ホワイトデーの発祥は福岡の菓子店だった。マシュマロから始まった“お返し文化”のルーツに迫る
東京ウォーカー(全国版)
今年2024年も、早くも3月に突入し、「ホワイトデー」まであと少し。この時期は、バレンタインデーのお返しを思案している人も多いはず。ということで今回はホワイトデーにちなんだ話題をピックアップ!調べてみると、この「ホワイトデー」という文化は日本発祥なのだという。今や海外にも浸透しているカルチャーだが、日本人特有の「お返し文化」を形にしたことからホワイトデーが誕生したのだとか。そしてそれを考案したのは、福岡に拠点を構える菓子店『石村萬盛堂』。1905年(明治38年)に博多で創業し、『鶴乃子(つるのこ)』や『祝うてサンド』など、博多への想いが込められた菓子を製造販売する老舗だ。

では、いつ、どのようにしてホワイトデーが生まれて、今の時代に根づいてきたのか。企画マーケティング室の夏田正明さんにストーリーやエピソードを交えて教えていただいた。

今やホワイトデーといえば、バレンタインデーとセットの“二個一”的なイベントとして認知されていることだろう。しかし、調べてみるとそうではないことがわかった。バレンタインデーは、その昔「キリスト教圏で恋人や家族など大切な人に贈り物をする」という習わしが起源となっている(諸説あり)。かといって、その対となるイベントが同時にあったわけではない。むしろ、ホワイトデーのような文化風習が海外には存在せず、「バレンタインデーのお返しをする日」として設定したのは、日本の、福岡にある菓子店『石村萬盛堂』だったのだ。しかも、ホワイトデーの起源に関しては“諸説ある”わけではなく、『ビジネス記念日データブック』(日本経済新聞社)にも正式に記載されている揺るぎない事実だという。
時は1977年(昭和52年)、当時の石村僐悟(ぜんご)社長は、新しい菓子作りのヒントがないかと雑誌を眺めていたところから構想が始まった。
「当時の社長が雑誌をパラパラとめくっていたところ、『男性からバレンタインデーのお返しがないのは不公平。ハンカチやキャンディー、せめてマシュマロでも…』という投稿記事を見て、『お返しをする日』を思いつきました。というのも、バレンタインだったりクリスマスだったり、贈り物をする日はけっこうありますよね。でも『お返し』をする日がなく、日本人特有の“お返し文化”を残していきたいという想いが根底にあり、そういう発想にたどり着いたそうです」

そんな、日本独自のお返し文化を表現するために誕生したのが「マシュマロデー」。「バレンタインデーに君からもらったチョコレートを、僕のやさしさ(マシュマロ)で包んでお返しするよ」というコンセプトでスタートした。そう、最初は「ホワイトデー」ではなく「マシュマロデー」という名称が起源だったそうだ。

もらったチョコレートをふわふわなマシュマロに包んで感謝の気持ちを伝えるという、なんとも粋な発想だ。しかし一説には、マシュマロを贈ることはその人のことが「嫌い」だとか、「気持ちには応えられない」と解釈する風潮もある。そんななか、マシュマロを採用した経緯や想いもぜひ多くの人に知ってほしい。
「マシュマロデーで相手に贈る品として、最初に挙がったのが『鶴乃子』をベースにした菓子でした。明治時代から作られる『鶴乃子』は、マシュマロ生地で黄味餡をくるんだ創業当時からの人気商品です。そして試行錯誤した結果、チョコをくるんだマシュマロに行き着きました。確かに、マシュマロを相手に贈ることをマイナスの意味で捉える方もいます。でもそうではなく、ちゃんと意味合いや願いを込めているので、むしろネガティブなイメージを変えていければという想いもありました」

そうして誕生したのが、今でも販売されているチョコマシュマロや苺チョコマシュマロなど、もっちりでふんわり食感のマシュマロ生地と甘いチョコクリームが味わえる定番商品だ。では次に、なぜマシュマロデーが「3月14日」に設定されたのだろうか。今考えれば、「バレンタインデーから1カ月後」というのは、贈り物を準備する期間としてはほどよいタイミングに思える。そんな日付を決めるにあたり、いろいろな意見や狙いがあったのだとか。
「当時、日付を決めるにあたり、女性社員を集めた企画会議で、3案が挙がりました。『①バレンタインデーの日付を逆さまにして4月12日』、『②バレンタインデーから一週間後の2月21日』、『③1カ月後の3月14日』の3案です。①は間延びしてしまうのではという意見が挙がり、②はさすがに早すぎるのでは…など、なかなか決まらないでいたそうです。そんななか、福岡随一の百貨店である岩田屋さんにも相談したところ、『そら石村さん、一番ひまんなる(暇になる)3月14日がベストやね』と提案をもらい3月14日に決まりました」
確かに、2月はバレンタインデー、4月は入学や新生活のお祝いで活気づくイメージだが、3月は年間を通じて目立ったイベントがない。商業的な側面からみても、3月14日が最善だったということだ。しかし、マシュマロデーを始めた当初、世の中になかなか浸透せず、数年苦労の期間が続いたという。
「初年度は岩田屋、次年度は日本橋三越にて催事を行いました。催事初日の売り上げは8万円でしたから、やはり、新しいことへのチャレンジは並大抵のことではありませんよね。それでも、毎年マシュマロデーのポスターや広告を作り、全国の百貨店で催事を行うなど地道にマシュマロデーをPRしていきました。そうして7〜8年続けたところ、百貨店側から『マシュマロだけでなくもっと幅広くお返しの文化として展開できないか?』と提案があり、『マシュマロの白』を想起させる『ホワイトデー』へと名称変更したのです。当時を振り返り、苦労はしたけどそのおかげで市場ができあがってうれしかった、と当時の社長は実感していたようです」

こうして「ホワイトデー」として世の中にお返しの文化ができあがり、今や、マシュマロだけでなく、お菓子や衣類など、贈り物自体も多様化している。もちろん、石村萬盛堂では、今でもホワイトデーにはマシュマロのギフトBOXを展開し、バレンタインデーの倍近くの需要があるのだそう。近年では2021年にリニューアルした本店で、ホワイトデーの歴史を示したパネルや当時のポスターを展示するコーナーが登場。福岡在住のミニチュアフード作家・みすみともこさんとコラボした企画も展開し、この時期を大いに盛り上げている。



そんな石村萬盛堂は2025年で創業120周年を迎える。2021年の本店リニューアルに加えて、2021年には「祝うてサンド」、2022年には「羽かたっ子」と新商品を次々にリリース。周年という大きな節目にも期待が高まるところだ。
「今当社は、来年の120周年を目前に大きな変革期を迎えています。今後もお菓子を通じて、博多の歴史・文化などに触れることができるようなお菓子作りを心がけてまいります。消費者のみなさんにとってうれしいお知らせがいろいろとできればと思いますので、楽しみにしていただければと思います!」
最後に「ホワイトデー発祥の店として、これからもこの文化を風化させないように盛り上げていきたいですね」と夏田さん。ホワイトデーが生まれた根底には、お菓子への愛情と日本のよき文化を大切にしたいという心意気があると感じた。今後の石村萬盛堂からも目が離せない。
取材・文=森川和典、撮影=川崎賢大、画像提供=株式会社石村萬盛堂
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