わかりやすいレールを外れた先に【いきものがかり山下穂尊の『いつでも心は放牧中』Vol.1】
東京ウォーカー(全国版)

はじめまして。今回、連載を始めさせていただく「いきものがかり」の山下穂尊です。ここでは、今まであまり話してなかった自分のことや、個人的な想いなどをつらつらと語っていければいいな、と思っています。
世の中は「こうしたほうが良い」「ああしなきゃダメ」ということがやたら多い気がする。そんな場面に出くわすと個人的には「もっと自由でいいんじゃないかな」と思うことがよくある。物事を決めすぎるとあまりいい結果にならないこともあるだろうから。そういう意味では、心を縛りつけるだけじゃなく、たまには“放牧”してあげた方がよいような気がする。
そんな“心の放牧”をするのに一番いいのは“旅”。今でも旅は大好きなのだが、その理由はもともと両親の影響もあるのだろう、と思う。
「外に出て行け」――べつに怒られているわけではない。外で遊びなさい、それが我が家の風潮だった。両親は二人とも教員なのだが、山が好きで、旅するのが大好き、そんな父と母の元で僕は育った。
通っていた保育園もいま思えば変わったところだったなと思う。記憶はおぼろげだけど、シュラフのたたみ方を教えてもらったり、ちょっとしたザイルを使っていたような気もする。いったい何を教わっていたのだろう。わからないが、そんなことを思い出しながら、子供の頃からそういう体験をするのはいいなと普通に思うことがある。
小学校のころから毎年夏休みになると、仲の良いいくつかの家族と一緒に海外旅行へ行った。オーストラリアとかカナダやアジアの国々だ。とくに印象に残っているのはカナダ。キャンピングカーを何台か借りて、広い大陸をめぐるという体験は確実に僕の中に何かを植えつけたように思う。眼前にそびえ立つ険しい山脈や鏡のような湖を思い出すと、「外に出なければ」――そんな声に突き動かされる。
フィリピンのセブ島から小さいボートに乗ってだいたい1時間くらいのところにその島はある。僕は中学2年生のときにはじめて訪れた。そこでの何日間がその後の僕の生き方と考え方の指針となった。その島は「カオハガン島」という。一周歩いて1時間もかからないという小さな島だ。
いまから30年ほど前、大手の出版社に勤めていたある人が気に入って1000万円でこの島を買った。そういうふうに言うと、お金持ちの道楽で作ったバブリーなリゾートみたいなイメージを抱いてしまうが、それとは真逆だ。彼が自身の退職金をつぎ込んで買った当初、島には住民票も持たないような現地の人たちが300人ほど住んでいた。普通なら、排除してしまうものかもしれない。しかし彼は、彼らのための学校を作り、キルトのパッチワークを教え、観光客のためのロッジを建て、彼らが現金収入を得られるようにした。島の人たちと一緒に生きて行くと決めたのだ。
父がその島の噂を聞きつけ、面白そうだから行ってみようということになり、中学2年の夏休みに訪れた。
そこには、島の人たちはもちろん、様々な種類の宿泊客たちがたくさんいた。年齢も性別も国籍もばらばらな人たちがごちゃっと集まって一緒に食事をしたり話したりしていた。僕はこのときまで、なんとなく、このまま高校に行って大学に進学して就職して――というレールの上を歩んでいくしかないんだろうなと思っていた。それ以外に何かあるとは考えもつかなかった。ところが、役者の卵やずっと旅をつづけている60代の人と実際に触れ合っていると、だんだんこんなふうな考えが芽生えてきた。
もしかしたら――そのときは音楽とは限らなかったが――わかりやすいレールを外れたところの先に何かがあるのかもしれない。それこそが自由な生き方なのかもしれない。
ご存知の通り、いきものがかりは現在「放牧中」である。自分たちのことながら、うまいこと言ったと思う。ちょっと自由になってまた戻ってくるというニュアンス。そしてふと、カオハガン島のことを思い出しながらこう思った。「そういえば僕自身は、ずーっと放牧中なのかもしれない」と。
さて、次はどこに行こう。何をしよう。
編集部
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