コーヒーで旅する日本/関西編|昭和の空間で令和のコーヒーを。「COFFEE LONG SEASON」が示す継承喫茶の進化形

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

喫茶店時代の内装やカウンターのしつらえなどはそのままに。昭和レトロな空間に北欧の調度を合わせたインテリアに、沖田さんの感性が光る


関西編の第75回は、大阪市阿倍野区の「COFFEE LONG SEASON」。パリ発のサードウェーブの旗手『COUTUME』でスペシャルティコーヒーに魅了され、大阪の『TAKAMURA COFFEE ROASTER』、福岡の『COFFEE COUNTY』など、コーヒーシーンの最前線を歩んできた店主の沖田さんが、独立後の新天地に選んだのは、意外にも下町風情が残る街の喫茶店の跡。年季の入った店構えと個性際立つスペシャルティコーヒー、今時の店にはない新鮮なギャップで、新たなファンを広げている注目の一軒だ。

店主の沖田さん


Profile|沖田卓也(おきた・たくや)
1991年(平成3年)、大阪市生まれ。大手イタリアン・カフェでバリスタとして勤務したあと、パリ発のサードウェーブコーヒーショップ・COUTUMEでスペシャルティコーヒーの魅力に開眼。ダウンステアーズコーヒーを経て、大阪のTAKAMURA COFFEE ROASTERSに移り、3年の間にQグレーダー資格を取得、ハンドドリップ競技会やグァテマラの農園訪問に参加。その後、ロースター志向を高め、福岡のCOFFEE COUNTYで2年の経験を積み、2021年、「COFFEE LONG SEASON」をオープン。

国内外の気鋭店で、コーヒーシーンの最前線を経験

元々はブラジルという名の喫茶店を継承

大阪市内の南のターミナル・天王寺の南側に広がる阿倍野区。南北に路面電車が走り、古い長屋や神社も多く残る下町風情が色濃いエリアだ。住宅街の中で、40年以上続いた純喫茶を改装した「COFFEE LONG SEASON」の店構えもまた、この界隈らしい空気を伝える。「この店に出合ったのは全くの偶然。2015年に閉店して空いたままだったところに、ほぼ居抜きで入ったんです」という店主の沖田さん。

昔から喫茶店やカフェの空間が好きだったという沖田さんが、最初にコーヒーとの関わりを持ったのは、大手のイタリアン・カフェでのこと。「当時はコーヒーに関わる仕事と言っても、クラシックな喫茶店くらいで、今ほど選択肢がなかった。当時はエスプレッソに興味を持っていたので、その頃では珍しいマルゾッコの3連マシンを置いていたのは魅力でした」と振り返る。

小型の焙煎機をカウンター内に設置


ただ、バリスタとしてスタートした沖田さんが、本格的にコーヒーへと傾倒したのは、当時、パリ発のサードウェーブコーヒーショップとして話題になったCOUTUMEに移ってから。「ここでスペシャルティコーヒーに出合えたのは大きかったですね。浅煎りで際立つ、コーヒーのフルーツ的なフレーバー、果汁を搾ったような鮮やかな酸味、華やかな味わいにおもしろさを感じて。コーヒー本来のおいしさに気づきました」と沖田さん。CUTUMEは2015年、東京に日本初の支店を出店。後に大阪にも出店し、注目を集めた。ハイテクの抽出マシン・スチームパンクをずらりと並べたカウンターは、世界のコーヒーシーンの最先端を体現していた。沖田さんは、大阪店の立ち上げにも関わったが、「ちょっと早すぎた感もありますが、深煎り嗜好の強い関西にはなかった、浅煎りのコーヒーの醍醐味を提案したインパクトのある存在だったと思います」と振り返る。

その後は、ラテアート世界チャンプの澤田さんが手掛ける、ダウンステアーズで1年を経て、本連載にも登場したスペシャルティコーヒー専門店・TAKAMURA COFFEE ROASTERへ。ここでもまだバリスタ志向は強かったが、初めて焙煎に触れる機会を得て、Qグレーダー資格の取得やグァテマラの産地訪問、ハンドドリップの競技会に出場するなど、経験値を広げていった。そこから九州のCOFFEE COUNTYに移ったのを機に、本格的にロースター志向に転じる。

豆の販売コーナーには挽豆も用意。香りを比べることもできる


「COFFEE COUNTYとのご縁は、豆を仕入れている商社が大阪にあって、店主の森さんが来阪した際に会う機会を得たのがきっかけ。当時、東京に行くか、福岡に行くか迷っていましたが、コーヒーの味が自分の好みに合っていたこと、森さんが農園をたびたび訪ねた経験があり、よりクラフトマンシップを感じたことが決め手になりました。実際、少数精鋭でいろいろ経験できる環境で、ちょうど働き始めた頃に支店ができたり、移転したりと店が動いていた時期だったのもよかった」と沖田さん。ここでは休日にディスカバリーを借りて焙煎の練習をしたり、カップテイスターの競技会に出場したりと、明らかに目指す方向性が変わった。

店の端々に純喫茶時代の面影が残されている


いずれ劣らぬ個性派ぞろい、最先端のコーヒーを純喫茶で

通りに面して大きく開いた窓も、沖田さんのお気に入り。窓際奥のチェアは、元マリメッコのデザイナーのシモ・ヘイッキラが手掛けた物

それでも、独立を考えたときに危機感を持っていたという沖田さん。「いろんなお店の現場を経験して、人と違うことをしないと、という思いは強くなっていました。同じことをやっていたら埋もれてしまうと。だから、東京で評判の店を巡ったり、韓国、香港など海外のコーヒーシーン、バリスタチャンピオンの店を訪ねたりと、視野を広めるためにあちこち動き回っていました」

そうして独立した新天地が、偶然見つけた古い喫茶店の跡地。コーヒーシーンの最前線を歩んできた沖田さんの足跡から見れば、意外に感じるかもしれないが、「コロナ禍で物件探しが難しかったこともありますが、今の時代にない店の意匠が新鮮で」と、ほかにない場の個性に導かれるように開店した。店内は年季の入ったしつらえがそのまま残されているが、よく見れば、家具や調度は北欧系のデザイン。レコードから流れるBGMも、音楽好きの沖田さんならではのDJ顔負けの選曲と、単なる懐古趣味にならない取合せの妙が随所に。「ほとんど趣味丸出しの空間ですが(笑)、喫茶店とはそういうもの」と、むしろ時を経た空間の変化を楽しんでいるようだ。

アルテック社の3連チェアなど、家具は80~90年代の北欧テイストで統一。染色家・柚木沙弥郎や芹沢銈介など、壁の絵画のセレクトも注目


何より意想外なのは、コーヒーの顔ぶれだろう。常時4、5種の豆はシングルオリジンのみ。アナエロビックなど近年、注目を集めるプロセスや耳慣れない品種も時季替りで登場。ドリップオンリーで、砂糖・ミルクもなしと潔い。「コーヒーショップといえば、ラテなどのメニューは必ず置いていますが、逆に本当にドリップだけしかない店があってもおもしろいと思って」と、ここにも“人と違う”店作りで、オリジナリティを発揮している。

飲み比べれば、明るく清冽な柑橘の酸味や横溢する花の香りと、いずれ劣らぬインパクトを秘めている。たとえば、分けても珍しいコロンビアのチロソ種・ダブルファーメンテーションなどは、ハーブティーのような余韻の芳香と涼感に思わず目を見張る。また、同じエチオピアの豆を2種の焙煎度で供することも。深煎りは、チョコ的な香味の奥から果実味華やかに広がる、ウィスキーボンボンのような芳醇さ。片や浅煎りは、紅茶のようなすっきりと繊細な、花の香りが全開に。「抽出は、だしのように丸みのある味を引き出す感覚で。くいくいと飲めて、じわっと広がる後味が理想。豆本来の風味を大切にして、産地を想像してもらえるような味わいに」と、強い個性も穏やかに、染み入るような味作りに腐心する。

ドリップコーヒー600円。カップは福岡の陶芸家・畑中咲輝さんの手によるオリジナル


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