「思い出がそのまま真空保存されているよう」不登校の少女とトイプードルのかわいくて大変な日々をコミカライズ『おはよう、サンテ』インタビュー

東京ウォーカー(全国版)

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「犬、飼おうか」。母の一言がきっかけで、トイプードルの子犬を飼い始めた女の子・ロンズ。「サンテ」と名付けられたトイプードルは、心と体の調子を崩して学校に通えないロンズの毎日を少しずつ変えていく――。

心身の不調に悩む女の子・ロンズが、家族でトイプードルを飼うことに作:むぴー


カクヨムコン9のエッセイ・ノンフィクション部門で短編特別賞を受賞した、肥前ロンズ(@misora2222)さんのエッセイ「うちのわんこの話をさせてください。」。愛犬サンテとの出合いから最後のお別れまでを描いた同エッセイを漫画家・イラストレーターのむぴー(@mupyyy)さんがコミカライズ。『おはよう、サンテ 不登校の私を救った愛犬との日々』として書籍化する。

肥前ロンズさんが書き下ろしたサンテとの思い出を大幅に加え漫画化した同作について、コミカライズ担当のむぴーさんに描くうえで大切にしたポイントや、印象に残ったエピソードなどを聞いた。

「しんどい部分も含めてとても正直に」愛しいばかりじゃない“愛犬”との日々

「おはよう、サンテ」1話(01)作:むぴー


――肥前ロンズさんの原作を初めて読んだときの感想をお聞かせください。

【むぴー】初めて原作を読んだときは、サンテのお葬式で「うちにはこんなわんこがいたんだよ。そのわんこはこうやって生きたんだよ」とぽつりぽつり話すロンズさんの話を、隣で聞いているような感覚がありました。

淡々としている文章なのに、なんでこんなに悲しみと愛を感じるんだろう。まるで静かな祈りのようなエッセイだなと思ったんです。

あとから、このエッセイがサンテの火葬の前日に書かれたということを知り、とても納得しました。自分の家族であるサンテを失った直後のロンズさんの感情とサンテと過ごした日々の思い出が、そのまま真空保存されているような文章で、だからこそ読む人の心に深く深く入ってるのだろうなと。

――コミカライズをするうえで、肥前ロンズさんから「こういうところを大事にしてほしい」と言われたポイントはありますか?

【むぴー】事前にはこれといったご指摘はなく、自由に描かせてくださいました。ラフ(大筋の下書き)ができたあとは、犬を飼う際に大切なことや介護の内容や手順について間違った部分がないかを細かくチェックしてくださり、大変助かりました。

あとは、ただ犬をただかわいく描くのではなく、ちゃんと犬の恐ろしさも描いてほしいと言われました。「犬は人を殺す力を持っていて、意思疎通ができなければ誰かを殺したり傷つけたりする可能性もある」ことを忘れてはいけないと。そんな犬が、人間の暮らしに合わせてくれていることと、それを踏まえた飼い主の責任についてロンズさんが感じてきたことをわかち合ってくださったんです。ほかのやりとりでも感じましたが、ロンズさんは物事を本当に深く、本質的に見ているのだろうなと思いました。すごい人です。

トイプードル「サンテ」は臆病だけど気ままな子犬作:むぴー


――むぴーさんの方から、漫画にするうえで大切にしたことや、提案したことがあれば教えてください。

【むぴー】原作が素晴らしいうえに、コミカライズ用に書き下ろしてくださった内容も膨大だったので「できるだけ原作をそのままコミカライズしよう」と思いました。なので、私の方での創作や過度な演出はほぼありません。エピソードの順番を少し変えたくらいだと思います。もとの文章を活かして、あえて原文をそのままモノローグとして入れている部分もとても多いです。

――サンテの表情や仕草が豊かで「いるだけで愛らしい」というロンズの気持ちが伝わってきます。サンテを描くうえでのポイントや参考にしたところはありますか?

【むぴー】ロンズさんがサンテの写真をたくさん送ってくださったので、それを一度全部スケッチして、イラストにして参考にしました。やはりサンテ本人の写真が一番の資料でした。また、実際に犬カフェに行ってトイプードルに触ってみたり、抱っこのしかたを教えてもらったりもしました。

――ちなみに、むぴーさんご自身も犬との暮らしの経験はありますか?

【むぴー】私自身は犬を飼ったことがないんです。プレーリードッグはあるのですが……。はじめにコミカライズのお声がけをいただいたときは、「犬を飼ったことのない私が作画担当で大丈夫だろうか」と不安にも思いました。その一方で、私の経験からくる感覚や表現を入れることなく、ロンズさんが感じたことをそのまま描写できるかも、とも思いました。

――そんなサンテと過ごすロンズは、心身を崩して学校に通えていません。コミカライズではロンズをどんな風に表現しようとしましたか?

【むぴー】その部分はロンズさんが書き下ろしでとても詳しく描写してくださったので、その内容をもとにコミカライズしています。不登校中は考えること自体ができず、常に頭の中がぐちゃぐちゃでそれまでできていたはずの簡単な足し算もできなかったことや、家にいるにもかかわらずずっと「家に帰りたい」と思っていたことなど、その辺りの描写はすべて実際にあったことです。

サンテと過ごす日々がはじまっても、時折恐怖がロンズを苛む作:むぴー


――コミカライズでは原作からさまざまなエピソードが追加されています。むぴーさんが特に印象に残ったエピソードを教えてください。

【むぴー】エピローグですね。「エッセイ自体は火葬の前日に書かれたものですが、サンテが亡くなって半年ほど経った今は、何か心境の変化はありますか?」とお聞きしたときに、今現在の心境を書いてくださったんです。その内容がエピローグになりました。そしてエピローグの最後のセリフがタイトルにもなりました。少しのせつなさと希望を感じる素晴らしいエピローグだと思います。

――本作を描き終えての思いと、読者へのメッセージをお願いします。

【むぴー】正直に、犬と一緒に育つという経験をしたことのない私としては「うらやましいな」と思いました。こんな風になにかを愛する経験は誰もができることじゃないと思います。本当に特別な経験だなと。
また、犬を飼うことのいい部分だけでなく、大変な部分やしんどい部分も含めてとても正直に描かれているのもこの作品の特徴です。その中でロンズとサンテがどうやって通い合いお互い学んでいったのかも描かれていて、犬との関係だけでなく、すべての人間関係にも当てはまる大事なことがたくさん詰まっています。

今までに犬を飼ったことのある人にもない人にも感じることの多い本になったと思いますので、ぜひ読んでいただけるとうれしいです。

ふてぶてしくて都合無視、だからこそ愛おしいサンテ作:むぴー


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