コーヒーで旅する日本/関西編|極小店舗と土鍋焙煎でオリジナリティを発揮。個性派スタンド「tent-coffee」が街に根付くまで

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

テイクアウトのコーヒーも、お客の目の前でドリップする


関西編の第67回は、神戸市兵庫区の「tent-coffee」。店主の佐藤さんは、コーヒー好きが高じて、会社員から転身し、沖縄のコーヒー農園で約1年働いたあとに自店を構えた、ユニークな経歴の持ち主。現地で学んだオリジナルの土鍋焙煎コーヒーを看板に、各地のイベントにも出店し、ファンを広げてきた。わずか3坪の小さな店は、まだテイクアウトが定着していなかった頃から、スタンド形式を先駆け、時間をかけて地元に定着。店構えも焙煎も、唯一無二の個性派コーヒーショップは、いかにして街に浸透していったのか。その足跡をたどった。

「tent-coffee」店主の佐藤聡一さん


Profile|佐藤聡一 (さとう・そういち)
1982年(昭和57年)、神戸市生まれ。開業前は広告会社に勤務。当時からコーヒー好きで、漠然と喫茶店のマスターに憧れを抱いていたが、偶然、目にした雑誌の記事で、沖縄のコーヒー農園ヒロ・コーヒーファームの存在を知り、飛び込みで門を叩く。約1年、沖縄に移住し、コーヒーの栽培から精製、焙煎まで携わり、2011年に湊川で「tent-coffee」を創業。各地のイベントにも積極的に出店し、2020年には、新開地に2号店の「tent-coffee Stand」をオープン。

若さゆえの衝動で飛び込んだ沖縄のコーヒー農園

祖父から受け継いだ、年季の入った店構えが目を引く

入り組んだ路地に、400以上の卸商店、専門店が集まる湊川の神戸新鮮市場。“神戸の台所”として親しまれる市場のほど近く、年季の入った「tent-coffee」の小体な店は、わずか3坪。テイクアウトが主体だが、店内には一応、カウンターもある。2人入ればいっぱいになる席はしかし、不思議と収まりがよく、「中にいると、外の世界がうそみたいに遠く感じる、とよく言われます」と屈託なく笑う店主の佐藤さん。祖父が営んでいたメガネ・時計の修理店の跡地でオープンしてから12年。今では地元の小さな拠り所として親しまれるが、この店構えだけに、できた当初は「何屋かわからん」「座れない喫茶店で何するの?」と好奇の眼で見られていたとか。まだ、コーヒースタンドという言葉が定着していない頃、このスタイルが浸透するまでは、思った以上に時間を要したという。

本店のカウンターはわずか2席。2階に焙煎室を設置


開店前、広告会社に勤めていた頃からコーヒー好きで、方々の店を訪ねていたという佐藤さん。「先々、定年退職したら、ひげを生やした渋いマスターになって、喫茶店をしたいなと思ってました」と、当時から憧れを持っていた。ただ、その時機は思ったよりも早くやってきた。当時は営業の仕事でそれなりに実績も挙げ、自己啓発のための書籍も幅広く目を通していたそうだが、「読んでいるうちに、“やりたいことをするなら今しかない”という気持ちになってきて(笑)。たまたま雑誌で目にしたのが、沖縄のコーヒー農園、ヒロ・コーヒーファームの記事。その頃は、コーヒーの収穫を見るには、ブラジルに行くしかないのか? という程度の知識しかなくて。日本で栽培していることに驚いて、考えるより先に現地へ向かっていました」

オリジナルブレンド400円は、マイルドとダークの2種


沖縄県北部で30年前に設立されたヒロ・コーヒーファームは、国内で本格的にコーヒー栽培を始めた先駆け的存在。佐藤さんの行動力には恐れ入るが、話はここで終わらない。飛び込みで訪ねて、ここで働きたい旨を農園主に直談判。一度目は門前払いとなったが、また明日来ますと言い残して、翌日再び現れた佐藤さんを見て、主も驚いたという。“本当に言った通り来る人はなかなかいない”、と熱意を見込まれて採用にこぎつけた佐藤さん。お客がおらんから大変という話は聞いたが、意を決して沖縄へ移住。農園では、収穫から精製、焙煎、併設のカフェでの抽出、提供まで、まさにFrom Seed to Cupを身をもって体感した。

「今思えば、本当に衝動的でしたが、若さゆえにできたことですね(笑)。とりあえずのつもりで1年ほどを過ごしましたが、豆の精製なんかも手作業でやっていて、これはほかではできない体験でした。帰ってきたときは、ロン毛でひげも伸びてヒッピーみたいになってて、みんなにびっくりされました」と振り返る。

テイクアウトのお客が中心。コーヒーを淹れながら会話に花が咲く


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