第56回 「ほかと全然違う」と好評な、伊勢うどんの老舗「中むら」

東海ウォーカー

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伊勢神宮外宮の近くにある伊勢うどんの店「中むら」photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA


伊勢市駅と伊勢神宮外宮の間に位置する伊勢うどんの店「中むら」は、1916(大正5)年に創業した老舗である。当初からこの場所で営業をはじめ、長年古い店舗のままだったが、伊勢神宮で前々回の式年遷宮が行われた1993(平成5)年に新しく建て替えた。

中村家の長年続く家業として


現主人の中村貢さんと妻の喜美代さん。「多分4代目」と話すphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「中むら」は現在、中村貢さんと喜美代さん夫婦が主人を務めている。貢さんは「創業当時のことはよく知りませんで。知っている限りは祖母、親と続いて私らで3代目。でも、その前もあるはずですから少なくとも4代目ですわ」と話す。

主人の貢さんは、団体職員として働いていたが、早期退職のような形で家業に入ったphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「中むら」は長年、中村家の妻が店を守ってきたという。「祖母が嫁いできた時に、ここを引き継いだみたいな話を聞きました。それから母が継いで、父は別の仕事をしていたけど手伝うようになって。妻は保母さんだったけど出産で仕事を辞めて、それから手伝うようになりました」。

1993(平成5)年に建て替えた店内は清潔に保たれているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


老舗の家業ではあるが、貢さん自身も継ぐつもりはなく就職したそう。しかし、店の手が足りなくなったため50代で早期退職し、それから10年ほど家業で働いているという。「前々の式年遷宮あたりから伊勢うどんが流行りだしましてね。このまま潰してしまうのはもったいないということもあって、早期退職することにしました」と貢さんは笑う。

麺とツユを合わせて伊勢うどん


大量に仕込んだダシは瓶にいれて保管する。この瓶もいつから使っているか分からないというphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


看板メニューである伊勢うどんについて聞くと、貢さんは前提としてこう話す。「観光でみえるお客さんのなかには、麺が伊勢うどんの特徴だと思っている人がいるのですが、その点はちょっと勘違いでして。ツユと麺のセットで伊勢うどんなんです」。太くやわらかい特徴的な伊勢うどんの麺。しかしツユにこそ注目してほしいと貢さんは続ける。「店によって特徴が出るのはツユですね」。

【写真を見る】伊勢うどんにサラダとご飯がセットになった「伊勢うどん定食」(850円)photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA


伊勢うどんは店によってスタイルが少しずつ違い、ツユの量が少ないことから“タレ”と表現することもある。しかし「中むら」の伊勢うどんは“タレ”とは表現しにくい多めの印象を受ける。甘すぎず、辛すぎず、絶妙な味付けで仕上げたツユと麺が組み合わさって「中むら」の伊勢うどんが完成する。サラダとご飯がセットになった「伊勢うどん定食」(850円)は、うどんだけでは物足りないと感じる観光客から好評で、伊勢うどんについて「ほかの店と全然違う」と高く評価されることが多いという。

「中むら」の味を支えている自慢のツユ。レシピは昔から変わっていないphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


ツユのおいしさを支えているのは丁寧なダシづくりからだ。「うちのダシでメインは煮干しです。煮干しをミキサーにかけて潰して、一番ダシを出していきます。そして二番ダシからは削り節を追加していって、ダシをとるだけで2時間ぐらいかけてます。それから地元の本だまりや醤油、みりんなどで味付けして、大きな鍋で250食分ぐらいずっと煮込んで、量が減ったら追加して、と続けていきます。最終的には4、5時間ぐらいかかりますね。そして一晩寝かしたらようやく完成です」。

卵が半熟のような状態で麺に絡みつく名物メニュー「伊勢玉子うどん」(580円)photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA


これは伊勢うどんだけの話。ほかの麺メニューではまた別のダシをとっているそうで、伊勢うどんに対する並々ならぬ情熱やこだわりを感じる。観光客に人気なメニューの1つに「伊勢玉子うどん」(580円)もある。伊勢うどんに卵を足したものだが、丼に卵を落とし、熱々の麺をいれてかき回し、卵が半熟のようになってからツユを入れる。「ツユは1.5倍ぐらいの量を入れています。こうするとツユが薄くならず、卵の味も別で楽しめます」。

昔からやっていることを引き続き


小麦粉からカレーを作っている「カレーうどん」(650円)の麺は、伊勢うどんと共通の太いものphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


伊勢うどんで観光客に人気の「中むら」だが、地元の人にとって伊勢うどんは、スーパーで買って自宅で作るものという認識が強い。だから丼料理や、店らしい手の込んだメニューも用意している。とりわけ「カレーうどん」(650円)は、観光客からも地元客からも評判がよいという。「伊勢うどんと同じ麺を使ってますが、カレーは小麦粉からルーを作ってます。うちのはわりと甘口で、お子さんにも評判がいいですよ」と貢さん。「ライス」(180円)を追加でオーダーし、丼に残ったカレーへ入れて食べる人もいるそうだ。

店を建て替えた際に古いものはほとんどなくなった。「伊勢うどん」の暖簾デザインは昔から使っているものphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


貢さんはサラリーマン時代から休日に店を手伝うなどしていたため、本格的に店に入るより前から親の仕事を間近で見てきた。現在はそれを踏襲して継続している形である。「でももう、あと10年もできませんし。先はどうなるか分かりませんね」と、貢さんはあっけらかんとしている。貢さん夫婦には2人の娘がいるが、どちらも嫁いでいる。しかし店の手伝いには来てくれているそう。「娘が2人でやってくれればいいなとは思いますが、あちらの都合もありますでね」。そう言って貢さんはハハハと笑い、喜美代さんもウフフと笑った。

加藤山往

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