香港のミシュラン三ツ星獲得レストランのシェフが愛用！実はスーパーでも買える身近な調味料とは？

“町中華”や“ガチ中華”のブームもあるが、家庭でも比較的よく食卓に登場する海外のメニューのひとつ中華料理。メニュー別に調合された合わせ調味料も数多くあるが、鶏ガラスープの素や豆板醤など中華調味料をそろえているという人も多い。一般家庭でも比較的よく使う中華調味料の中でもメジャーな調味料を、実は香港のミシュラン三ツ星獲得レストランのシェフが愛用しているという。実際に香港のレストランで聞いた。

伝統的な広東料理レストラン「富臨飯店」

香港では知らない人はいないという「富臨飯店」は、1977年に創業したアワビ料理専門店。創業者の故・楊貫一(ユエン クーン ヤット)シェフは「アワビ大王」の別名を持つアワビ料理のスペシャリストで、干しアワビの調理法を研究した第一人者。日本産のアワビの質の高さを評価し、お店で使用することで、日本の海産物の魅力を広く香港の人たちに知らしめた人でもある。そして現在の料理長、黄隆滔(アダム・ウォン ロントウ)シェフは1992年から楊料理長に師事。中華廚藝学院でのマスターシェフクラスを終了し、フランスのブルーリボン料理協会の会員資格を取得している。

今回、機会を得て黄隆滔料理長の料理をいただくことができた。富臨前菜盛り合わせのあとに出てきたスープ「メロン、魚の浮き袋、サザエのスープ」に驚く。魚の浮き袋は「花膠」と書く中国高級食材で、なかなか口にすることができない貴重なものだ。柔らかく煮込むことでその食感と、スープがしみ込んだ味わいはこれまで食べたことがない感覚。メロンが入っているのも初めてで、とてつもなくやさしいスープに感動。

次の料理は「アワビとナマコの煮込み・花しいたけとレタス添え」。アワビもまた高級食材だが、実はこのアワビは日本産。楊シェフの時代からこちらのレストランでは日本産のアワビのみを使用している。日本産のアワビは質がよく、味も間違いないと、中国料理では珍重されている。逆を言えばそれ以外はここでは使えないと言う。アワビは大きさによって価格が異なるが、「富臨飯店」では食べ応えのある大きめサイズを使用。じっくりと味を含ませるように煮込んでいく。

仕上げは目の前でシェフが手掛ける。このとき加えた調味料が李錦記のオイスターソース。シェフは計量することなくドボドボと鍋に入れていく。香港のスーパーはもちろん、日本でも比較的簡単に、どこのスーパーでも購入できる、なじみのある調味料だ。シェフいわく、「この煮込みはオイスターソースが味の要となりますが、『李錦記』のオイスターソースを使っています。いろいろ試しましたが、これが一番おいしい」とのこと。高級食材を使った料理の味を決めるのが、スーパーで購入できるなじみのある調味料ということに驚く。

オイスターソース発祥は「李錦記」

ここでオイスターソースについて少し説明したい。オイスターソースは新鮮な牡蠣のエキスをたっぷり使った調味料で、日本でも代表的な中華調味料として知られている。ちなみに、「李錦記」はオイスターソースを作った企業。創始者が1888年に世界初のオイスターソースを誕生させた。

日本では1960年代から「李錦記」のオイスターソースが販売されるようになったが、2003年に「李錦記」がエスビー食品と販売提携したことで、日本のスーパーでは日本の一般家庭向けのパッケージで販売されている。香港で充填されてラベルを貼ったボトルが日本で販売されていて、香港で売られているものとは少し粘度が違うが、味はほぼ同じ。つまり、ミュシュランの星を獲得するレストランのシェフが高級食材を料理するときに使っている調味料は、実は我々が手軽に購入できるものだったということだ。

オイスターソースは日本でもどこのスーパーでも購入できるので、知らない人はほぼいないと言っていいだろう。だが、どこの家庭にもある、とまでは言えない。その理由ははっきりとはわからないが、使い道がわからない、使いこなせると思えない、料理をよくする人が使う調味料などと思われているのではないだろうか。

日本ではオイスターソースは炒め物に使うことが多い。レシピを検索しても“〇〇のオイスターソース炒め”か、もしくは“隠し味”として使うメニューかなりの割合を占める。先に紹介した日本向けのオイスターソースの粘度が異なるのはこのためだが、日常でそうそうオイスターソース炒めを作らない、隠し味で使うなら使い切れない、だからオイスターソースを常備していないという人がある程度いるように思う。

だが、黄シェフにオイスターソースの使い道について聞いてみると意外な答えが返ってきた。「よく食べるのは母が作ってくれたゆでた鶏肉にオイスターソースをつけたもの」だという。やや拍子抜けするようなシンプルな“料理”だが、それこそがオイスターソースの醍醐味。「オイスターソースは塩味、甘味、旨味、コクのすべてを備えた調味料です。そのため中華から洋食まで幅広く使え、下味やつけダレなどにも使えます」と黄シェフ。炒め物に使うことが多い我々日本人に「ゆで野菜や鶏肉をつけたり、麺にあえたりして食べてみてください」と黄シェフ。オイスターソースに複雑な味わいがあるため、素材そのものと合わせるだけで立派な料理になるという。

また、黄シェフは「日本料理では醤油、みりん、砂糖など複数の調味料を合わせて使うことが多いが、オイスターソースはそれらの要素がすべて入った調味料。例えば、オイスターソースで肉の下味を付けるとしたらたった15分でもしっかり味が付きます。冷凍肉であれば味付けや旨味を引き出すだけでなく、臭みを取ってツヤを出すという効果もあります」と話す。黄シェフは下味や煮込み料理によく使っているそうだが、驚きなのがデザートやアイスクリーム、飲料にまで使うという。まさに万能調味料だ。

黄シェフは「料理人としてオイスターソースは必ず店でも常備している調味料です。私はオイスターソースから常に刺激を受けていますし、さまざまな美食を作るインスピレーションの源」と語る。

ほかの調味料を足していかなくても、これだけでしっかりと味付けができるので手間をかけず、シンプルな手順でお店のような味が作れるというオイスターソース。黄シェフは、日本でも同じようにもっと身近な調味料として活用してほしいと話す。

プロが愛用する、お店でも欠かせないという調味料が実は日本でも身近なところにあり、しかも簡単な食べ方でその醍醐味を実感できるとは、大きな発見だった。ミシュラン三ツ星のレストランに行くことは、なかなかかなわないかもしれないが、手始めに、ゆでた野菜や鶏肉にオイスターソースを付けて食べるという、レシピ不要な使い方でその魅力を試してみてはいかがだろうか。

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