コーヒーで旅する日本/関西編|街なかにぽっかり空いた静謐な余白。巧まざる空間の妙が醸す、染み入るような憩いの時間。「み空」

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

元は倉庫だった店内は限りなく装飾を排し、抜け感が心地よいミニマルな空間に


関西編の第102回は、京都市左京区の「み空」。銀閣寺にもほど近い疎水沿い、小さなビルの半地下にあって、文字通り“ぽっかりと空いた”ような空間は、どこか浮世離れした静謐さを湛える。「喫茶店に行く時は、“コーヒーを飲もう”というより、“ここでぼんやりしたいな”と思うことが多い」。そう話す、店主の石倉さんが、自身がくつろげる場を体現した店は、まさに街なかの余白と言うべき一軒だ。じっくりと染み入るような深煎りのコーヒーとレコードの響き、穏やかな時の流れが日常を忘れさせる。大らかな居心地のよさを醸し出す、巧まざる店作りの深意をうかがった。

店主の石倉さん


Profile|石倉源太(いしくらげんた)
1990年(平成2年)、島根県生まれ。料理人として京都で勤める傍らコーヒーへの関心を持ち、独学で焙煎を続け、2021年にホルモン焼店の間借り営業で「み空」をオープン。2024年に現在地に移転し、独立店舗としてリニューアル。

コーヒーと共に過ごす時間に身を委ねて

店の目印は、ビルの入口に置かれた小さな看板のみ

京都大学の広大なキャンパスを東西に横切る今出川通を、銀閣寺方面へと向かう道すがら。界隈を流れる疎水の畔のビル、半地下になった店に足を踏み入れて思わず目を見張る。思いもよらず天井の高い空間、モノトーンのフロアに、ブロックガラスから射し込む光が柔らかな陰影を作る。まさに、“ぽっかり空いた”と言いたくなる、広々とした店内に流れるレコードの音も、心なしか澄んだ響きに聴こえる。

半地下にありながら天井が高く、柔らかな光が満ちた店内


「極力目に入る要素をそぎ落として、作り込みすぎない。自分が落ち着ける空間を伝えて作っていただきました」という店主の石倉さん。幅を広げるために一枚板を縦に割って鉄板を挟んだカウンター、ちゃぶ台を半分に割ってリメイクした半円形のテーブル、飲食店の残置物で残されていたものをリペアしたアイアンのスツールなど、家具はほとんどが廃材を再利用したもの。一見するとまだ未完のような、漠とした雰囲気が、不思議な居心地のよさを醸し出している。目の前は大通りだが、一段高い疎水の築堤を挟んだ向こう側。そのちょっとした距離感で、別世界の静謐さへと誘われる。

リペアした年代物のミルは、「間借りの時は置き場がなくて。移転後に使えるようになりました」と石倉さん


自身の志向を見出した間借り営業の経験

ネルドリップは、湯を点滴のように落としてゆっくりと抽出

まさに、コーヒーと共に時間を過ごすための場所を作った石倉さん。「以前は特別にコーヒーを意識することはなかったですが、京都に移ってから興味が湧いてきました。サードウェーブが日本に伝わる前に訪れたアメリカで、それまでにないスタイルが新鮮で、かっこいいなと感じたんです」と振り返る。やがて、自分でも手回しの焙煎機を使い、店とは別に豆を焼き始めた。とはいえ、コーヒーのことはわからないまま始めたため、この間、方々の店を飲み歩き、自身の好みの味を知るようになったという。

珈琲・かるめ600円。この日の豆はケニア。ほのかなスパイス香と、熟した果実のみずみずしさが余韻に軽やか。京都の焼菓子店・小麦小店のショートブレッド1本200円


その後、石倉さんに独立のきっかけが生まれたのは、知人に連れられて行った、ホルモン焼店でのこと。「たまたま訪れて、店主さんとも初対面でしたが、開業を考えていることを話すと、昼間は使っていいよと言っていただいて。物件を探しつつ、まずここで始めることにしたんです。さすがに大きな焙煎機は置けなかったので、手回しの器具を使うことにしました」。間借りで始まった「み空」の営業は、朝8時から開店し、モーニング代わりのトーストも提供していたという。「時間の制限もありましたが、ここでの経験なしにいきなり店を始めていたら、今と違うものになっていたかもしれない。自分の目指す方向を整理することができて、結果的によかったですね」と振り返る。

ブロックガラスから射し込む陽光が、時間ごとにフロアの印象を変える


日常の小さな変化を感じる贅沢な時間の余白

「本を読む方がよく来られるので、静かな曲を選ぶことが多いですね」と石倉さん

間借りで約3年の営業を経て、2024年春に移転。ここでは軽食を外し、ほぼコーヒーオンリーのスタイルに。メニューは、濃いめ・かるめ・デミタスの3種のみと、いたって簡潔だ。「個人的に飲んでもらいたいなという豆、その時に飲み頃の豆を、時季ごとで入れ替えています。豆の名前がないのは、先入観を持ってほしくないから、聞かれたら答えるくらいですね」と。ことさら専門性を打ち出すことはない。

デミタス700円。滑らかな口当たりと共に香り立つ芳香、濃密な甘みと香ばしい余韻があとを引く


それでも、3種の違いは飲めば瞭然。ペーパードリップで供するかるめは、熟した果実味と軽やかな余韻が印象的。片や、濃いめ、デミタスはじっくりネルでドリップし、濃密な味わいに。とりわけデミタスは、ハイカカオのチョコレートを思わせる芳醇なコク、厚みのあるアーシーな香味が、じんわりと染み込むよう。何より、ぽっかりと空いた、余白のような空間で味わうと、風味の余韻がより鮮やかに広がる感覚がある。「自分自身、喫茶店に行く時は、“コーヒーを飲もう”というより、“ここでぼーっとしたいな”と思うことが多い。それには、濃度があって、じっくり飲める深煎りの味わいのほうが向いているかなと」。そのイメージは、日常から切り離されたような、この店の穏やかな空気が体現している。

窓枠で切り取られた景色が一服の絵のよう。桜の咲く春に訪れたい


 「コーヒーだけの店と聞くと、多くは内装が重厚で、入りにくいイメージがあります。特に深煎り、ネルドリップといった専門性が高いとなおさら。間口は広くしたいので、もうちょっと明るい雰囲気で、緊張感なく飲める場にしたかった」と石倉さん。半地下ながら、南向きに開いた空間は、季節や時間によっても刻々と表情を変える。疎水の堤を見上げる窓の正面には、ちょうど桜並木が額縁のように収まっている。「開店した時は花の時季は終わっていたので、見るのは今年が初めてでしたね」。日常のささいな変化を感じ、愛すべき日々の余白を味わえる、希有な一軒だ。

店の前を流れる疎水沿いから、大文字山も間近に見える


石倉さんレコメンドのコーヒーショップは「MAHOU COFFEE」

次回、紹介するのは、京都府木津川市の「MAHOU COFFEE」。
「知人を介して、沖縄から京都に移転されたことを聞いて、お店を訪ねたのが3年前。沖縄時代のお店は知りませんでしたが、話すうちに店主の山嵜さんの人柄に引き込まれて。不思議と初めて会った感じがしない、昔から知っているかようなシンパシーを感じました」(石倉さん)

【み空のコーヒーデータ】
●焙煎機/手回し焙煎機 1キロ
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、ネルドリップ
●焙煎度合い/中深煎り~深煎り
●テイクアウト/なし
●豆の販売/シングルオリジン3〜4種、100グラム900円

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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