同じ志を持つ企業と新たな事業を共創する80&Company。プロジェクトごとの大義でパートナーとともに社会課題の解決を目指す理由
東京ウォーカー(全国版)
教材プラットフォーム『TOUCH+』を提供する80&Company。クライアントの新規事業開発支援を主に行う同社は、パートナー企業と目指す社会的な意義を“大義”と定め、それを実現するために協業・共創し、伴走する独自の運営スタイルが特徴となっている。今回は、CCOの上田伊音さんと、Communication Design Dept.の西本莉果さんに、『TOUCH+』の実例を中心に80&Companyの事業のつくり方などについて話を伺った。

パートナー企業と一緒に大義を共有し、未来を共創
ーーまずは、貴社の事業内容について教えてください。
【西本莉果】京都に本社があり、主に他社さんとの新規事業共創の伴走を行っています。社内にエンジニアが複数名いるので、システム開発もメイン事業として行っている会社です。企業理念として、事業共創の際に企業が持つ社会的な意義を“大義”と定めて、その“大義”を実現するためにパートナー企業さんと協業・共創をして、伴走することを信条としています。ですから、ただ言われたことをやるというより、社会的にどういう意味を持つか大義を定めて、そこに向かって一緒に伴走していきます。社内には、ビジネスとテクノロジー、クリエイティブという3つの主要な部署があり、そこのコアとなる部分をセットして、各事業を進めています。

【上田伊音】たとえば、イオンファンタジーさんと一緒に進めている、考える力をゲームで伸ばす『ゲームカレッジ Lv.99』は、ゲームの習い事化を目指す共創型事業になっています。“遊びが学びになる”という大義を定め、そのエデュテインメントを体現するために、ゲームが持つ学びになる部分を子どもたちに教え、楽しく学ぶことを目指しています。さらに、“保護者を悩ませる、子どもたちがゲームをしている時間も学びにしてしまう”というコンセプトにポケモンさんが共感してくださり、ポケモンユナイトのゲームをレッスンに使用することができました。このように、それぞれの事業に大義をつくることで、多くのパートナー様を巻き込んで、より大きな渦にしていくことを目指しています。
ーー大義のもとに一緒に動く企業などにアプローチする専門部署もあるのですか?
【上田伊音】いいえ。どちらかというとプロジェクトベースになっています。『ゲームカレッジ Lv.99』の場合は、先にゲームの習い事というアイデアがあり、「イオンファンタジーさんとやっていこう」となりました。このように、「こういうパートナーと、こういうサービスをつくっていこう」というパターンもありますし、パートナー企業さん側から「一緒にやっていきたい」とか「自分たちにはこういう強みがあるけれど」とご相談をいただき、それを新しい事業として価値を可視化していくパターンの、2パターンあります。

ーー話はそれますが、御社の公式サイト、デザインが素敵ですね。
【上田伊音】ありがとうございます。ホームページのコンセプトはかなり詰めていまして、使われている緑やオレンジの色は、青竹色や曙色といった日本の伝統色が使われています。京都という土地柄、伝統工芸の事業者さんと共創することも多く、さらに日本から世界に発信していくという想いも込められているんです。さらに、古来より日本文化には、襲の色目(かさねのいろめ)という着物の十二単などのように色を重ねていく文化があり、それをグラデーションで表現しています。これには、多くのパートナーさんと弊社が重なっていくことで新たな色が生まれ、それをどんどん大きくしていきたいという想いも込められています。
授業はもっと楽しく!主体的な学びで教育格差をなくす『TOUCH+』の新しいアプローチ
ーー教材プラットフォーム『TOUCH+』について、サービスの目的や特徴を教えてください。
【西本莉果】『TOUCH+』は、教員向けの教材プラットフォームです。そのコンテンツ教材として今あるのが、桃鉄の授業とJALの授業になっています。運営は80&Companyが行い、弊社のプロジェクトであるCross Education Lab.が監修、教材の制作とデザインをCOLEYOさんが行っています。

【上田伊音】誕生の背景には、身近なものの教育的価値を見出し、それを学びにしていくラボ組織、Cross Education Lab.が大きく関わっています。ここの代表・正頭英和先生は、グローバル・ティーチャー賞(教育界のノーベル賞と呼ばれる世界TOP10ティーチャー)に選出された先生なんです。ある日、先生とのブレストで社会勉強の機会や周りの人の職業の多様性など、私立の学校や都会の学校には良質な教材に触れる機会が圧倒的に多く、地域間で格差があるという話を聞きました。そして、その良質な学べる機会をなるべく無料で提供できるように新規事業をつくっていけないかというアイデアが生まれ、そこから『TOUCH+』というプロジェクトを立ち上げたという経緯があります。
ーー良質な教材を提供することが教育格差をなくすことにつながる、この考えにいたった理由を教えてください。
【上田伊音】まず、やはりこれからの時代は、弊社だけでは力は発揮できないんです。しかし、弊社の周りには正頭先生という教育のプロ、一緒に教材を作っているCOLEYOさんという教材のプロがいます。そういったプロの方から話を聞いたところ、これまでの一方的な講義形式の教育から、これからは、子どもたちがどれだけ主体的に学んでいけるか、自分たちの考えとして世の中の事象を知っていけるかということが学びのうえでとても大切だと気づきました。そして、誰でも活用できる良質な教材が重要になると感じたんです。
【上田伊音】今後、教材が増えて、学びの選択肢も増えていくので、学校の先生に『TOUCH+』からコンテンツをピックアップしてもらい、授業に取り入れてもらえればと思います。私たちの世代では、勉強って“苦しみながらやるもの”という概念がありましたが、でも、楽しみながら学んだほうが吸収しやすいですよね。正頭先生は、授業にマインクラフトを取り入れて“英語縛り”の授業をしているんです。生徒たちはみんな、マインクラフトがやりたいから英語を使っているんですよね。

ーーやりたいことを実行するためのツールとして英語がある。結果、自然と英語を覚えるわけですね。
【上田伊音】そうなんです。これまでのやり方とは逆なんですよね。モチベーションが先にあって、それが学びにつながっていくっていう。今回、選定させていただいている事業にも、桃鉄というゲームだったり、JALさんの飛行機だったり、子どもたちにとって魅力的なコンテンツをそろえました。子どもたちは、勉強するというより、好きなことを聞いて、好きなことの知識を増やしているんです。昔ながらの勉強の形も大切だと思いますが、主体的に学べるものが選択肢としてどんどん増えていくこと、それがみんなの才能の開花につながっていくのではないかなと思っています。

ーー桃鉄、JALといったコンテンツやIPとコラボする形になったきっかけと、実現させた方法を教えてください。
【上田伊音】「子どもたちは何を学びたいだろう?」「それを実現するために、どういう企業さんとコラボするのがいいだろう?」と、とにかく考えました。それで考えついたのが、ゲームや飛行機。今後、コラボさせていただきたいと考えているのは鉄道や宇宙ですね。あとはファッションでいえば、カラーコーディネートにもすごく学びの要素があります。もちろん商売やお金にも学びの要素があると思います。こうした考えのもと、子どもたちがすぐに興味を持ちやすい桃鉄、JALさんにお声掛けをさせていただきました。
ーー楽しみながらの学び。誰もがそのとおりだと思っていることですし、一方でなかなか難しいテーマですよね。
【上田伊音】正頭先生の話になるんですが、これまでの時代は、子どもたちのやる気を無理やり別のものに移動させようとしていた、と。たとえば虫捕りをしたいと思っている子どもに「そんなことしてないで宿題しなさい」といったように、やる気を移動させていたんですね。でも、正頭先生が考えるこれからの学びは、そのやる気に薪を焚べて火を大きくして、大人が「もっとこの虫をいっぱい捕るにはどうやったらできると思う?」とか「この虫に似た種類ってどういうものだと思う?」といった問いで、どんどん深掘りしていくことが学びになるという考え方になるんです。
ーー桃鉄や飛行機など、子どもが興味を持って勉強してくれそうなソースは、どのように見つけているんですか?
【上田伊音】弊社自体は、そういう部署があったり能力を持ち合わせたりしていません。社員の子どもが妖怪好きとか、そんな個人的な主観はありますけど。ただ、正頭先生は学校の先生なので、日々、子どもたちと接しています。しかも、COLEYOさんと一緒に教材を作っている会社は、自社で教室を運営し、生徒たちの好きを常に応援し続けているので、子どもの気持ちをすごくわかっているんですよ。今の子どもたちが「何を好きで何に興味があるのか」を熟知していらっしゃるんです。私たちはそういったプロの方々の話を参考に『TOUCH+』や『ゲームカレッジ Lv.99』のプロジェクトを作りました。
【上田伊音】また、Cross Education Lab.のアドバイザーに東京大学の藤本徹准教授を迎えて研究室を立ち上げ、「ポケモンのゲームにはどういう能力開発があるか?」とか「どのように教えると子どもたちが学びやすくなるのか?」という目線でゲーム×学びの研究を徹底的にしてもらいました。専門家に任せることで、しっかりした内容を構築しています。
ーー開発を進めるうえで特に苦労した点はありますか?また、もしあればそれをどうクリアしましたか?
【上田伊音】多くの会社さんがCSRの一環で学校向け教材のようなものを作っていたりしますが、『TOUCH+』は企業のために授業(教材)をつくるのではなく、授業のために企業さんに協賛してもらっています。そこが他企業との大きな違いでして、本当に授業として使いやすいものを、学校の先生目線で考えています。そして、パートナーとなる企業さんが持っているアセットのなかで、子どもたちにとって一番の学びになる部分を見つけ出しチューニングすることが難しく苦労した点です。
【上田伊音】それから、『TOUCH+』は学習指導要領に沿っているという大きな特徴があるので、学校の必要なところをクリアしながらつくっていく必要がありました。CSRの一環で実施する学校向け教材のクリエイティブとはそこが違うんです。

ーー細かいレギュレーションも多そうですね。
【上田伊音】プリント形式についても「学校だったらどういうものが印刷できるだろう?」とか「先生の負担をどうしたら一番下げられるだろうか?」と、そういうところは徹底的に考えています。
ーー開発や運営にあたり、御社のこれまでの事業で培った経験が活かされた部分はありますか?
【上田伊音】弊社が教育専門というより、さまざまな新規事業開発をするなかでBtoC向け事業も行っているので、「どうしたら利用する方にとって最適なものがつくれるか」といった視点や、教育に限らずいろいろなプレーヤーを巻き込むと「どういう相乗効果が生まれるだろう?」という思考でやっています。もちろん今回は、教育の専門のメンバーと一緒に実施しているので、我々はPRにも力を入れています。いいものをつくるという考えと、みなさんが使いやすいUX設計をして、それを広めていくこと。これがすべて合わさっていることが強みなのかなと考えています。
ーー利用された方の反響で、うれしかった声はありますか?
【西本莉果】いろいろといただきました。なかでも、チームワークで行うJALの授業で、飛行機にすごく興味があるけれど、普段友達と一緒に過ごすのが苦手というタイプの子が、授業中にすごくチームワーク力を発揮したそうです。そんな喜びの声をいただきました。
【上田伊音】あと、お客様からの反響ではないのですが、JALさんの授業は、海外の日本人学校など多くのところから問い合わせがあったそうで、JALさん自身にも喜んでいただいたようです。
ーーIP側にとっては、次の世代への新しい接触ポイントにもなりうるわけですね。この取り組みをきっかけに桃鉄を知る子どもも多そうですし
。
【上田伊音】弊社はビジネスをつくる会社でもあるので、企業さん側のニーズもしっかり満たせると考えています。IPに小さいころから親しむことで、ずっとファンになってもらうこともありますし、あとは授業の一環の社会見学などでその企業の仕事について知っていくこともできますよね。BtoBがメインで一般的にはあまり知られてない企業の「この会社のこの要素を知るとすごく学びになるし、おもしろいよね」といったところもどんどん発掘していって、可視化できるとおもしろいなと思っています。『TOUCH+』を使った授業を通して、将来その道の仕事に就いた子どもがひとりでも出てくれるといいですね。
ーー公式サイトには「小学生が実際に参加しながら楽しく学ぶことができる教材」と記されていますが、中学・高校や学習塾への展開など、今後の広げ方について現時点で考えていることはありますか?
【上田伊音】まず、年齢層に関しては特に限定していません。小学生の学習をメインで想定していますが、「高校で使いたいです」とか「中学使いたいです」という方もいらっしゃるので、個別対応にはなりますが、ダウンロードして使っていただいています。学習指導要領に沿っているので、推奨年齢はありますが、ご使用いただく年齢が低学年でも問題なくご利用いただけますよ。特に限定しているところはありません。
【上田伊音】ただ、塾など有料の習い事での展開に関しては「公立や私立、地域間などの格差なく、誰でも無料で利用できる」というコンセプト、大義と異なってしまうので、そこでの展開は考えていません。最終ユーザーの方や先生方からお金をもらわないことについては徹底しています。
ーー社会課題として、教育格差はかなり根深い問題になっています。こうした事業に取り組む御社として、知っておいてほしい現状や課題について教えていただけますか?また、こうした事業をきっかけにした目指すべき未来について、考えを教えてください。
【上田伊音】弊社は、さまざまな社会課題を抱えている人たちの活動を後押しする事業をつくっています。そういった事業観点から見ると、この『TOUCH+』で伝えたかった“主体的に学べるものが、才能の開花につながっていく”ことこそ、知ってもらいたい課題だと思っています。それは、正頭先生だったり、COLEYOさんだったり、教育の専門の方が抱いている課題感でもあります。
【上田伊音】ただ、本当に多くの会社さんが社会を変えたいと思っています。ただ、少し残念なことに、この同じ課題感を各社がそれぞれの場所で言っているんです…。一緒にやったら解決できるのにって、私は思うんです。大きな課題は、より大きな輪にならないと解決しない。大きな志で課題解決をしたい人はたくさんいます。その人たちと一緒に課題解決に成功できたらWin-Winですよね。そんな、みんなが無理しない形で課題解決できる未来をつくっていきたいと思っています。
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