一度きりの人生のために、即身仏が教えてくれたこと
東京ウォーカー(全国版)
山形県の中央には羽黒山、月山、湯殿山の出羽三山と呼ばれる山岳地帯がある。古来この場所では、山の自然と信仰の結びつきを伝える修験道が生まれた。現在でも山伏修行をしたり、人生をリセットするために修行する若人たちが増加中。その出羽三山の行者達の中で、今から300年以上も前に即身仏となった人々がいた。彼らはなぜ即身仏になったのか?酒田市の海向寺を訪ねた。

究極の修行を達成した瞬間、上人たちの見たものは?
そもそも即身仏とは何か?土の中の石室に生きたまま入り、経を唱えながら絶命した遺体を数年後に掘り出して乾燥させた仏様のこと。飢餓や病に苦しむ人々を救済するために、究極の修行の果てを目指して、何人もの行者たちが挑戦した。国内には10数体現存するが、山形県から新潟県・村上にかけた地域ではその半数を超える。気候が厳しく餓えに苦しむ民が多かったこと、出羽三山で修行する行者が多かったためか。

即身仏になる修行は過酷の一言。草や木の実だけを食べて、死後腐敗の原因になる体内の水分や脂分を限界まで削ぎ落して石室に入る。しかし、遺体が腐って即身仏になれなかった無念の行者もいた。あまりの苦しさに途中で逃げ出す者もいたが、逃避した行者には極刑が待っている。即身仏になると決めた以上、もはや生きて帰る道はない…。
どんな時代であっても、人は悩み、苦しむ
忠海上人と円明海上人という、全国でも唯一2体の即身仏が奉られている寺を訪ねた。空海が1200年前に開いたと伝わる、真言宗智山派「砂高山 海向寺」だ。両人とも18世紀に生きた人物だ。海向寺本堂の隣、即身仏堂内の祭壇の扉が開かれると鮮やかな法衣をまとった上人の姿が現れる。彼らが俗世への退路を断った日から300年後の今も、こうして私たちに姿を見せてくれるのは“奇跡”としかいいようがない。むしろ、上人たちのすさまじいまでの意志の力と信仰心があったからこその“必然”なのか…。彼らが生きた時代とは違い、今は豊かになり、重い病も治すことが可能だ。それなのに、生きる悩みや苦しみがあふれている。現代人の苦悩を見越すかのように、上人たちはこの姿になったのかもしれない、と特に宗教心がなくてもそんな気持ちになる。与えられた生を全うし、自分自身が納得のいく人生を送りたい、そう思った1日だった。


名作「おくりびと」のロケ地がすぐそば!

ちなみに、海向寺のすぐ近くに映画「おくりびと」(本木雅弘主演、滝田洋二郎監督。2008年公開)のロケ地となったNKエージェントの建物(旧割烹小幡)がある。庄内地方の美しい街並み、鳥海山などの自然風景が物語に彩りを添える。生と死、そして人生のエンディングを深く考えさせられる映画。NKエージェントのクラシックで大変趣のある建物は、映画を見た人ならば、さまざまなシーンを思い起こさせてくれるだろう。
東野りか
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