板垣李光人「刺激を受けたし、カッコいいなと」“削ぎ落とした芝居”が印象的だった共演者とは
東京ウォーカー(全国版)
2025年は映画『ババンババンバンバンパイア』やドラマ『秘密〜THE TOP SECRET〜』、『しあわせな結婚』などの話題作で注目を集め、連続テレビ小説『ばけばけ』への出演に加え、自身が作・絵を手掛けた絵本を11月に発売するなど幅広く活躍中の板垣李光人さん。
最新出演映画『ミーツ・ザ・ワールド』では、既婚者で不特定多数から愛されたいホスト・アサヒを演じている。本作で演じた役柄についてや主演の杉咲花さんとの撮影エピソード、さらに今興味を引かれているアートなどを語ってくれた。
「不特定多数に愛されて生きてたい」というアサヒに共感できた
――最初に金原ひとみさんの原作を読まれた時の感想を教えていただけますか?
【板垣李光人】歌舞伎町という狭い世界を舞台にした話で、この街で生きる人々が抱える悲痛な思いや不条理、息苦しさを描いた作品だと感じました。そういったネガティブな感情を持った人が最終的に救われる物語なのかと聞かれるとそうではないのかもしれませんが、この作品に触れただけでホッとしたり、安心できたりする人がたくさんいるのではないかなと思いました。
――既婚者でありながらも不特定多数から愛されたいホストのアサヒを演じるにあたり、どのような役作りをされましたか?
【板垣李光人】ホストという職業は未知の世界だったので、クランクイン前にホストクラブを取材する機会をいただき、そこで働いている方とお話しさせていただきました。その時に営業中の従業員の方々の様子も見せていただいたのですが、底抜けに明るく振る舞っていても、それは歌舞伎町で生きていくための仮の姿なんだろうなと感じました。
なぜそう思ったのかというと、以前、金原さんが歌舞伎町でホストの方に声をかけられたことがあったそうで、その方はとても寂しそうだったとインタビューで語っていた言葉が印象に残っていたからなんです。その時のホストの方を参考にしてアサヒというキャラクターを書かれたとも仰っていたので、僕の中で“心の奥底にある寂しさ”はアサヒを演じるための大きなヒントになりましたし、そこを意識して役作りしました。
――ご自身とはまったく違う人生を歩むアサヒを演じてみて、共感できずに苦戦した部分はありましたか?
【板垣李光人】どの作品もそうですが、最初に原作や台本を読んだ時に自分が演じるキャラクターに共感できない部分があったとしても、どうにかその要素とリンクできないか、自身の中に共通点を探すというアプローチをしています。そうでなければ、役をちゃんと表現できないと思っているので、そこは徹底していますね。ただ、アサヒに関しては、共感できないところやリンクできない部分がほとんどなかったように思います。
――特に共感できたのはどんなところでしたか?
【板垣李光人】「不特定多数に愛されて生きてたい」というアサヒのセリフがありますが、僕もできる限り多くの人に興味を持ってもらいたいですし、好きになって応援してもらうことが活力になったりするので、そこは共感できました。
この作品のすてきなところは、アサヒだけじゃなく、ライや由嘉里それぞれのキャクターに共感できるポイントがあるところで、それはこの作品全体が“今を生きる人たちのつらさや苦しさ、不条理”みたいなものを、丁寧に描いているからなんじゃないかなと思います。
歌舞伎町でのロケ撮影は「新鮮で、役にもいい影響を与えていたように思います」
――由嘉里役の杉咲花さんとの撮影で印象に残ったことをお聞かせいただけますか?
【板垣李光人】擬人化焼肉漫画の『ミート・イズ・マイン』に全力の愛を注ぎ、希死念慮を抱えたライのことを本気で大事にする由嘉里は“馬鹿”がつくほど真っ直ぐで、そこが彼女の魅力だと思っているのですが、そんな由嘉里の澱みない真っ直ぐさは杉咲さんの眼差しあってこそだと現場で感じました。
杉咲さんとお芝居をしていると、“本当に由嘉里はどうしようもないな…”と思ってしまうアサヒの感情が自然に生まれてくるんです。杉咲さんが由嘉里を演じたからこそ、アサヒとの間にリアリティのある人間関係を築くことができたんじゃないかなと思います。
――ライ役の南琴奈さんとのお芝居はいかがでしたか?
【板垣李光人】ライはニヒリストっぽいところがあって、普段から「私、死ぬの」と言ったりしますが、そういうセリフって一歩間違えるとわざとらしく聞こえたり、大げさに聞こえる可能性があるんです。でも南さんは、「明日のご飯、お蕎麦にする」ぐらいのテンションでサラッと言っていたので、“このセリフをこんなにも清涼感漂わせながら言えるんだ”と驚きました。いつ消えてしまうかわからないライの儚さを、さりげなく表現していてすてきだなと思いました。
――現場ではお二人とどんな会話をしてコミュニケーションを取っていましたか?
【板垣李光人】お二人との会話は雑談が多かったのですが、その雑談の延長線上に僕ら三人の芝居があるような、そんな感覚になったのを覚えています。もしも休憩時間中の雑談がなかったら、三人のシーンのあの雰囲気は出せなかったかもしれません。
――歌舞伎町を三人が歩くシーンも印象的でした。本作は“実際の歌舞伎町に根付いた映画にすること”を重視して作られたそうですが、松居大悟監督の演出や撮影スタイルでこだわりを感じた部分があれば教えていただけますか。
【板垣李光人】ライの住むマンションや由嘉里が訪れる飲食店でのシーンなどは、実際に歌舞伎町から徒歩圏内にある場所で撮影していたので、気持ち的にも全然違いましたし、そういったロケ場所からも監督のこだわりを感じました。夕方から撮影がスタートして明け方に終わることも多かったのですが、歌舞伎町という街でライやアサヒと同じようなサイクルで仕事ができたのが新鮮で、役にもいい影響を与えていたように思います。
そういえば、撮影が終わって早朝の歌舞伎町を歩いていたら、得体の知れないぶよぶよしたゴミをカラスがつついているのを発見したことがあって。「なにこれ怖い!」と思わず叫んでしまったのもいい思い出です(笑)。
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