事故物件専門「成仏不動産」って知ってる?偏見との戦い、それでも事業継続したワケ
東京ウォーカー(全国版)
孤独死や殺人事件などがあった「事故物件」を積極的に扱う不動産会社がある。成仏不動産事業を運営する株式会社マークス不動産だ。事故物件に抵抗が少ない人とのマッチングやリノベーションによって付加価値をつけるなどして、事故物件が不当に低く評価されている状況に一石を投じる。代表取締役の花原浩二さんに事業を始めた経緯や今後の展望を聞いた。

社名を伏せてスタートした事故物件事業
ーーまずは会社を立ち上げた経緯を教えてください。
【花原浩二】以前は大手ハウスメーカーで戸建て住宅を販売していました。1995年の阪神・淡路大震災を経験していたので、地震に強い家を売ることは、人の命を救うことだと思って仕事に取り組んでいました。しかし、誰かが引っ越したところは当然空き家になり、人口は減少傾向なので、不便な地域には空き家がどんどん増えていきます。
【花原浩二】そんな矛盾に気がつき、便利だという理由だけで家を売る仕事におもしろさを感じられなくなったんです。そこで、今ある不動産を生かすことで、人口が減っている地域にも光を当てられるビジネスをしたいと思い、2016年に会社を設立しました。当初は中古住宅を買い取り、リノベーションして再販していました。
ーーなぜ成仏動産事業を始めたのでしょうか?
【花原浩二】意識して事故物件を扱い始めたのではありません。たまたま事故物件のことで困っている方が目の前にいたので、事故物件が平気な方とつなぎ合わせようとしたのがきっかけです。

ーー事業開始にあたり大変だったことはありますか?
【花原浩二】最初の課題は、社内を納得させることでした。なぜかというと、もともと行っていた中古物件の再販は、横浜の山手町というおしゃれなエリアで、デザインにもこだわり、しっかりとブランディングをしていたからです。そのイメージとは真逆をいくような事業を始めることに対して、「NIKKEI MARKS(現マークス不動産)」が販売する物件が、すべて事故物件に見えてしまうかもしれない」「積み上げてきたものがすべて消えてしまうのでは」という意見が出ました。
【花原浩二】そこで、苦肉の策として、事故物件を扱う別ブランドとして「成仏不動産」を立ち上げて、運営会社名は明かさないという方法を取りました。表向きはどこの会社が運営しているのかわからない形でスタートさせて、世の中がどんな反応を示すのか、様子を見ることにしたんです。すると取材依頼がけっこうあって、記事が出るとYahoo!ニュースでも多数のコメントがつきました。意外とポジティブなコメントが多かったこともあり、これは進めても大丈夫だと思いました。

ーーどのようなコメントが?
【花原浩二】事故物件に対して嫌悪感を示す人もいましたが、「こういう事業は必要だ」「事故物件が平気な人もいるよね」といった応援コメントが大半でした。こうしたコメントに、自分はもちろん、社員も勇気づけられたと思います。それから自社サイトと成仏不動産のサイトをリンクさせて、弊社が運営しているということをオープンにしました。
事故物件を嫌がる人「感覚的には8割ぐらい」

ーーほかにも苦労した点はありますか?
【花原浩二】弊社が成仏不動産をやっていると公にしたところ、それを知った銀行の支店長がいらして、「今後取り引きできなくなるかもしれませんが、よろしいですか」と言われました。いまだにオフィスを借りるのを断られることもあります。「成仏不動産」という看板を出さないと言ってもです。この本社オフィスを借りるときも、それまでに2件断られていて、ここが3件目でした。
【花原浩二】事故物件は大半の人に嫌がられます。感覚的には8割ぐらいでしょうか。「そんな物件を扱うのは変な会社だ」「何か悪いことをしているのではないか」。そういう風に見られることが多々あります。偏見との戦いですね。

ーーそんな困難があっても事業を続けたのはなぜですか?
【花原浩二】ひとつは、世の中の役に立つことに振り切ってやっていこうと決めて、この会社をスタートしたからです。もうひとつは、ビジネスという観点から見ても「逆張り」が有効だと思いました。
【花原浩二】不動産業界において事故物件はブラックボックスのようなものです。不動産としての価値を評価する基準がどこにもないので、本来は価値あるものが、不当に低く評価されている。これまで「幽霊が見えるんですか?」「近づいただけで気分が悪くなる」と言われたこともありましたが、例えば病院ならどうでしょう。病院で亡くなる方は大勢いますが、医者に「幽霊見たことありますか?」と聞く人はあまりいませんよね。これは固定概念、つまり心の問題だと思うんです。この固定概念を崩すことができると踏んだからこそ、事業を進めようと思えました。

新しい一歩を踏み出すところまで寄り添う
ーーこれまでに特に記憶に残っている物件はありますか?
【花原浩二】いろいろな物件がありましたが、そのなかで自分の価値観が変わった物件がありました。ご主人がロフトの階段で首をつって自死された、関東の築8年の戸建てです。うつ病の症状が悪化したということで、奥様が薬をもらいに病院に行っている間のことでした。ご主人は奥様を玄関までお見送りされて「ありがとう」と言っていたそうです。
【花原浩二】そのときに奥様に言われたんです。「死ぬまでここに住むと思って家を大切にしてきた。日当たりもよくて、こんなに最高の物件はないって主人と話していたんです。まさかこんなことが起きて、家を売るなんて思いもしなかった。本当にうつ病は怖い」と。

【花原浩二】自死って漠然と怖いものと思っていましたが、うつ病は自死というより病死なんじゃないか、自死は病死の一種なんじゃないかなとハッとしました。私は「事故物件が平気な人は絶対います。きれいに住んでいただいた分、高く売れますよ」と言いました。こういうことが私たちの仕事なのだと思います。
ーー事故物件を扱ううえで、大切にしていることはありますか?
【花原浩二】ご遺族の思いを汲み取ろうとすることは意識して行っています。亡くなられた方は、ご相談者の大切な家族や親族です。今日、たまたま弊社の社員が朝礼で発表していたのですが、若くして自死された方がいて、ご実家に線香をあげに行くと、とても喜んでいただいたそうです。たんに物件のやり取りだけではなく、少しでも気持ちを軽くするお手伝いをして、新しい一歩を踏み出すところまで寄り添うことができてこそ、本当の意味で「成仏不動産」になると思っています。


自死や孤独死を減らす活動も
ーー新しくスタートした「リンク・アート」プロジェクトについて教えてください。
【花原浩二】事故物件に関するアンケートで、事故物件に住みたくない理由として「運気が下がりそう」と答えた方がいました。本当に運気がよくなるかどうかはさておき、事故物件のマイナスイメージを、本物のアートのパワーでプラスに変えられないかと考えました。


【花原浩二】3年前からずっと温めていたアイデアで、ミューラル(壁画)アートを展開するJAPAN AX PROJECT株式会社の山田真史社長と出会ったことがきっかけで実現しました。こうした活動が伝われば、事故物件に対する議論が活発化するし、結果として平気な人がもっと増えるのではないかと考えました。
ーー今後の展望を教えてください。
【花原浩二】大前提として、事故物件のイメージを変えていきたいというのがあります。手段としては、アートのほかにも、例えば音楽やアウトドアなど、いろいろな切り口で事故物件を見せていこうと考えています。何か手を加えておもしろくしたってまだ安い、そういう価値観に持っていくことができれば、価格も相場に近づくのではないでしょうか。
【花原浩二】そのうえで、私たちが目指すところは、また別にあります。これを言うと偽善者と思われるかもしれませんが、自死や孤独死を減らす活動をしたいと思っています。社内で業務改善提案ボックスを設けていて、「自死もしくは孤独死を防止する団体に寄付できませんか」という意見が出ました。今期の決算が終わったら利益の10%ぐらいを寄付するつもりです。結果的に事故物件が少なくなり、成仏不動産で扱う物件が少なくなるかもしれません。そのときは、ほかの事業を立ち上げていけばいいと思っています。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・まずは始めてみて世間の反応を見る
・「逆張り」がオンリーワンのビジネスを生む
・取り引きするときは思いも大切に
取材・文=伊藤めぐみ、撮影=三佐和隆士
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