AIでクマとの遭遇リスクを可視化した日本初のマップとは?冬眠前に拡大するクマ被害のリスクを事前に知って予防しよう
東京ウォーカー(全国版)
クマによる被害の軽減を目的として、AI技術を活用し、人の生活圏におけるクマとの遭遇リスクを地図上に示した「クマ遭遇リスクマップ」(以下、遭遇リスクマップ)を知っているだろうか。日本気象株式会社が2025年8月28日に公開した遭遇リスクマップは、ツキノワグマの生息域である本州全域が対象。広域を対象とした高解像度のリスクマップは国内初(日本気象株式会社調べ)で、AIを用いた画期的な試みだ。

機械学習を用いてデータから潜在的なリスクも評価
近年、全国各地でクマの市街地への出没が相次ぎ、人的被害や農作物への被害が深刻な社会問題となっている。しかし、従来の対策は、過去の出没地点に基づく点の情報に依存することが多く、これまで出没の実態が把握されていない地域での潜在的なリスクを評価することは困難だった。
そこで、日本気象株式会社は気象予測で培った高度なデータ解析技術を応用。植生、地形、気候といった多様な環境データと、自治体が公表している過去のクマ出没情報を組み合わせ、機械学習モデルを構築した。どこに危険が潜んでいるのかを科学的に分析することで、事前の対策に役立つ情報の提供が可能になった。ツキノワグマの主要な分布域である本州全域について、250メートルメッシュという高解像度で、経験や勘に頼らず、「クマとの遭遇リスク」を定量的に評価できるのは、機械学習を使ったAI技術が可能にしたことの一つだろう。
日本気象株式会社の公式サイト「お天気ナビゲータ」中に開設された特設サイトでは、遭遇リスクマップのほか、解析で見えてきた遭遇リスクの季節変化や、遭遇しやすい環境、実際に過去に起きたクマとの遭遇事故との事例比較などが公開されている。紹介されている遭遇事故の事例のうち、山林と人の生活圏の境界付近で発生した事例2件は、どちらも遭遇リスクマップ中でリスクが高いエリアとして評価されていた一方、山林内で発生した事例はリスクが低く見積もられていた。山林内でリスクが低く見積もられていたのは、機会学習で参考にした学習データのバイアス由来とのことだが、AIで評価された遭遇リスクマップに潜んだバイアスとは一体どのようなものなのだろうか。

担当者に聞いた遭遇リスクマップの開発背景と、AI生成データ利用時の注意点とは?
AI技術を用いてクマとの遭遇リスクマップを開発した、画期的なアイデアはどのようにして生まれたのか?また、遭遇リスクマップに潜んだバイアスとは?今回は遭遇リスクマップを開発した日本気象株式会社の担当者に話を聞いてみた。
――遭遇リスクマップの開発の狙いやターゲットを教えてください。
連日のようにクマによる被害が報道される中で、住民や観光客、自治体向けに、クマ被害の防止や軽減に役立つ情報を出したいと思い、開発しました。
――遭遇リスクマップのアイデアはどのようにして生まれましたか?
弊社はこれまでも桜の開花予想など生物を対象にした予測を行っており、その技術をクマにも応用できないかと考え、開発を始めました。さまざまな情報源からクマに関する多くのデータを収集したため、データのフォーマットがばらばらで扱いに苦労しました。丁寧にデータの形を整えていき、機械学習が実行でき、マップとしての出力にまでたどり着きました。
――遭遇リスクマップ利用時の注意点を教えてください。
今回の遭遇リスクは相対的なものであり、リスクが低い地域だからといってクマと絶対に遭遇しないわけではありません。また、山林内は人が立ち入ることが少なく、人の生活圏に比べ人とクマの接触の機会は少ないため、今回のリスクマップでは遭遇リスクが低く評価されていますが、山林はクマの本来の生息地であるため注意が必要です。
――読者に知ってもらいたいAI技術を活用したマップの特徴や注意点を教えてください。
今回学習に使用した過去のクマ出没情報は、ある程度人口の多い人間の生活圏で多く報告されやすいという特性があり、遭遇リスクマップにもその特性が反映されています。AI技術を活用したマップを利用する際は、注意書き等をよく読み、マップが伝えたい情報を正しく理解した上で利用することが大切です。
季節によるリスクの変化と遭遇しやすい環境は?
クマの行動は季節によって変化するため、遭遇リスクも一年を通じて一定ではない。今回の日本気象株式会社の解析では、月ごとの相対的なリスクも分析。例えば、10月は人里に近い平野部や谷筋で平均よりリスクが高まる傾向が見られたと報告されている。冬眠前はクマが餌を求めて活発に移動する時期で、山の餌が不足する年には餌を求めて、人里での出没が多くなる。

また、クマが身を隠しながら移動する通路として使うことのある河川沿いの林や、クマの隠れ場所となり、至近距離で遭遇する危険性がある見通しの悪い草地。そして、クマの水飲み場や餌場、通路として使われ、水の音が互いの存在をかき消し、鉢合わせのリスクを高める可能性がある水場も、クマと遭遇しやすい環境として報告されている。ほかにも、平野部と山林の境界付近や山あいの集落では遭遇リスクが高くなっており、特に注意が必要とのこと。農作物や果樹、生ごみなどはクマを誘因する原因になりうるので、管理の徹底が重要だ。
今回開発されたのは、ツキノワグマの生息域である本州全域に限った、過去の出没傾向に基づいた遭遇リスクマップだが、今後は研究・開発をさらに進め、クマの被害対策に貢献する「出没予測情報」の開発や、本州以外の地域の開発を目指しているそうだ。例年比での出没件数の増減、出没エリアの変化などの予想により、地域住民や観光客への効果的な注意喚起や、人とクマの共存、および地域の安全確保に貢献したいという想いで進められる開発の行方にもぜひ注目してほしい。
今回のように、これまで被害が起こっていない地域の潜在的なクマとの遭遇リスクを評価できるのは、機械学習を用いたAI技術ならではの強みだ。クマ被害は年々拡大しており、これから秋になるにつれ、冬眠前のクマが餌を求めて人里へ出没しやすくなる。住んでいる地域の「クマ遭遇リスクマップ」をチェックし、災害と同じく事前の対策をしてみてはいかが?
一方、日本気象株式会社の担当者も指摘している通り、AIによって生成されたデータには、解析元のデータのバイアスが含まれる場合もある。そのため、今後もAI技術によるマップデータは増えていくと考えられるが、生成されたマップの特性を知り、マップが伝えたい情報を正しく読み解くリテラシーも必要だ。
※記事中の画像はいずれも日本気象株式会社が全国最新写真(国土地理院)を加工して作成したものです。
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文=平岡大和
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