かつて梅酒の販売に社内は大反対だった!?市販の梅酒が売れないという常識を覆した、チョーヤのビジネス戦略とは?

東京ウォーカー(全国版)

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「さ~らりとした~う~め~しゅ~♪」というフレーズを、一度は聴いたことがあるかもしれない。これは大阪府・羽曳野(はびきの)市に本社を構える、チョーヤ梅酒株式会社が製造・販売する「さらりとした梅酒」のCMソングだ。そんな同社は、梅酒の国内トップシェアを誇る。

そして梅酒といえば、スーパーやコンビニでも当たり前のように販売されており、居酒屋などでもだいたいメニューにラインナップされているが、もともとは家庭で作るものとして認識されていたため、市販で売れるわけがないと言われていたそうだ。そのような時勢のなか、チョーヤは梅酒の市場をどのように拡大していったのか。

今回は、チョーヤ梅酒株式会社(以下、チョーヤ)企画広報推進部 次長の森田英幸さんに、梅酒の市場拡大のために実施したビジネス戦略の変遷と今後の展望について話を聞いた。

今回取材に応じてくれたのは、チョーヤ梅酒株式会社 企画広報推進部 次長の森田英幸さん【撮影=西脇章太】


梅酒の販売に社内は大反対!?厳しい状況のなか販売開始

1914年、チョーヤはぶどう栽培農家として創業。その後、ぶどうを原料とするワインやブランデーを製造していた。しかし、創業者・金銅住太郎氏が、ぶどう酒の研究のため、ヨーロッパ各地を視察した際、高品質で低価格なワインが販売されているのを目撃し、日本のワインに限界を感じたという。その後、彼は3人の子どもたちに、世界に通用する日本独自の酒の開発を託した。

「日本独自のお酒として日本酒や焼酎がありますが、すでにみなさんが製造・販売していたので、『①国内であまり手がつけられていない商品であること』『②海外にはない日本独自の商品で、将来海外で販売できる可能性があること』『③突飛なものではなく、身近で親しみやすい商品であること』。この3つの条件を満たしたのが梅酒でした」

創業者・金銅住太郎氏【画像提供=チョーヤ】


しかし当時の社内では、梅酒の製造・販売に大反対だったそうで、森田さんは「当時の梅酒といえば、家庭で作るものでしたので、なかなか理解されなかったみたいです」と語る。ただ経営陣の中では、そのころすでに市販されていた「しょうゆ」や「みそ」も、かつては家庭で作っていたことから、必ず買う時代が来るだろうという確信があった。その信念のもと、1959年に梅酒の販売を開始した。

「やはりすぐには売れませんでした。今でこそ梅酒は、だいたいどの飲食店のメニューにもありますが、当時は取引のある酒販店に持って行っても『梅酒は家で作るものだし、みんな原価を知ってるから儲からないよ』『梅酒なんか造ってると、会社が潰れますよ』などと、笑われることも多かったみたいです。こうした習慣は根強かったので、当時の経営陣は、梅酒が市場に浸透するまで、30年くらいは待つ心づもりだったようですね」

【写真】販売当初の「蝶矢梅酒」【画像提供=チョーヤ】


冷蔵庫にフィットする容器で一気に浸透!健康志向も追い風に

チョーヤは梅酒が売れるまで、ルーツであるぶどう酒やブランデーはもちろん、濃縮ジュース・粉末ジュースからヨーグルトやインスタントココアなど、時代のニーズに合わせた商品を販売していた。そして梅酒の売れ行きに変化が出始めたのは、1970年代後半のことだった。

「都市部へ人口が集中し、核家族化が進み、家庭で梅酒を作ることが少なくなっていきました。こうしたライフスタイルの移り変わりに伴い、梅酒の製品としての需要が増え始めました。そこから売り上げを伸ばしていき、1982年のテレビCMで『健康酒』としてPRしたことにより、一般家庭で親しまれるようになっていきました」

1977年に発売された「ウメッシュ瓶」【画像提供=チョーヤ】


だが、梅酒の需要が拡大していくなかで、次々に大手酒造メーカーが梅酒市場に参入してきた。このままでは売り上げが頭打ちとなってしまうため、チョーヤは次なるマーケティング戦略を打ち出した。

「1980年〜90年代にかけて登場したのが『紀州』ですね。これまでの壺タイプではなく、細長くなっています。これは家庭の必需品である『冷蔵庫』のドアポケットにぴったり入るサイズに設計しています。そうした利便性の高さもあり、一気に売れ始めました。また、1988年発売の缶入り梅酒ソーダ『ウメッシュ』の登場で、梅酒をよりカジュアルに楽しんでいただけるようになりましたね」

「紀州」(1986年)。梅酒を飲み終わったあとも「麦茶入れ」として愛用する人が多かった【画像提供=チョーヤ】

1988年に発売された「ウメッシュ缶」【画像提供=チョーヤ】


1990年代、経済の低迷が進むなかで、梅酒の市場は日常的に楽しむお酒としての認知を増やし、10年間でその規模は5倍に成長した。一方で、低価格な梅酒が多くなり、価格競争は激しくなっていった。

「市場では、梅をあまり使用していない梅酒が主力となっていました。ただ、これはお客さまの誤認を招いたり、梅を生産している農家さんの経営環境に悪影響を与えるものでした。これらの問題を受けて、2015年1月23日、日本洋酒酒造組合は梅酒の表示に関する自主基準を設けました。これにより、梅、糖類、酒類のみを原料とし、酸味料や着色料、香料を加えていない梅酒は『本格梅酒』として表示できるようになりました。弊社の梅酒全商品の9割以上が、この本格梅酒です」

「さ~らりとした~う~め~しゅ~♪」のCMソングは複数あった!CM制作の裏側とは

そんなチョーヤの梅酒の普及には、前述のとおり、CMが大きく寄与したと言える。CMはラジオ時代から続いているそうで、梅酒は買うものであること、そしてチョーヤを知ってもらうため、2代目社長・金銅和夫氏は、CMを打ち続ける決断を下したという。

そこから現在にいたるまで、いろいろなCMが放映されてきたが、なかでも有名なのは、1996年に発売された「さらりとした梅酒」の、「さ~らりとした~う~め~しゅ~♪」というフレーズでおなじみのCMソングだろう。これまでさまざまな俳優がCMソングを歌い、親しまれてきたわけだが、どのような経緯で誕生したのだろうか。

「実は現在のCMソング以外にも、別のフレーズを使ったバージョンや、そもそも歌がないパターンの3つがありました。初代はCMソングなしバージョンで、2代目からCMソング有りになりました。それで人気だったため、今でもこのフレーズをベースに、いろいろなアレンジを加えたCMを放映していますね。ちなみに、ある番組の検証で『さ~らりとした~う~め~しゅ~♪』のフレーズを聴かせると、聴いた人はリズムに合わせて首をゆらゆらと横に振るというので、話題になったこともあるんですよ(笑)」

「さらりとした梅酒」(1996年)。CMソングは、おそらく誰もが一度は聴いたことがあるだろう【画像提供=チョーヤ】


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