【第19回】創業から108年を数える洋食店「勝利亭」。その味は、父の仕事を見て学んだもの

東海ウォーカー

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円頓寺商店街を東に歩き、アーケードが切れてすぐの場所に位置する「勝利亭」。駐車場は店のすぐ西側だ


東西に伸びる円頓寺商店街、その東端にある「勝利亭」は、老舗が数多く残る商店街のなかでも、とりわけ長い年月を重ねた老舗洋食店だ。

日露戦争の勝利を祝した店名に、歴史を感じる


3代目の野口正継さん。21歳から父を手伝い、40歳あたりから調理の主担当になった


現在「勝利亭」の主人を務めるのは、3代目の野口正継さん。もとは、かつて名古屋市中区栄にあった同じ名前の店から暖簾分けされたものであり、そうして1909(明治42)年に祖父が創業した店を父が継ぎ、やがて正継さんが継いだ。創業当時について正継さんは「さすがによくわからないねえ」と答える。だが、店名の由来が1905(明治38)年に終戦した日露戦争の勝利にちなんだものであることは間違いないようだ。

店に入って手前がテーブル席、奥には小あがりの座敷席が3卓ある


勝利亭にまつわる逸話には、歴史を感じさせるものがいくつかある。「勝利亭」は、食糧難だった戦後直後こそ一時閉店していたものの、やがて店を再開し、洋食文化が庶民的なものとして広まっていく時代には、本格的な洋食が食べられる店として多くの客をもてなした。また、円頓寺商店街にある店としてはいち早くモノクロテレビを購入し、それを目当てに住民が殺到したため、警察官が交通整理に来たこともあるそうだ。

「勝利亭」で使用しているカゴメのトマトケチャップは“特級”と呼ばれる上質なもの。トマトの風味を強く感じられる


なお “カゴメ社のトマトソース開発に「勝利亭」が関わった” という有名な話があるものの、これには少し誤解があるそう。ここでの「勝利亭」とは、円頓寺商店街に今ある店ではなく、かつて中区栄にあった店とその主人のことであり、正継さんの祖父や父が直接的に関わったわけではないそうだ。正継さんは「最近まで私も勘違いしていましたけど、よく調べたらそういうことだったみたいです」と打ち明ける。

個性的な名物「ミヤビヤ」から定番洋食メニューまで幅広く


名物メニューの1つ「エビミヤビヤ」。中央に卵が落としてあり、卵を崩して混ぜれば味わいが優しくなる


「勝利亭」を代表する個性的な名物メニューが「ミヤビヤ」だ。「エビミヤビヤ」と「チキンミヤビヤ」の2種類(各1250円)があり、デミグラスソースでエビまたはチキンと、タマネギ、シイタケを煮込み、中央に生卵を落とした、一風変わった料理である。だがどうして誕生したか、なぜこの名前なのかなど、今となっては由来が分からないと正継さんは首をかしげる。

人気メニュー「オムライス」。たっぷり食べたい人には「オムライス(大)」(1100円)もある。正継さんは小学生のころから作って練習を重ねてきた


また、庶民的な洋食の代名詞といえる「オムライス」(850円)も人気が高い。ライスをとろりと包むオムレツには刻んだロースハムが混ぜてあり、単調になりがちなオムライスの味わいにアクセントを加えている。なお、ロースハムと一緒に黒毛和牛のタンの在庫があればこれも混ざる。

「オムライス」の中身はトマトケチャップで味付けされたライス。鶏肉が追加される「チキンオムライス」(1000円)もある


このオムライスはテーブルに運ばれた時点ではなにもかけられていないので、客がトマトケチャップを自由にかけられる。「ライスの味で十分だから私はかけないけどね」と正継さんは笑うが、客からの要望が多かったのだろう。すべてのテーブルにはあらかじめトマトケチャップが備えられている。

「できる範囲で続けている」と語る、3代目主人の味


デミグラスソースの染み込んだ「ポークカツ」。肉が分厚く、付け合わせのボリュームが増える「ポークカツ(上)」(1350円)もある


「勝利亭」にはバリエーション豊かな洋食メニューがそろう。そして、これらで使われるトマトケチャップ以外のソース、カレー、マヨネーズといったものは、すべて素材から手間暇かけて仕込んでいる。例えば「ポークカツ」(950円)にたっぷりかけられたデミグラスソースは、色を付けるための加熱に5時間、肉や野菜などを入れて煮込むのに、さらに5時間をかけ、そうしてできた若いソースを、長年使い続けてきたソースに少しずつ加えていく。「そうしないと味が変わっちゃうからね」と、正継さんはこともなげに話す。

店内には2代目の訃報が掲載された2009(平成21)年の新聞が飾られている


その一方で、代を重ねるごとに店の味は間違いなく変わっていると正継さんは話す。「親父がどう作っているかを見て学んだだけです。『仕込みは見て覚えるもの、あとは自分で工夫しなさい』と言われ、しっかり教わったことはないですね」と。先に紹介した「ミヤビヤ」も、父が作ったものを食べたことはない。だが作り方は見たから知っている。それをベースに正継さんなりの工夫をして完成したのが、今ある「勝利亭」の味というわけだ。「料理人が変われば味も変わる。そういうものだと思いますよ」。

カウンターにも席が2つある。さりげなくWi-Fiの機器が設置されており通信環境は良好だ


「取材してもらっても、次の日には店を閉めてるかもしれないよ」と冗談めかす正継さんは現在69歳。店の跡継ぎはおらず、今は夫婦2人ができる限りで続けている状況だが、正直なところ「いつ店を閉めようか、いつも考えている」というのが本音だそう。実は正継さんは、この店で働くようになる前、和食の店で2年ほど修業したものの、そのあと写真の専門学校に通ったことがある。「若いころは道楽してました。けど体が動くうちに、また写真をやりたいと思っています」。無理のない範囲で、できるだけ長く続けてほしい。「勝利亭」の味と雰囲気に惚れたファンの1人として、そう願わずにはいられない。【東海ウォーカー/加藤山往】

加藤山往

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