーンへと転身。ジャパン バリスタ チャンピオンシップ(JBC)出場とスペシャルティコーヒーとの出合いを機に独立を志し、同社の焙煎工場も1年経験。2014年、西宮市苦楽園で「TAOCA COFFEE」を創業。2017年に神戸岡本店、2019年に焙煎所を併設した旗艦店・鷲林寺ロースタリーをオープン。2021年の神戸・六甲店の開店と共に、新たな菓子ブランド・Brantaを立ち上げ、2023年春、神戸の南京町に神戸元町店をオープン。

“画期的なコーヒー”との出合いと大いなる失敗

六甲山麓にある店内は、清々しい雰囲気が満ちている

阪神間でも随一の洗練された住宅街として知られる、西宮市の苦楽園界隈。「TAOCA COFFEE」が創業する以前は、意外にも自家焙煎コーヒー店がほとんどなかったエリアだったが、「住宅街だからこそ、豆を購入して自宅で飲まれる方は多いのではと思っていました」という店主の田岡さん。地元愛の強い土地柄もあって、開店以来、苦楽園本店では今もお客の9割が半径1キロ圏内のリピーターが占めるという。「コーヒーの味は地域のお客さんが作っていくもの。俗に業界では“豆売り3年”という言葉があって、自分が出したいコーヒーとお客さんの好みがリンクする味作りがロースターの醍醐味です」と、当初から自店が目指す味と地域の嗜好をつなげる店作りを、常に意識してきた。

鷲林寺ロースタリーの開店を機に、完全熱風式のスマートロースターを導入


大学卒業後、一度は会社員として働いていた田岡さんが、全国に店舗を展開する東京の大手コーヒーチェーンに転身したのは、将来の起業を見すえてのこと。ただ、飲食業の経営ノウハウを学ぶことが大きな動機で、実はこの時はコーヒー自体への関心はあまりなかったという。それでも、入社後にバリスタという職業を知り、自らも競技会に出場。その過程で出合ったスペシャルティコーヒーの存在が、その後の進路を大きく変えた。「2008年頃の当時はスペシャルティコーヒーが日本にほとんど普及していなくて、言葉が先行して広まり始めたくらいの時期。トレーサビリティが明確で、生産者のためになるコーヒーというのは画期的に思えました。もちろん、味の違いも今までにないもので、最も印象に残っている銘柄と言えば、エチオピア・イルガチェフェ。従来のコーヒーとは一線画した、紅茶のような華やかな香りは当時のスペシャルティを体現していました。今でもエチオピアを超える産地はないのではと思いますね」

半熱風式から熱風式に機体は変わったが、後味の甘さを追求する焙煎アプローチは変わらない


以来、先々独立した時に扱うべきものはこれだと確信を持ったという田岡さん。本格的にコーヒーの世界へと進むきっかけを得たが、同時に大きな挫折も経験している。当時、新業態のカフェの開発に携わっていたが、関わった事業はことごとく振るわず、飲食店の難しさを体感した。それでも、ここで得たものは大きいという。「まさに大いなる失敗でしたが、成功体験よりも失敗の体験の方が得難いという意味では貴重。もし自分の店で大きな失敗をしたら取り返しがつかないですが、この時はまだやり直せる機会がありました。そこで感じた、“成功に明確な理由はないけど、失敗には明確な理由がある”、という気付きは、今に生かされています」と振り返る。

この時の教訓を胸に刻み、自らの独立の方向性を考える転機とした田岡さん。その後、自ら希望して社内の焙煎工場へ異動し、先々は豆の販売を柱にすべく、ロースターとしての独立を視野に1年間、焙煎の仕事に邁進。とはいえ、設備のスケールが違うため、開店にあたっては独自に一から試行錯誤を重ね、オープン後も焙煎アプローチの追求を続けてきた。

販売する豆はすべて試飲可能。お客とのコミュニケーションを通して、多彩なコーヒーを提案


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