コーヒーで旅する日本/九州編|喫茶文化を未来へとつなぎ、型にはまらない思考でコーヒーを昇華させる。「COFFEEMAN」は正統か、異端か?
東京ウォーカー(全国版)
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州・山口はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州・山口で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第96回は福岡市六本松にある「COFFEEMAN」。開業は2016(平成28)年と、福岡でもスペシャルティコーヒーを柱としたカフェやスタンド、ロースタリーが増え始めたころで、しかもちょうどシングルオリジン全盛の時期。ただ、「COFFEEMAN」はあえてブレンドのみで勝負した。この姿勢からもトレンドや時流に迎合しないスタンスであることがわかる。しかも店のスタイルも古き良き喫茶店を彷彿とさせる雰囲気で、メニューはコーヒーのみ。当然、写真映えするスイーツなどもない。
そんな同店は9年目に入った今、老若男女に愛される店となり、海外からの観光客もわざわざ狙って訪れる。周囲に惑わされることなく、コツコツと毎日を積み重ね、独自のブランド、世界観を作り上げた「COFFEEMAN」。マスターの江口崇臣さんの考え、コーヒーの味づくりの着眼点、ユニークなアイデアにじっくり触れてみたい。

Profile|江口崇臣(えぐち・たかおみ)
福岡県出身。高校卒業後、海洋土木の会社に就職し、その時期に多種多様な人が集い、各々の時間を過ごす喫茶空間に惹かれ、コーヒーの世界を志す。福岡市内の自家焙煎店などで働く中で、2012(平成24)年、自身のコーヒーブランド「COFFEEMAN」を立ち上げ、デリバリーや間借りで活動スタート。その後、コーヒーの知識・技術を高め、より良いコーヒーを追求するために2013年、豆香洞コーヒーの門を叩く。後藤直紀氏のもとで焙煎について一から学び直し、2014年ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップにて優勝、翌年ワールド コーヒー ロースティング チャンピオンシップで9位入賞。2016年2月、六本松に「COFFEEMAN」を開業。
ずっとカウンターの中の人で

当連載が始まってまもなく100回目を迎えようとしている。2021年11月からこの連載を続けてきて、ずっと「『COFFEEMAN』はいつ、どのコーヒー屋さんからバトンが渡されるのか」が気になっていた。というのも私自身、同店が2016年2月に開業してすぐに取材でお世話になり、それから何度も取材に訪れては、オーナーの江口崇臣さんとコーヒーについてたくさんのことを話し、独自の味づくり、独創的なチャレンジに触れては驚かされてきたからだ。

江口さんは世界一の焙煎士として全国的に知られる豆香洞コーヒーの後藤直紀さんに師事し、自身も2014年ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップにて日本一の栄冠を獲得した凄腕のロースター。このことからも改めて福岡・九州のコーヒーのレベルが高いことを実感する。当然、輝かしい実績や今までの歩みから自家焙煎を不動の柱に開業・独立を決めたと思われがちだが、実はちょっと違う。
「当初、開業資金のやりくりで発生した注文の遅れ、船便の遅延などが重なり、開業予定日に焙煎機が納品・設置が間に合わないという事態になりそうだったんです。ただ私としては、それはそれで仕方ないし、まぁ良いか、と思っていて。結果的には間に合ったわけですが、もし焙煎機が届いていなくても、予定通り2月11日に開業するつもりでした」と江口さん。その真意は屋号に込められている。
「『COFFEEMAN』とは、要はコーヒーを媒体としたカウンターマンのこと。会社員をしていた時代、お客として通い、その立ち振舞、空気感に憧れた喫茶店のマスターのようになりたかったんです。だから極論コーヒーは自家焙煎じゃなくても、納得のコーヒーが手に入るなら仕入れでも良い。もちろん焙煎は今もしていますが、カウンターマンか焙煎士かどちらか選べ、と言われたら私はカウンターマンを選ぶでしょうね」と笑う。
型にはまらないブレンドメソッド

屋号にコンセプトの一つでもある「Roasting&Planning Café」と付けているように、一人ひとりに合ったコーヒーを提案したいというのが江口さんの思いの根底にある。コーヒーを淹れ、カウンター越しにお客と会話する中で、オーダーされたコーヒーとは焙煎度合いが異なるブレンドをお試しで提供したり、ブラックで飲む以外に少量のシロップを入れることで味わいが一変する体験をプレゼンしてみたり、いつもと違うコーヒーの楽しみ方を発信。地道だが、カウンターマンらしいコーヒーの奥深い世界へのアテンドの仕方だと感じる。

「六本松という街に馴染む店になりたい」と店をオープンした当初から口にし、2年も経つと「六本松のコーヒー屋さんといえば『COFFEEMAN』」と認知は広まった。そして、開業9年目に入った今、同店は新たなステージへと確実に歩み始めている。

まず注目したいのがシーズナル、アニバーサリーといった期間限定で出すブレンド。例えば夏ブレンド「4・2」の商品説明には緑黄色野菜、カボス、ストーンフルーツなど、コーヒーの味わい表現としてはあまり目にしないフレーズが並ぶ。実際に飲んでみると、どこか青々しさを感じるフレーバーや、エッジが効いた酸味が広がる刺激的な味わい。ともすればエキセントリックな味わいのため好き嫌いが分かれるとは思うが、コーヒーは焙煎、ブレンドを通してまだまだできることがあって、セオリーからあえて外れる勇気が生み出したから見えてくるモノ・コトがあると感じられる一杯だ。
聞くと、このチャレンジングなブレンドは、ただ単にシングルオリジンをかけ合わせるわけではなく、ある程度完成したAというブレンドと、Bというブレンドのかけ合わせ、つまりは“ブレンド×ブレンド”という複雑な味づくりをしているという。

「もともとブレンドを柱とした店づくりを続けてきた中で、コーヒー豆を組み合わせることで生み出せる味わいの階層、複雑性の表現のパターンはもっとあるはずだと感じていました。その中で実践してみたのがブレンドとブレンドのかけ合わせ。このようにブレンドというのは、アプローチの仕方から見直せば、違った味わいを表現できるポテンシャルをまだまだ秘めていると感じています」と江口さん。
さらに、単一品種の豆でも焙煎度合いを変えて焼き、それをブレンドするという独自のシングルオリジンを作っているという。当然、普通に焙煎するよりも2倍、3倍の時間を要するし、手間もかかるが、江口さんは自身が納得できるよりベストな味わいの追求を諦めない。だから、店を訪れる度にこちらも新鮮な気持ちを取り戻せるし、やる気や活力をもらえる。
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