コーヒーで旅する日本/四国編|90年代に体感したカフェブームが原点。人が集まり、新たなカルチャーが生まれる場に。「HACHIO COFFEE」

東京ウォーカー(全国版)

X(旧Twitter)で
シェア
Facebookで
シェア

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

眉山の山裾という立地もあって、街なかとは思えないのどかささえ漂う


四国編の第23回は、徳島市の「HACHIO COFFEE」。街のシンボル・眉山の麓に立つ、一見、民家のような店構えもユニークな一軒だ。1990年代後半のカフェブームに影響を受けた店主の橋本さんは、幼馴染と共にカフェを立ち上げた後、地元の焙煎卸の老舗で本格的にコーヒーの仕事を経験。ロースターとして個性を放つ豆の品揃えを提案しつつも、うんちく抜きの肩肘張らない雰囲気で地元の支持を得ている。橋本さんの柔和な人柄も手伝って、さまざまな人が混ざり合うここは、徳島に新たなカルチャーを生みだす拠り所になりつつある。

店主の橋本さん


Profile|橋本崇功 (はしもと・たかよし)
1975(昭和50)年、徳島市生まれ。大学卒業後、機械メーカーに勤めた後、地元の仲間からの誘いで雑貨店併設のカフェの立ち上げに参加。約3年半の営業を経て、焙煎卸の老舗・徳島ブラジルコーヒに入社。営業から焙煎まで、13年に渡ってコーヒーに関わる仕事を経験し、2022年に独立して「HACHIO COFFEE」をオープン。

幼馴染の誘いがきっかけで、カフェへの憧れを形に

焙煎所とスタンドが一体になった空間はお客との距離感も近く、カウンターでの会話も弾む

市街地の真ん中にむっくりとそびえる徳島のシンボル、眉山のお膝元。山を背負うように立つ「HACHIO COFFEE」の店構えは、一見すると民家そのもの。看板がなければ、うっかり見過ごしそうになる。「ここは、僕が生まれ育った祖父母の家。1階の一室と玄関だけを改装して、店のスペースとして造り変えたんです」という店主の橋本さんの半紙を聞けば、さもありなん。まさに、橋本さんの家にお邪魔したような感覚だが、焙煎機や抽出器具が揃う店内はれっきとしたロースターの雰囲気。このユニークな空間が生まれるまでの経緯は、1990年代まで遡る。

大学卒業後、県外の会社に勤めていた橋本さんだが、20代後半の頃に地元徳島にUターン。きっかけは、地元の幼馴染から、カフェを併設した雑貨店の立ち上げに誘われたことだった。当時はカフェブームが全盛の頃で、その波は全国を席巻していた。「まさにブームの真っただ中で、新しいカフェに刺激を受けましたね。店の立ち上げに参加したのはカフェへの憧れからでしたが、始めるにあたって、わからないながらもコーヒーの味にこだわりたいと思ったのが、コーヒーとの関わりの始まりでしたね」と振り返る。カフェでは自家焙煎コーヒー店の豆を使っていたが、その頃は徳島市内でもロースターはまだ少なかった。

玄関の佇まいを残す入口。店内は民家の趣を生かした空間がリラックスした雰囲気を醸し出す


友人と3人で始めた店は、3年半ほどで雑貨店が独立することになり、カフェはいったん閉じたが、橋本さん自身はコーヒーへの関心を深めたのを機に、戦前から続く地元の焙煎卸の老舗・徳島ブラジルコーヒに転身する。「カフェ運営での経験を買われたのか、営業職で入って、すぐに製造部門で焙煎に携われることになって。飲食店の仕事に関わるつもりでいたから、入社した時は自分が焙煎に関われるとは思いませんでした」と、本人も驚きの抜擢だった。その後は、営業・配達もしながら焙煎もして、喫茶店の卸やオリジナルのブレンドの開発まで、一人で何役もこなしたという。

ユニークな空間は地元の仲間のつながりの賜物

地元の同業者との勉強会を通して、常に焙煎技術をアップデート

その間に、スペシャルティコーヒーの存在を知ったことで、本格的にロースターへの道を描き始めた橋本さん。「徳島でもいち早くスペシャルティやCOEなどの豆も扱い始めていました。SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)の展示会に参加したり、コーヒーに関する資格も取得したり、専門的なことは、ここで一から学びました。この時にはすでに、サードウェーブが話題になっていて、ブルーボトルやフォーバレルといったアメリカのコーヒーショップのカッコよさに影響を受けて、ロースターでの独立を考えるようになったんです」

その頃には、社内で焙煎を一任されるほどになっていた橋本さん。徳島ブラジルコーヒには、業務用の60キロサイズのフジローヤルや、オールドプロバットなど、さまざまなタイプの焙煎機があり、さらには直営ロースタリーカフェの立ち上げ時には、四国でも1,2を争う早さでローリング・スマートロースター30キロも導入。最新の焙煎機に触れる機会を得たことも、貴重な経験の一つだ。「当時としてはとてもいい環境でコーヒーに向き合えたのはラッキーだったと思います」という通り、13年に渡ってコーヒーにまつわるあらゆる業務に携わったことで、自らの店のイメージも明確になっていったという。

アナエロビックの豆を配合した、ブレンド・ダーク600円。まろやかな香味にスパイス・ハーブ系の芳香が際立つ


「どちらかというと、ずっと裏方の仕事をしてきたので、お客さんの目の前でコーヒーを淹れて、話をしながら楽しんでもらうスタイルでやりたかった」という思いを形にした「HACHIO COFFEE」は、ロースターとしてこれまで経験したことを表現できる場であり、お客と直に接する交流の場として2022年にスタートした。地元出身であり、カフェやコーヒー会社で培った幅広いネットワークを持つだけに、開店にあたっては、多くの友人、知人が携わっている。

食器は、かつて一緒に立ち上げに参加した雑貨店・CUE!から、エプロンは藍住町のアパレルブランド・ジョックリックのオリジナルと、いろんな分野の地元の仲間とのつながりが店を形作っている。「だいたい同世代で、活躍してる人も多く、刺激をもらっています。それぞれの店のお客さんが、ここに来たりして、今もその輪は広がっています」。焙煎所とスタンドが一体になったような空間は、専門店の堅苦しさとは無縁。民家の趣を残すリラックスした雰囲気が、お客との距離も近づけ、カウンターでの話にも花が咲く。

コロンビア ウィラ エルディヴィソ農園750円。桃のようなみずみずしい甘味が印象的。シングルオリジンは液体の色を見せるためガラスカップで提供


  1. 1
  2. 2

この記事の画像一覧(全10枚)

キーワード

テーマWalker

テーマ別特集をチェック

季節特集

季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介

いちご狩り特集

いちご狩り特集

全国約500件のいちご狩りが楽しめるスポットを紹介。「予約なしOK」「今週末行ける」など検索機能も充実

お花見ガイド2025

お花見ガイド2025

全国1300カ所のお花見スポットの人気ランキングから桜祭りや夜桜ライトアップイベントまで、お花見に役立つ情報が満載!

CHECK!2025年の桜開花予想はこちら CHECK!河津桜の情報はこちら

花火特集

花火特集2025

全国約900件の花火大会を掲載。2025年の開催日、中止・延期情報や人気ランキングなどをお届け!

CHECK!全国の花火大会ランキング

CHECK!2025年全国で開催予定の花火大会

おでかけ特集

今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け

アウトドア特集

アウトドア特集

キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介

ページ上部へ戻る