大阪のランドマーク「あべのハルカス」。駅を稼働させたまま行った大規模な建設の裏側と“日本一の高さ”への思い
東京ウォーカー(全国版)
大阪城、通天閣、道頓堀に続き、今や大阪の新たなシンボルとしての地位を確立している超高層複合ビル「あべのハルカス」。なかでも展望台「ハルカス300」は、大阪市内を中心に京都から六甲山系、明石海峡大橋から淡路島、生駒山系、そして関西国際空港などを一望でき、連日多くの来場者が訪れる。
そんなあべのハルカスが、2024年3月で開業10周年を迎えるわけだが、なぜ高さ300メートルもの超高層ビルを建設するに至ったのだろうか。また、このビルが大阪の経済にもたらした影響にはどんなものがあるのだろうか?
今回は、近鉄不動産株式会社(以下、近鉄不動産)アセット事業本部 ハルカス事業部 部長の池口太三郎さんに、あべのハルカスの誕生秘話と10年間の歩みについて話を聞いた。

「あべのハルカス」の開業で街のイメージが一新!
近鉄グループは、あべのハルカスが開業する以前から、近鉄南大阪線のターミナル駅である近鉄大阪阿部野橋駅や近鉄百貨店阿倍野店のある阿倍野の再開発に注力していたが、文教地区としての人気と、路地裏に個性的な店舗が軒を連ねる界隈性を併せ持つ街の魅力を十分には伝えられていなかったのだとか。
「当時、近鉄百貨店阿倍野店(旧館)は、老朽化や耐震性の問題に加え、増築を重ねたため、つぎはぎ状態になっていました。また、大阪全域の百貨店間の競争激化が予想されたことから、建て替えが検討されていました。そのようななかで、2002年ごろに阿部野橋駅周辺が『都市再生緊急整備地域』に指定され、建築の制限が緩和されたんです。これを機に、地域全体のイメージを一新する大規模なプロジェクトが発足しました」

「日本一の高さ」というインパクトがビル自体のプロモーションの大きな利点となり、阿倍野・天王寺エリアのイメージを一新できると考え、2014年3月に高さ300メートルの超高層複合ビル「あべのハルカス」(以下、ハルカス)を開業した。
池口さんは「阿倍野・天王寺エリアは、近鉄、JRなど4社7路線が乗り入れ、1日約80万人が利用する大阪の主要ターミナルでありながら、ハルカス開業以前は若者が近寄りがたいイメージがありました」と話す。しかし、ハルカスや広大な芝生広場が特徴的な「てんしば」の開業により、家族連れやインバウンドをはじめ、多くの人が訪れる人気スポットになった。

駅を稼働させたまま移設!大規模な建設の裏側とは?
そんなハルカスの建設背景には、“運営中の大阪阿部野橋駅を約30メートル東に移設しなければならない”という大きな課題があったのだとか。この移設作業は、駅の入口や列車停止位置の変更、さらには地下鉄やJRからのアクセスルートの調整が含まれていたため、各関係部門間での綿密な調整が必要だったそうだ。
「『逆打ち工法』という技術を用いて、限られたスペースの中で工事を行いました。これにより、地下の掘削と構築、地上建築が同時に進行できたので、工期を短縮することができました。一方で、大量に発生する資材の保管場所や工事車両の搬入動線、資材揚重の制約など、施工における大きな問題もありましたが、『あべのハルカス近鉄本店』の1階を地上作業用、地下1階を地下構造作業用の資材置き場として活用することで問題を解決し、工事の効率化を図りました」

こうして完成したハルカスには、今や年間4000万人以上が訪れている。その設計には、「ビルだけが賑わうのではなく、地域と共に発展していきたい」という思いが込められている。「建物内外にデッキや自由通路を設け、ハルカスを訪れる方々が街を回遊していただくことを意識しています」と池口さん。
「ハルカスの形状は少し台形状になっていますが、これは大阪特有の西風の影響を抑え、ビル風をできるだけ減らす目的もあります。また、ガラス張りにすることでビル内の人々の動きがうかがえるようにし、地域との親和性を感じられる設計となっています」


“日本一の高さ”を「麻布台ヒルズ 森JPタワー」に譲り渡したが…。
長らく高さ日本一の超高層複合ビルだったハルカスだが、2023年11月に開業した東京・港区の「麻布台ヒルズ 森JPタワー」が高さ330メートルでその記録を更新し、日本一の座を譲り渡すこととなった。しかし、池口さんは「高さはいつかほかのビルに抜かれるので、開業当時から問題視していませんでした」と語る。
「開業初期の“日本一の高さ”というワードによって得られた強烈な発信力と、インパクトを十分に活用し、今ではハルカスは単なる高層ビルを超えた“大阪のシンボル”として広く認識していただいています。また、最上階の展望台においても、その本質的な価値は“日本一の高さ”ではなく、圧倒的な開放感と、まるで空に浮かんでいるような浮遊感のある眺望にあります。さらに、大阪府のほぼ中心に位置し、関西一帯を見渡せるのは、ほかの展望台には決して真似できない強みだと思っています」
展望台は、ハルカスの名を世の中に発信し続けるためのPR機能もあるのだそう。「かこむ de こたつ」をはじめとするユニークかつエンターテインメントにあふれたイベントを行い、さまざまなメディアを通じてハルカスの名が人々の耳目に触れ話題になる、といういい循環を生んでいる。


2024年3月で誕生10周年!次なるキーワードは「コネクト」
2024年3月に開業から10周年を迎えるハルカス。かつてキタ(梅田エリア)は「働く街」、ミナミ(なんばエリア)は「遊ぶ街」、そして阿倍野・天王寺エリアは「暮らす街」の位置づけだった。しかし、コロナ後のリモートワークの普及もあり、暮らす場所と働く場所が融合し、“暮らす街”の在り方そのものが変わろうとしている。
特に阿倍野エリアは、ハルカスやてんしば、Q’sモールなどができたことで、「働く」要素と「遊ぶ」要素も加わり、多様な属性の人々が多様な目的で集うユニークな場所となった。
そんななか、近鉄不動産はすでに次なる目標に向けて動き始めている。
「これまで築いた集客力と発信力を活かし、エリア全体のさらなる活性化を目指すため、これからは、この街に集う人や地域を繋げていく『コネクト』がキーワードになると考えています。たとえば、17階の『soranosu』やメタバース空間『バーチャルあべのハルカス』を通じて人と人を繋ぐ取り組みや、展望台、美術館などハルカス館内施設と天王寺公園『てんしば』、地元商店街など周辺エリアを繋げることで、ハルカスを含めた阿倍野・天王寺エリアならではの魅力を生み出せるように、引き続き尽力していきます」



ハルカスは、もはや超高層複合ビルという枠を超え、“大阪のシンボル”として多くの来館者たちを魅了している。国内はもちろん、世界中から人々やビジネスが集う阿倍野・天王寺エリアは、ハルカスを中心に今後どのような可能性を生み出していくのだろうか。これからの展開に期待が膨らむばかりだ。
取材・文=西脇章太(にげば企画)
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