スターバックスと沖縄コーヒー農園。“いちゃりばちょーでー”が息づく場所

東京ウォーカー(全国版)

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まだ夏の日差しが降り注ぐ9月の沖縄県に、長靴を履きスコップやクワを手に汗を流すスターバックスのパートナー(従業員)たちの姿があった。ここは、沖縄県中部にある、有機栽培や自然栽培を行うコーヒー農園・Delight Farm(ディライトファーム)の3つ目の農地。農園主の松田さんの農地開墾に、3年ほど前から月1回、県内のパートナーが参加している。沖縄を愛する人たちが集まり、コーヒー栽培に情熱を燃やす姿をお届けする。


草を刈り、土を耕し、つながる心と心

「最初は3、4人のパートナーで始めたお手伝いも、今では約20人。那覇市や本部町からも集まってきます」と、スターバックス コーヒー 具志川メインシティ店のストアマネージャー(店長)・当間さんはうれしそうに話す。

【写真】ディライトファームとのコミュニティ コネクションが始まった当初から活動しているスターバックスの当間さん


きっかけは、東京で年に1回開催されるコーヒー展示会&カンファレンス「SCAJ」。スターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京のマスターロースターの木戸田さんとディライトファームの松田さんが出会い、「カンファレンスでの発言を聞いて、同じ農家だと思って声かけたんです。そしたら『私はスターバックスです』って言われて驚きました」と、松田さん。そこから農園開拓の手伝いが始まり、沖縄県のパートナーにも広がっていった。

松田さんは海外生活が長く、その頃に生まれ育った沖縄への愛情を再認識し、「沖縄らしさをコーヒーで伝えたい」と農園づくりに取り組んでいる。

「どの業界でも効率を重視するようになり、環境への問題を抱えている。だからこそ、国産コーヒーを作ることに意味があると考えています。海外から輸入したほうが安くておいしい豆が手に入るけれど、僕たちは地産地消や環境への配慮、人とのつながりや“一緒に喜ぶこと”を大切にしたい」と語り、3つ目の農園では完全な自然農法での栽培を試みている。

ディライトファームの松田さん。2015年に自宅で苗の栽培を始め、2016年から農地の開拓をスタート。現在は県内で約600坪、300本(幼木を含む)を栽培


一方、スターバックスが地域とのつながりを大切に行う活動「コミュニティ コネクション」は、長期的な関係づくりを重視している。「コーヒー栽培はすぐに結果が出るものではありません。どうしたら長く続けていけるかというところから話し合って、スタートしました。県内のパートナーにここまで広がったことが感慨深いです」と当間さん。

草刈りから始まった土地には、現在コーヒーノキを栽培しながら、さらに農地を広げている。この日の作業は、男性陣が畝を作ったり、水はけ改善のための溝を掘ったりと力作業を。女性陣はコーヒーノキに絡まる蔦や雑草を除去したり、木の根元に土が乾きすぎないように除去した雑草をかぶせたりと根気のいる作業を担当。

次に幼木を植える場所に畝を作る


雑草の間から顔を出す虫にも動じず、慣れた手つきで作業する姿が印象的だ。炎天下の作業は重労働だが、皆一様に表情がキラキラしていて、作業を心から楽しんでいることが伝わってくるようだ。

腰をかがめて手作業で行う草取り


当間さんは、自分の背丈ほどまで伸びたコーヒーノキを指して「3年でこの大きさまで成長したんです」と笑顔に。よく見ると、緑の実が成っている。「収穫まで3~5年かかることを実感できています」と語り、松田さんも「12月頃に色づくんじゃないかな。ここは今年、初収穫だから、みんなで試飲するのが楽しみ」とうれしそうだ。

コーヒーノキになる緑色の実。赤くなると収穫時期だ


作業の合間にはコーヒーブレイク。パートナーが持参したアイスコーヒーに「今日は何のコーヒーかなって楽しみにしているんです」と松田さん。世間話やコーヒーに関する疑問を話し合うこの時間は、学びの時であり、店舗間の交流の場にもなっていて、有意義なひとときとなっている。

作業はお返し。無理しないから続く信頼関係

松田さんは、最初はコミュニティ コネクションの受け入れに迷いがあったのだそうだ。理由は、「手伝ってもらっても、何も返せないのがつらい」と感じていたから。

「一年を通して暑い日も寒い日もあるし、地味で大変な作業が多い。でも、あっちゃん(当間さん)が手弁当で来て、手伝ってくれるんですよ。信用しているこの人たちが好きな会社だから、一緒にやってみようと思えたんです」と松田さん。

パートナーたちは、「作業をすることがお返し」だと言う。その真意をスターバックス コーヒー 沖縄西原シティ店ストアマネージャーの仲本さんは、こう教えてくれた。

「農家の方がどんな想いで育てているか、社内のコーヒーに関する学習資料には書いてありません。それを松田さんから直接聞けることで、私たちが扱っているコーヒーも同じような想いで作られていると感じられる。仲間たちも、世界中の生産者の方々に想いを馳せながら参加しているんだと思います」

「沖縄は観賞用にコーヒーノキを庭に植えている家庭も多くて、身近なんですよ」と語る、スターバックスの仲本さん


当間さんも、「農家さんと一緒にコーヒーを育てることで、自分もプチ農家さんになった気持ちです」と話し、一粒のコーヒー豆に対する愛情や感謝が、これまで以上に深まっていることが伝わってくる。

泥だらけになりながら笑顔で作業するパートナーたちを見て、松田さんも「彼らの気持ちは嘘じゃないと感じ、受け入れることができるようになりました。作業を通して、コーヒーに対する価値がわかるというのは大きく、この作業もみんなの役に立っているのかなと思えるようになりました。でも、僕からしたら、ほんと感謝しかないです」と語る。そして今では、月1回のコミュニティ コネクションを楽しみにしているそうだ。

作業の合間のコーヒーブレイク


松田さんとパートナーの間には、長く一緒に作業を続けていくための合言葉がある。

それは、「頑張らない」。

「どちらかが無理しないといけなくなったら、やめようっていつも言っているんです。好きなことは、頑張らなくても気づいたら夢中になっている。頑張ることは悪いことではないけれど、夢中になっているのか頑張っているのかを心の中に聞いて、疲れたらリセットする」

そんな松田さんの人柄も、パートナーが集まる理由なのだろう。

作業開始前にその日の作業の大枠を説明。「パートナーの方たちは自発的に動いてくれるのがすごい!」と松田さん


生産も味わいもシェアする、コーヒーの“喜びの使い方”

この日は、松田さんが営むコーヒースタンドにも訪れた。ここにはパートナーもよく手伝いや遊びに来ていて、ディライトファームが持つほかの農地で収穫したコーヒーの精製や選別も一緒に行ったことがあるそうだ。作業を通して関係が深まり、「価値観が重なるところがたくさんある」と、互いに感じているという。

3年で1メートル50センチほどに育ったコーヒーノキ


たとえば松田さんのコーヒースタンドには絵本『ハチドリのひとしずく』が置かれているが、スターバックスが子どもたちの可能性を応援する支援活動・ハミングバードプログラムを象徴するハチドリはこの絵本がモチーフ。テイクアウト販売ではマイボトルやタンブラーの貸し出しを実施する。そうした松田さんの姿勢に、仲本さんは「スターバックスは会社だけれど、私たちも同じ気持ちで働いています。大切なことを松田さんから学ぶことも多く、お店でもっとマグをおすすめしようなど、優しい気持ちにいつもさせてくれます」と共鳴する。

松田さんもスターバックスのミッション&バリューズを知り、「あ、自分が考えていたことだ!って。教育がすごくいいなと思いました」と、親しみを感じるようになったという。

最近では、当間さんや仲本さんがスターバックスで行う海の清掃活動に松田さんを誘ったり、児童館でのコミュニティ コネクションで松田さんからもらったコーヒーの苗木を子どもたちに見せたりと、地域とのつながりは広がっている。

日本では沖縄に加え、東京都の小笠原諸島や鹿児島県の徳之島などでもコーヒーが生産されているが、国産コーヒーはまだまだ希少な存在だ。そんななかでも沖縄コーヒーは、スッキリした飲み口の中に、しっかりとした旨味があるのが特徴だといわれている。

松田さんの農地でできたコーヒー豆。コーヒースタンドでは中煎りで提供

コーヒースタンドでは自社以外のコーヒーを使ったメニューも。写真はコーレーグースーを使った「島ラテ」


「沖縄の生産者は個性的な人が多い。小規模農家がもっと増えて、それぞれの個性が際立ったら、沖縄コーヒーはもっとおもしろくなる」と松田さん。「そして、沖縄のスターバックスの人たちが、いろいろな生産者とつながって、沖縄のスターバックスだからできる特別な役割を果たしてくれたらうれしい。生産量が少なくても、みんなで試飲するような、喜びの使い方ができたらいいなと思っています」と夢を描く。

沖縄には、「いちゃりばちょーでー」という、一度出会えば皆兄弟という考え方がある。地元を想う人たちの気持ちが、コーヒーを通して広がっていくのを感じる。

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