コーヒーで旅する日本/四国編|コーヒーがつないだホンジュラスとの縁。「カトラッチャ珈琲焙煎所」が生産者とともに広げる笑顔のサイクル
東京ウォーカー(全国版)
コーヒーはよい縁をつなぐパワーを持つ宝物

産地の危機とコロナ禍を経て、「カトラッチャ珈琲焙煎所」は、2023年春、現在地に移転リニューアル。カウンターにずらりと並ぶ豆の紹介カードには、すべて“~さんのコーヒー”と生産者の名前が表記。誰が作ったのか一目でわかる提案は、この店のスタンスを体現している。ひと口にホンジュラスといっても、大きく6つの産地があり、さらに農家ごとに風味の個性が異なる。「カトラッチャ珈琲焙煎所」は、その醍醐味をつぶさに体感できる、全国的にも稀有な場所といえる。
とはいえ、今井さんは、ことさらそれを前面に出すことはないという。「店のあり方については、意識して客観的、俯瞰的に見ているところはあります。あまりホンジュラスのことを推しすぎると、お客さんとのギャップが出てしまう。伝えたい情熱はもちろんありますが、店の運営はできるだけフラットに。それよりは、産地に経済的に貢献することが、本来目指すべきところ。ダイレクトトレードの本質は、中間業者がないぶん相場より高く仕入れられて、かつ、作柄に関わらず持続的に購入を継続するところにあります。例えば、品評会入賞豆などは評価は瞬間的に上がりますが反動が大きく、その年だけで終わることもあるので、農家と一緒においしいコーヒーを求めていく関係作りが大事です」

ダイレクトトレードは、コーヒー店だけでなく、生産者にも情熱がなければ続かない。そのために、今井さんは今も生産者の支援を続けている。「両方が生き残れるように協力し合って、お互いの立場をわかり合って未来につなげることが大切。その信頼関係は、現地で直接、顔を合わせ、何でも言い合える間柄があってこそ。そういう取り組みが奏功すると、味の変化はお客さんにも伝わります。実際に“去年よりおいしい”とか、“豆の見た目がきれいになった”という声が届いています。それを伝えると、聞いた生産者にも喜んでもらえます」。そのサイクルを広げていくことが、今井さんの目指すところだ。
コロナ禍で長らく産地との行き来ができなかったが、2023年、ホンジュラスからナンシーさん、アルトゥーラさん、マリセラさんの3人が「カトラッチャ珈琲焙煎所」を訪れた。5年ぶりの再会は、今井さんにとっても感慨新たにする出来事だったという。「店では3人がコーヒーも淹れてくれたんですが、それを飲んで涙を流すお客さんもいて、さらにそれを見たナンシーさんも涙する光景を見て、ずっと会えなかったけど、コーヒーで心はつながっていたんだな、と、ハッとしてうれしくなりました」

今井さんもホンジュラス訪問を再開する一方、今夏には初の試みとして、ホンジュラスから交流生1人を店に迎える予定だ。「現地の方にとって、日本に来ることはすごく大きな出来事。今できること、思い描いてきたことが1つ実現できて、この店がコーヒーに関わる人が行き来するプラットフォームになればと思います。今までは自分ひとりのイメージを追ってきたけど、これから関わる人が増えるほどに、想像を超えたことが起こる気がします。この先に起こる出来事を、私は本を読むように楽しむだけ」と今井さん。開店以来、メニューはほぼコーヒーオンリーだが、今年から、新たにパティシエの手塚さんが加わり、近隣の食材を使ったスイーツも充実させている。また、2024年秋からは、ホンジュラスのカカオ豆を使ったチョコレートの製造もスタート。「ビーントゥバーで、コーヒーと同じようにスイーツも、顔が見える素材を使いたい」と、また一つ、この店に新たな魅力が加わった。
振り返れば、この店を形作ってきたのは、今井さんの情熱と行動力から生まれた人のつながりだ。「いいコーヒーはよい縁をつなぐと思います。そういうパワーを持っているコーヒーは私の宝物です」。今井さんの言葉は、これまでの歩みそのもの、実感に満ちている。

今井さんレコメンドのコーヒーショップは「アロバー」
次回、紹介するのは、香川県高松市の「アロバー」。
「創業30年以上の老舗ですが、店主の梶さんは2代目として店の方向性を大きく変え、サードウェーブの流れに乗ってコーヒーのダイレクトトレードにいち早く取り組んでこられたパイオニア。新しい風を吹かせて、現状を変えることを肯定できる勇気をもらえた、リスペクトする一軒です。今も毎年、ニカラグア、エルサルバドルの農園を訪ねていて、いつかホンジュラスにも一緒に行けたらと話をしています。近年は、香川で初のスマートロースター15キロを導入。とんでもない焙煎機と、とんでもない情熱にあてられるお店です」(今井さん)
【カトラッチャ珈琲焙煎所のコーヒーデータ】
●焙煎機/ディードリッヒ 12キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(ECM)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/あり(600円~)
●豆の販売/シングルオリジン8種、100グラム800円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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