コーヒーで旅する日本/四国編|90年代に体感したカフェブームが原点。人が集まり、新たなカルチャーが生まれる場に。「HACHIO COFFEE」
東京ウォーカー(全国版)
人とカルチャーが交わり、新しいことが生まれていく場所に

ここでは、「気軽にさらっとコーヒーを飲んでほしい」という橋本さん。定番のブレンドは地元の嗜好に合わせて、エチオピア主体でさっぱりとした中煎り、ほのかに苦味が出るくらいの中深煎り、油分が出るほどコクのある飲み応えの深煎りと、深めの焙煎度で3種を用意。片やシングルオリジンは浅煎り主体で、時に希少な豆も登場するが、飲みやすさを重視したセレクトを提案している。「徳島は深煎り嗜好が根強いが、若い方は逆に苦味を避ける傾向があって、浅煎りから入ってコーヒー好きになる人が多い。コーヒーを勉強している方もいて、お客さんから教わることもよくあります」
店ではコーヒーの蘊蓄を披露することはまずないが、味作りには独自の試みを随所にのぞかせる。例えば、中深煎りのブレンド・ダークには、近年広まりつつあるプロセスの一つ、アナエロビックの豆を配合。シングルでは独特の発酵香が前面にでるが、ブレンドでは強い個性がスパイスのように効いて、ありそうでなかった新鮮な風味は印象的だ。「最新のプロセスで、香りに特徴がある豆を少し入れると味の立体感が際立ちますし、組み合わせの幅も出てきます」と橋本さん。また深煎りのダーク80は、当初ウォッシュドだけの配合だったが、「切れが良すぎたので、甘みとコクを加えたい」と、インドネシア・ガヨマウンテンのナチュラルを配合するなど、細やかに工夫を重ねている。

また、本連載に登場した、同じ徳島のカモ谷製作舎・岡崎さんとトーコーヒー・森田さんが始めた焙煎の勉強会にも、立ち上げから参加。「焙煎の技術も時代ともに進化もしています。前職ではきっちり教わったわけでもなく、自分でやりながら覚えていったところがあるので、改めて学ぶことが多い」と、開店後も常に味作りを磨き続けている。
基本は豆の販売が主体だが、不定期で入荷する焼菓子も楽しみの一つ。店のデザインを手掛けた設計士の奥様が営むfew coffee stand、bake shop TAMU、カフェJohnと、仕入れ先も橋本さんとつながりのある市内の人気店から。逆に、それぞれの店に橋本さんがオリジナルブレンドを提供しているという、まるで物々交換のような近しい関係も、この店ならではだ。地元の人のつながりでできたこの店では、「来てくれたお客さんとおしゃべりしつつ、コーヒーを淹れて、いろんな人が集まれる場が理想。その時、コーヒーはどこか傍らにあればいいという感覚。コーヒーショップではありますが、それだけでなく、いろんな人の個性、カルチャーがここで混ざって、新しいことが生まれていく拠り所になれたらと思っています」と橋本さん。その思いは、最初にカフェの立ち上げに携わった頃から変わらない。この店の大らかな空気は、まだSNSなどなかった頃、人が集まることの価値の大切さを知る世代だからこそ。ロースターとしては新しいが、経験豊富なオールドルーキーが、かつて憧れたカフェの持つ力を体現している。

橋本さんレコメンドのコーヒーショップは「sumiyoshi4丁目 COFFEE STAND」
次回、紹介するのは、同じ徳島市の「sumiyoshi4丁目 COFFEE STAND」。
「店主の石くんに出会ったのは、まだブラジルコーヒーに勤めていた頃。開業してすぐ、営業として店を訪ねたのが縁の始まり。コーヒーの話で意気投合して、独特の世界観に刺激を受けました。コーヒーに対する思い入れが深く、味わいにも、柔らかな人柄がにじみ出ているように感じます。バリスタとしての修業経験が長く、うちにはないエスプレッソ系のメニューが充実しているのも魅力です」(橋本さん)
【HACHIO COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル3キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ウェーブドリッパー)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(600円~)
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン5種、100グラム800円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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