観光客からも大人気なのになぜ地元限定販売?250年続く伊勢の銘菓「へんば餅」のこだわりに迫る

東京ウォーカー(全国版)

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伊勢の銘菓といえば「赤福」が有名だが、同じくらい地元の人々に愛されている「へんば餅」という銘菓をご存知だろうか。江戸時代から続く老舗の餅菓子で、三重県出身の筆者も伊勢を訪れた友人には必ずおすすめするほど地元に深く根付いている。

さらに伊勢市以外での販売は行っていないのにもかかわらず、観光客からも長年愛されているほどの人気ぶりだ。

そこで今回、へんば餅を製造・販売する有限会社へんばや商店 専務取締役 深井幸典さんに、地元限定販売にこだわる理由などについて話を聞いた。

地元・伊勢では、赤福派とへんば餅派で分かれるほど


江戸時代から続くへんば餅。近年は外国人観光客も増加中

江戸時代中期の1775年、伊勢神宮への参拝客でにぎわっていた宮川の渡し場近くでへんば餅は誕生した。当時、渡し場より先は神域とされ、動物の立ち入りは禁じられていたため、旅人は「返馬所」に乗ってきた馬を返さなければならなかった。その近くで食べられていたことから、「返馬所(へんばじょ)=へんば餅」の名が付いたと言われている。

「『赤福』が参拝客向けのお土産として知られる一方で、弊社の 『へんば餅』は地元の人々の日常に根ざしたお菓子として親しまれてきました。明治時代以降、宮川に橋が架かり客足が遠のくと、地元・明野で商売を始め、地域に密着した餅菓子屋として発展しました」

画:浮世絵師・歌川広重「伊勢参宮宮川渡しの図」。安政頃(1855〜1860年)の宮川の渡し場が描かれている


1975年ごろの宮川店開店を機に、再び伊勢の市街地でもその名が知られるようになり、今では伊勢を代表する銘菓となっている。へんば餅は現在でも伊勢市内の4店舗でのみ販売されているが、地元に根ざした企業であり続ける理由とは一体?

「ありがたいことに他府県からの出店依頼はあります。そうすれば、たしかに規模が大きくなり売り上げも増えると思いますが、その分従業員の方には苦労をかけてしまいます。そして何より、地元の方に支えていただいて今の弊社があるので、地元の方に深く長く愛していただける企業であり続けたいのです」

ただ、顧客層は店舗によって異なる。本店は9割を地元客が占めているのに対し、宮川店は観光客と地元客がほぼ同数で、伊勢市駅前店やおはらい町店は顧客の9割が観光客なんだそう。「2013年の伊勢神宮の式年遷宮(※新しい社殿を造営して御神体を遷すこと)や昨今のインバウンド観光客の増加により、海外の方にもへんば餅を知っていただく機会が増えました」と語る深井さん。

【写真】明治初期の面影をそのまま残す「へんばや本店」の外観

「おはらい町店」は、外観から店内まで江戸時代の茶店の風情が色濃く残る空間となっている


素材本来の味と地元価格にこだわるワケ

健康志向の高まりを受け、食品への関心がますます高まっている今日。自然な素材本来の味を活かした食品への注目が集まるなか、へんば餅も創業以来、添加物を極力使用せずに製造している。

「現代であれば、食品添加物を加えて消費期限を延ばすことも可能です。しかし、そうすることで素材本来の味や香りが損なわれてしまい、どれも似たような味になってしまいます。製造日を含めてわずか2日という短い消費期限も、添加物を極力使用していないからこそなのです」

短い消費期限はへんば餅の魅力であるものの、売り上げの面では課題もあるのだとか。深井さんは、「伊勢神宮内宮前の『おはらい町店』では、お土産としてご購入いただく観光客の方が多く、消費期限が短いことが購入の決め手にならないケースもあります」と話す。一方で、「日持ちしないことは、添加物が少ないことですよ」「伊勢でしか食べられない餅菓子として、他県の人たちに誇りを持って紹介できる」と評価する人も多くいたりと反応はさまざまだ。

「値段に関しても、観光客向けではなく、地元の方が気軽に楽しめるような価格設定にしています。値上げしたい気持ちもなくはないですが、地元のお客さまに長く愛される商品であり続けるため、これからもお買い求めいただきやすい価格にこだわっていきたいと考えています」

「へんば餅 20個入(箱)」(1900円)


2025年で誕生250周年!追求するのは“へんばや商店らしさ”

へんば餅の商品パッケージはどこか懐かしい素朴なデザインが特徴だが、デザイナー出身の深井さんは初めて見たときに「古臭い」と感じ、一新したいと思った時期もあったとか。しかし、現社長からのひと言でその認識は大きく変化したという。

「社長に『都会のデパートで見かけるようなおしゃれなデザインより、素朴なほうが“田舎に来たと思ってもらえる”でしょう』と言われ、深く納得したのを覚えています。観光客の方々は都会の華やかさではなく、素朴で温かみのあるものを求めて伊勢を訪れるのだと気づかされましたね」

また、2018年に個包装の商品を発売した際も、一部の地元民から「個包装はおしゃれすぎる。あの素朴なパッケージこそがへんば餅だよ」といった声があがったようだ。「洗練されたデザインよりも、あえて素朴さを残したシンプルなデザインを作るほうがずっと難しいのだと痛感しましたね(笑)」と振り返る深井さん。

「へんば餅(個別装)」(1個100円)。手土産にぴったりで、衛生面も安心の人気商品だ


そんなへんば餅は、2025年で誕生250周年を迎える。今後の取り組みについて深井さんは、「老若男女問わず、多くの方々に楽しんでもらえるようなイベントを1年を通して開催したいと考えています。地元のみなさまはもちろん、伊勢を訪れる観光客の方々にも、ぜひへんば餅の魅力を知っていただきたいです」と意気込んだ。

もうすぐ年末年始。お伊勢参りの際は、ぜひ一度へんば餅を手に取ってみてはいかがだろうか。口溶けのよいこし餡のまろやかな甘みで、1年の疲れを癒やし、心身ともにリフレッシュしてみては?

取材・文=西脇章太(にげば企画)

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

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