セバスチャン・スタン主演の映画『顔を捨てた男』を鑑賞。顔に極端な変形を持った男が新しい顔を手に入れたことで奇妙な出来事に巻き込まれる不条理劇!
東京ウォーカー(全国版)
2025年7月11日より全国公開された『顔を捨てた男』は、顔に極端な変形を持つ主人公が顔を変えて新たな人生をスタートしたあとに奇妙な出来事に巻き込まれていく様子を描いたスリラー。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。

【ストーリー】
顔に極端な変形を持つ、俳優志望のエドワード(セバスチャン・スタン)。隣人で劇作家を目指すイングリッド(レナーテ・レインスヴェ)に惹かれながらも、自分の気持ちを閉じ込めて生きてきた。
ところがある日、エドワードは外見を劇的に変える過激な治療を受け、念願の新しい顔を手に入れる。
過去を捨て、別人として順風満帆な人生を歩み出した矢先、目の前に現れたのは、かつての自分の「顔」に似たカリスマ性のある男オズワルド(アダム・ピアソン)だった。
その出会いによって、エドワードの運命は想像もつかない方向へと猛烈に逆転していく…。

マーベルヒーロー俳優がルッキズムを痛烈に風刺した作品に挑戦!
本作のメガホンをとったのは、『Go Down Death(原題)』(2013年)で長編監督デビューし、長編2作目『Chained for Life(原題)』(2018年)では『顔を捨てた男』の重要キャラクター・オズワルドを演じたアダム・ピアソンを主演に迎えて話題を集めたアーロン・シンバーグ監督。
そんなアーロン監督とタッグを組んだのは、マーベル・スタジオ作品『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)でウィンター・ソルジャー(バッキー・バーンズ)役に抜擢され、以降の同シリーズ7本に出演し、昨年公開された『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』ではトランプを演じて第97回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたセバスチャン・スタン。

『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』でスティーブ(キャプテン・アメリカ)の親友だったバッキーが、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』でスティーブの敵ウィンター・ソルジャーとして登場した時にものすごく驚いたのを覚えている。
ウィンター・ソルジャーがあまりにもかっこよくて、公開当時はキャプテン・アメリカよりもバッキーに恋してしまっていた。それ以来、セバスチャン・スタンのことをセバスタと呼び、着実にキャリアを築いていく彼の出演作品を追いかけるようになった。
セバスタはウィンター・ソルジャーで大ブレイクしたあと、元フィギュアスケート選手トーニャ・ハーディングのスキャンダラスな半生を描いた『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2018年)や、モトリー・クルーのドラマー役を演じたドラマシリーズ『パム&トミー』(2022年)、カニバリズム映画『フレッシュ』など幅広い作品に出演してきた。
そんなセバスタが本作で演じるのは、顔に極端な変形を持つ俳優志望のエドワード。(ハンサムな)新しい顔を手に入れて、恋も仕事もうまくいき始めた矢先に、ある男の出現によって運命が思わぬ方向へと逆転してしまう主人公を好演している。

エドワードの隣人で、劇作家を目指すイングリッドを演じるのは、主演映画『わたしは最悪。』(2021年)でカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞し、近年では北欧のホラー映画『アンデッド/愛しき者の不在』(2024年)での息子を亡くした母親役が印象的だったレナーテ・レインスヴェ。
『わたしは最悪。』では30歳になっても人生の方向性が定まらず、周りの人間や恋人を傷つけながらも自分の思ったとおりに生きる主人公を演じていた。この主人公はなかなか共感しづらい人物ではあったが、いつの間にか好きになってしまう不思議な魅力があった。それはきっとレナーテが生き生きと演じていたからだろう。
『アンデッド/愛しき者の不在』では、亡くなったはずの息子(意識ははっきりしないがゾンビのように少し動く)と人目につかない山荘でひっそり暮らす母親という切ない役を演じていた。
本作で彼女が演じたイングリッドは、エドワードに対して壁を作らず、ほかの人と同じように接するとても気さくな女性。エドワードが姿を消したあと、彼が別人(名前が変わっているからエドワードと気づかない)となって彼女の前に現れると、恋人として仲を深めていく。ところが、顔を変える前のエドワードにそっくりなオズワルドが現れてからは、“この人ちょっと嫌かも…”と思わせるような自分勝手さが気になるように。これまで演じた役柄とはまったく違うアプローチでイングリッドを表現したレナーテに、俳優としてのポテンシャルの高さを感じた。

カリスマ性のある男オズワルドを演じるのは、神経線維腫症1型の当事者で、『関心領域』のジョナサン・グレイザー監督作品『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013年)に出演し、アーロン・シンバーグ監督の長編2作目『Chained For Life(原題)』(2018年)では主演を務めて高い評価を受けたアダム・ピアソン。
本作を観るまで彼のことを知らなかったが、オズワルドが人前で堂々と話し、ステージに立って歌う姿はとっても魅力的に見えた。アダム・ピアソンの今後の活躍が楽しみだ。


コンプレックスに振り回されてはいけないと気づかされる映画
5月に紹介した『
サブスタンス
』も容姿の衰えをコンプレックスに感じ、若くて美しい完璧な自分を手に入れるという作品だったが、本作の主人公も容姿にコンプレックスを抱き、つらい人生を送ってきた。
ただ、『サブスタンス』と違うのは、外見を劇的に変える過激な治療を受けて新しい人生を手に入れたエドワードが、元の自分とそっくりなオズワルドのことを妬む姿を描いており、ルッキズムを別の角度から批判しているところ。

オズワルドは社交的な性格で友人も多く、内気な性格のエドワードが持っていないものをすべて手に入れているように見える。そう、見た目の問題ではないのだ。エドワードがいくらハンサムで素敵な外見になったところで、性格まではいきなり変えることはできない。
それを知っているからこそ、この二人が一緒にいるシーンはとんでもない緊張感があり、ただ見ているだけなのに変な汗が出てきそうになった。それはもしかしたらいつの間にかエドワードに感情移入し、心のどこかで充実した人生を送るオズワルドをうらやましく思ってしまったからかもしれない。

もちろん、外見を変えることで自信を手に入れ、それまでの自分とは違った人生を歩くことができるかもしれない。ただ、コンプレックスに振り回されすぎると大事なことを見失うこともある、そんなことをあらためて気づかされた。
理想と現実が反転する“奇妙な不条理劇”を、ぜひ劇場で体感してもらいたい。



文=奥村百恵
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