コーヒーで旅する日本/関西編|素朴な疑問から広がったコーヒーの世界。多くの人の縁を得て進化を続ける継承喫茶。「カフェ シルフィード」

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

奥に長く伸びるカウンターは、お客との会話を生む大切な接点でもある


関西編の第91回は、大阪府八尾市の「カフェ シルフィード」。いかにも老舗の趣ある店は、店主の加藤さんが子どものころに家族で訪れた思い出の場所。長じて、半世紀以上続いた喫茶店を引き継いだのは2001年のこと。「コーヒーはずっと好きでしたから、理由はほぼそれだけだったかも」と、偶然の縁で継承してから、新たなコーヒーの魅力に気づき、持ち前の好奇心と行動力で、自家焙煎を始めるまでに。知らないがゆえの謙虚な姿勢で同業の先達に教えを請い、この店は少しずつ進化を続けていった。「とにかくいろんな人に助けられてここまでやってこられました」という加藤さんが、店を継いで20年を超えて感じる心境の変化とは。

店主の加藤さん


Profile|加藤光子(かとう・みつこ)
1971年(昭和46年)、大阪府生まれ。母の影響で幼いころからコーヒー好きに。偶然の縁から、地元で50年続く喫茶店を引き継ぎ、2001年に「カフェ シルフィード」として開店。スペシャルティコーヒーとの出会いをきっかけに、2010年ごろから本格的にコーヒーのクオリティを追求し、同業者やコーヒー愛好家が集まるコーヒーアミーゴス関西の活動にも参加。4年前から自家焙煎に切り替え、多彩なコーヒーの魅力を発信している。

偶然が重なって引き継いだ思い出の喫茶店

長年続いた店の歴史を感じる、レンガ造りの重厚な店構え

大阪市の東隣、中小の製造業が集まる“モノづくりの町”としても知られる八尾市。町の中心である近鉄八尾駅前の商店街からほど近い裏路地にある「カフェ シルフィード」の店構えは、一見するとレトロな純喫茶の趣だ。「ここは元々、1970年代にボンジュールという名で創業して、オーナーを変えつつ続いてきたお店で、私で4代目になります」とは店主の加藤さん。今でも、長年ここに通う常連客が少なくない。かつては界隈にも多く点在した喫茶店も減るなかで、創業時の姿を残す希少な一軒でもある。実は、地元出身の加藤さんにとっても、子どものころに家族で何度か訪れた思い出の場所でもある。再びこの場所に縁を得たのは、全くの偶然だったという。

ガラスケースの中には、先代店主が残したアンティークが飾られている


「たまたま、この店が入っているビルの上階にある実家に帰ってきたのがきっかけ。そのとき、ここはしばらく閉店していた時期でしたが、ちょうど私も生活や仕事の環境が変わったタイミングでもあり、ひょんなことから店を引き継ぐことになったんです。今思えば、勢いで始めたようなところもあります (笑)」。とはいえ、加藤さんの母親は、家でハンドドリップするほどのコーヒー好きで、自身も中学生のころからコーヒーに親しんでいたこともあり、「コーヒーはずっと好きでしたから、引き継いだ理由は、ほぼそれだけだったかも」と振り返る。

ただ、喫茶店での経験はほぼゼロからのスタート。当初はコーヒーも焙煎卸業者から仕入れていた。まさに、それまでの喫茶店の延長のような状態だったが、開店から10年ほど経ったとき、コーヒーに対する素朴な疑問が湧き始めたという。「当時はスペシャルティコーヒーが出始めたころで、豆の名称も産地や農園などの表記が細かく付くようになっていました。他店に行って飲んでみると、同じ産地でも味が全然違うと感じて、何でだろうと思ったのを機に、自分なりに調べ始めたんです」。あるときは東京まで出向き、日本最大のコーヒーの展示会・SCAJを訪れ、都内のコーヒー店を方々飲み歩き、自分の店とコーヒーに対するアプローチが全然違うことに気づいた。なかでも決定的だったのは、当時、話題になっていたゲイシャ種の味に触れた体験。「今まで飲んできたものとは全くの別物。自分が知らないコーヒーの世界があると思い知った体験でした」

希望すれば、色とりどりのカップから好みの一客を選べる


以来、本格的にコーヒーを学び直すべく、コーヒーマイスターの資格も取得。SCAJのセミナーやワークショップにも積極的に足を運んだ。東京大学で開催されたコーヒーサロンでは、池本幸生教授をはじめ、コーヒーハンターとして知られるミ・カフェートの川島良彰氏や、神戸のコーヒー商社の老舗・石光商事の石脇智広社長らの登壇者に、話を聞きに行き、懇親会にも参加。それが縁で、コーヒー好きのサークル・コーヒーアミーゴスの存在を知り、今では日本サスティナブルコーヒー協会が主催する障害者バリスタの競技会のボランティアなどの活動に参加し、同業者とのコミュニティが一気に広がっていった。

同業の仲間を得て現れた心境の変化

焙煎時は1分ごとに窯の温度変化を記録。「パソコンもつなげますが、アナログの方が自分には合ってます」と加藤さん

自らを、「向こう見ずな性格なので」と評する加藤さん。「コーヒーを学び始めた当時は、どこにでも突撃していきました。多分、若かったんですね(笑)。とにかくいろんな人に助けられてここまでやってこられました」と加藤さん。知らないがゆえに、謙虚に先達の話を聞ける姿勢が、この店に少しずつ変化をもたらしていった。

関西でもいち早くスペシャルティコーヒーを扱っていた、東大阪の田代珈琲に豆の仕入れ先を変えると共に、さらに教えを請いながらコーヒーの知識を深めた。その後、自家焙煎をも始めたのは、コーヒーアミーゴスの仲間の存在が大きかったという。「焙煎については、みんなに背中を押してもらったようなもの。大きな焙煎機を入れてはどうかとも言われましたが、私はこまめにいろんな豆を出したいので」と、1キロサイズを導入。店内フロアの真ん中に機体を据えて、日々豆と向き合っている。

焙煎機はフロアの真ん中にあり、豆が焼き上がると店内に芳しい香りが広がる


現在、豆のストックは約15種まで増え、入れ替えながら10種ほどを店で提供。最新のプロセスや希少な銘柄など、その多くはコーヒーアミーゴスをはじめ、これまで出会った人々の縁で仕入れた豆だ。たとえば、グアテマラのグッドコーヒーファームズの豆は、以前、加藤さんが沖縄のコーヒー農園を訪ねた際に、代表のカルロスさんに会い、そこから直接やり取りするようになったそうだ。
 
多彩なコーヒーを主役にするべく、メニューも徐々に軽食やスイーツを絞ってシンプルに。とはいえ、スペシャルティコーヒーにいまだなじみの薄い土地柄でもあり、「最初からコーヒーに関心のあるお客さんは少ない。ここは、コーヒー専門店ではなく喫茶店から始まっているから、日常のコーヒーの選択肢をちょっとずつ広げていく感覚」と加藤さん。焙煎度も極端な浅煎りはほぼ置かず、長年通うお客にも比較的親しみやすい、中~深煎りのレンジで提案する。

ドリップバッグや豆を組み合わせたギフトも好評


「パッと開く香りでなく、ゆっくりと伸びる味わい、飲み応えを重視しています。お客さんの反応は千差万別ですが、こんな国のコーヒーは聞いたことないとか、大陸ごとにコーヒーの産地があることを知らなかった、という声も聞きますね」。それゆえ、注文時の会話のやり取りを大切に、普段の飲み方や淹れ方を丁寧に聞く。注文に迷うお客も多いため、注文前に試飲して選べるようにしているのも独自の工夫の一つだ。最近では、日替わりの2種のコーヒーを楽しめるペアリングセットも登場した。「お客さんに対しては、何でも聞いてくださいね、という姿勢は常に持っています。それが自分の勉強にもなるし、私もかつて訪ねたお店で、同じように何でも答えてくれたのがすごくうれしかったから」と、自身の経験を重ねている。

個性派ぞろいのシングルオリジンは、加藤さんが得た人の縁の広がりと共に幅を広げている


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