高校野球連載 第19回/注目すべきは試合内容だけにあらず!漫画家・三田紀房先生が語る甲子園を120%楽しむキーワード
関西ウォーカー
“高校野球大好き”な著名人が甲子園の魅力を語るスペシャル連載「”ワタシ”が語る甲子園~100年の熱狂ストーリー~」。情報誌「関西ウォーカー」と連動してスタートしたWEB版連載では、誌面に掲載しきれなかった未公開トークを含むスペシャル版を前後編で掲載。

連載第19回目は、「甲子園へ行こう!」「砂の栄冠」(共に講談社)など高校野球漫画も手がけ、20年以上も甲子園球場へ通い続ける漫画家・三田紀房先生のインタビュー(後編)を、漫画「砂の栄冠」(講談社)のワンシーンと共にお届け!

いかに選手を育てコントロールするか、“監督の手腕”に注目

―三田先生の作品では、監督の描写を掘り下げることも多いですが、甲子園において監督はどのような存在なのでしょうか?
三田「地方大会も含め『負けたら終わり』の夏の甲子園は、監督の采配を抜きにしては決して語れません。選手たちは究極の緊張感のもとでプレーしています。まだ高校生ですし、約5万人の観衆の前で『緊張するな』という方が無茶です。普段の力をどう発揮させるかは、監督の力なくして成り立ちません。彼らを2時間半いかにコントロールするかが勝敗の分かれ目です。よく、一挙手一投足まで管理されたプレーが高校野球では見られがちですけど、そうでもしなければ勝てないんです。子供たちに『自由になれ』と言っても甲子園は特にテンポが早いので2時間半もあっという間。そんな状況でどう対処するかを監督が導いてあげないと、余程メンタルの強い選手が9人いなければ難しいんです」
―監督を知れば、より甲子園が深く楽しめるということですね。
三田「監督のキャラクター性、人柄はやはり大事で、それを知る、観察することで高校野球の面白さは深まります。試合に勝つことも大事ですが、選手に人間的な部分もきちんと教える、真面目に取り組むチーム作りが大切じゃないかなと思うんです。2017年夏の準優勝校・広陵(広島)の中井哲之監督はその辺りをしっかり教育されているので好感度が非常に高いのではないでしょうか。また花巻東の佐々木監督も、駒苫の香田監督もそうでしたけど、出場するたびに一つ一つ学んでチームを進化させている。その過程を試合を通して一緒に追体験ができるのも、甲子園のいいところなんじゃないかなと。試合中にベンチを見ると、自然と監督の動向に目が行きますね」
高校野球ファンをひき付ける“ユニホーム&校歌”

―選手、監督以外に、注目してみると高校野球がより楽しめるポイントはありますか?
三田「応援と同じで“演出”になるのが校歌ですね。試合終了後、バックネット裏のお客さんは、ほとんど歌っていますよ(笑)。2014年、27年ぶりにセンバツに出場した池田(徳島)が一回戦で逆転サヨナラ勝ちした時、満員の球場が歓声に包まれて、みんな立ち上がって校歌を合唱したんですよ。縁もゆかりもない学校の校歌をなぜ歌えるのかとビックリしたのと同時に、ちょっとホロリときました。ここまでくると一つの文化ですよね」
―校歌のように各校の地域性、個性が現われるものにユニホームもありますよね。
三田「そうですね。ユニホームのデザインも着目点ですね。池田もそうですが横浜や県岐阜商のユニホームは本当にかっこいい! 僕は伝統的な作りで、ロゴはオーソドックスに、帽子は白基調、全体のバランスにもよりますがシンプルなものが好みです。かつてのPL学園はすごく考えられたデザインで、かっこよく魅せるというか“大阪的なかっこよさ″が意識されていて、本物を見た時は感動しました。ですので、強豪校のユニホームが変更になる場合などは、高校野球ファンの間では賛否両論があって、とても注目を集めます」
本場メジャーの雰囲気を体感できる“甲子園球場”

―甲子園球場そのものの魅力について、お聞かせいただけますか?
「甲子園は日本で本場メジャーリーグの雰囲気を味わえる数少ないビッグスタジアムですね。日本が貧しかった時代に、この球場を学生野球のために造った先人たちは肝が太いなと思います。ここから日本人の野球熱が始まったと言っても過言ではない。あの大きなスタジアムで子供たちの野球をみんなで見ようという発想が素晴らしいなと思うんです」
―大きさのほかにも、特筆すべき点はありますか?
三田「座席面においても貴重なスタジアムです。メジャーの座席は1階、2階、3階とデッキを重ねた造りですが、甲子園はすり鉢型で空間が広く空も大きく見える。日本では贅沢な造りです。あと浜風がとても心地いいんですよ。駅からのアクセスもいいし試合が終わったら20分ほどで梅田に出て一杯飲もう…みたいな、ひととおりの動線がいいんです(笑)。テレビ観戦もいいですが、球場で実際に熱気を感じると、高校野球が2倍、3倍おもしろくなると思います。改装されて居心地もよくなりましたし、グルメも充実しています。試合とは別に一日のんびり過ごすことが娯楽化していますから。阪神電車に乗って足を運ぶことをおすすめします」
―夏は浜風が吹かないと暑いですよね…。
三田「バカみたいな暑さを体験しに行くのもいいかも知れませんよ。『こんな暑い場所で、よく野球ができるな』と、非日常の出来事として捉えると楽しみが生まれます。観戦目的でなくても『行ってきたけど、死ぬほど暑いんだよ』とか、笑い話のネタにもなります。朝から晩まで4試合見続けるコアなファンもいれば、風や太陽を浴びながらウトウトと寝る人も、昼間からビールをあおっている人もいる。甲子園は、そんな身近な非日常をのんびり過ごせる格好の空間でもあるんです」
―最後に、今後また高校野球漫画を描くなら、どんな内容を描いてみたいですか?
三田「大谷くんが現れてから、どれだけスーパースターを描いても大体色あせちゃう。彼のような選手が登場すると、もう想像の世界のキャラクターを描くだけではリアルに追い付かないんです。ですから高校野球漫画は、もっと別の切り口で描かれていくんじゃないかと思います。『これを描いたらおもしろいかな』というネタはあります。今は話せないですけどね(笑)」
◇
〈今回の語り部〉
三田紀房(漫画家)/1958年生まれ。岩手県出身。東大受験漫画「ドラゴン桜」で人気を集める。現在、週刊ヤングマガジンで「アルキメデスの大戦」、週刊モーニングで「ドラゴン桜2」を連載中
「砂の栄冠」…創立100周年を迎えた埼玉県の樫野高校は、夏の甲子園出場まであと1勝となった県大会決勝で逆転負けしてしまう。敗退後、新キャプテンとなったピッチャー・七嶋は、野球部を応援し続ける老人・トクさんからひそかに1,000万円を託される。トクさんの願いでもある甲子園出場をかなえるため、ノック練習の強化や情報収集、応援歌「砂の栄冠」の作曲依頼など、1,000万円でチームを強化しながら次年度の甲子園出場を目指す。全25巻。発行/講談社
【現在連載中の三田先生の作品もチェック】

「ドラゴン桜2」…東大合格請負人と呼ばれた伝説の弁護士・桜木健二。2020年の教育改革を前に龍山高校に戻った彼が再び改革を断行する。

「アルキメデスの大戦」…日本と欧米列強の対立が激化した1933年。大型戦艦を推す海軍で航空機への転換を図る山本五十六は、ある男に使命を託す。
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