コーヒーで旅する日本/四国編|映画監督にしてコーヒー店主。二足の草鞋で、地域の新たなコミュニティをつなげる「NEEK COFFEE SUPPLY」
東京ウォーカー(全国版)
手回し焙煎で生み出す浅煎りのユニークな味わい
メニューには中深煎りから浅煎りまで焙煎度は幅広くラインナップ。なかでも、浅煎りのコーヒーの醍醐味を広く紹介したいとの思いから、手回し焙煎機で試行錯誤を繰り返してきた。「当初から、とにかく浅煎りをうまく焼くことに集中しました。手回しでは難しいというイメージですが、今では、タイミングさえつかめればできるという手応えがあります」。少量焙煎ゆえ、微調整がしやすいメリットを生かし、特色ある豆は多品種を入れ替えながら提案する。
リミテッドと銘打った豆は、ブドウのような芳醇な甘味が広がるコロンビア・シドラ・ナチュラル、トロピカルフルーツの明るい酸味が鮮やかなエチオピア・アロ・アナエロビックなど、個性的な風味を出しながら、直火焙煎ならではの香味やまろやかさも併せ持つ。「単に浅く煎ればいいというものでもない。自分の好みとしてはアタックが弱いとコーヒー飲んだ感じがしないから、一般的な浅煎りよりは深いかもしれない。でも、それを“ニークの味がする”と言ってもらえるのが、一番うれしい誉め言葉。今まで積み重ねてきた店の魅力が浸透してきたと実感できます」と西森さん。メニューには常時17~18種が並ぶが、「今後も焼いてみたい豆はまだまだ多い、焙煎の回数は増やしていきたい」と興味は尽きない。
コーヒースタンドだけに、コーヒーのお供は気軽なドーナツをメインに。なかでも人気なのが、カスタード・ドーナツだ。「前々から抱いていた、“カスタードクリームを飲んでみたい”、という欲望を形にしました(笑)」。その言葉通り、生地を割ると、クリームがあふれんばかりにぎっしりと。口いっぱいにあふれ出す、まろやかな甘味がクセになる。さらに、可憐なアフォガートや週末限定のパフェなど、盛り付けも華やかな一品で、多くのファンを虜にしている。
子供連れも歓迎、街の暮らしと共にある場に
開店の動機は一見、衝動的に思えるが、実は開店の背景には、もう一つの理由がある。「本業の映画監督でも、地域おこしの思いが強い。商店街が年々衰退している意識はあって、若者を呼び込むというだけでなく、自分も地域に溶け込める新しい力になれないかと思った。小さなコミュニティの力を取り戻せるのではと」。西森さん自身は、元々高知市内での生活が長いが、店の立地は中心地をわざわざ外した場所。かつて高知の市街地は南北の各筋に商店街があり、店の界隈もその一つだったが、開店時には数店しか残ってなかった。ただ、「NEEK」ができたことが呼び水となり、界隈に移ってくる人も増え、近年は新しい店もでき始めたという。
「ここに居を構え、商売をするのが、地域のためになるのではと思っていたので、その先鞭はつけられたかなと思います。何よりも、ここは街の生活と共にある場所。昔の駄菓子屋のように、上に住んで、下で店番しているおばあちゃん、みたいな感覚でいます」と西森さん。実際、学校が近く、小学生以下は子供用のドリンク3種を無料で提供している。「自身が子育て世代なので、子供に理解のある店が助かるのを実感できるから、お子さん優先。できるだけ自分で注文してもらうように促している。意志を示す経験をしてほしい」と、地域のサポート、店の人とのコミュニケーションの機会も担っている。
ところで、店に立つ際は、2人は黒猫、白猫という呼び名を設定し、いまや街なかで声をかけられるほど定着してきてる。「店=舞台、演出的な視点で捕えているとこもあって、自分たちのアイデアをどう見せるか、どう提案するかは、映画製作にも通じる部分はあるかも」と西森さん。映画監督であり、週末はコーヒー店主として中の人になる。クリエイターとしてのアウトプットに必要な場所であり、街の暮らしにも欠かせない場になる。コーヒー好きの猫が発揮する好奇心と遊び心が、街のコミュニティを再びつなぎ始めている。
西森さんレコメンドのコーヒーショップは「Royal Niboshi coffee stand」。
次回、紹介するのは、高知県香美市の「Royal Niboshi coffee stand」。
「香美市の商店街にあって、お客としてよく訪ねていたお店で、高知県内のコーヒースタンドとしては先駆け的な存在です。香美市は移住の方が多いエリアですが、店主の島崎さんはいち早く地域に根付いた店作りをされています。また、界隈では数少ない本格的なエスプレッソが主役の店で、自分のコーヒーの方向性を見なおせる場所でもあります」(西森さん)
【NEEK COFFEE SUPPLYのコーヒーデータ】
●焙煎機/手回し焙煎機 (1キロ)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ・カリタ)、エスプレッソマシン(ロケット)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/あり(500円~)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン17~18種。100グラム1100円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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