連載第12回 2000年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

2019年1月8日 10:22更新

関西ウォーカー 関西ウォーカー

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史

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ドラマは時代を、まるっとお見通しだ!

20世紀最後の年、2000年。小説ではハリー・ポッターシリーズが世界的大ヒットとなり、大人も子どもも夢中に。音楽はアイドルが元気! モーニング娘。の「LOVEマシーン」が、なかなか上向きにならない不景気な社会を鼓舞していた。ドラマでは「Beautiful Life~ふたりでいた日々~」「やまとなでしこ」が高視聴率を叩き出し、「やまとなでしこ」の主題歌となったMISIAの「Everything」が2000年代の女性アーティストのシングルとしては最大の売上記録を更新。そんな、現在も語り継がれるエンタメが続々と登場したこの年のメインとして、影山貴彦氏が選んたドラマとは?

ユルい世界観はバランスのたまもの!「トリック」

―「トリック」と「池袋ウエストゲートパーク」! ブームになりましたね!

どちらもリアルタイムでの視聴率は決して高くありませんでしたが、平成ドラマ史に大きなインパクトを残した名作ですよね。監督は堤幸彦さん。2000年はある意味、堤幸彦イヤーといっていいかもしれません。堤さんは1999年「ケイゾク」をヒットさせ、この「トリック」と「池袋ウエストゲートパーク」でその才能を爆発させた感じでしたね。「トリック」はいわゆる探偵ものですが、これまでにない遊び心といいますか、ユルさが本当に絶妙だった。この〝ユルい魅力″を狙うのは、非常に難しいんです。技術が伴わないと駄作になる。脚本と演出はもちろん、演者の緻密なテクニックが必要になってきます。「トリック」はその点も見事にクリアしていました。主演の仲間由紀恵さんに阿部寛さん、そして脇に大ベテランの野際陽子さん。そして、この作品で大きな存在感を示したのが生瀬勝久さん。キャスト全員が決めるところをきちんと決めていた。それが、この作品の大きな魅力につながったわけです。堤さんにはそのバランスが、まるっとお見通しだったわけですね。

当時の若者文化を凝縮した「池袋ウエストゲートパーク」

―そしてもう一つ「池袋ウエストゲートパーク」。これはキャストだけを見てもすごいですね。今、主役を張っている俳優さんの名がズラリ…。

そうですね。キャストも素晴らしいですが、「池袋ウエストゲートパーク」は2000年という時代を見事に切り取ったという意味でも、レジェンドと呼ぶにふさわしいドラマだと思います。1999年に大ヒットした石田衣良さんの小説が原作なのですが、当時はギャル文化全盛期で、10代が時代を牽引していました。大人から見たら、何をしでかすかわからない〝恐るべき子どもたち″でもありましたね。流行を作るけれど、暴走すると破壊に向かう。「池袋ウエストゲートパーク」は、そんな若者たちの危うさを見事に描いています。よくぞ小説の世界観を、ここまで勢いよく実写化したなと。監督の堤さんは「トリック」で遊び心を見せましたが、「池袋ウエストゲートパーク」ではドラマでどこまで表現が可能か、これまでの常識や予定調和を壊す実験をしたのではと思っています。

ドラマの舞台となった池袋西口公園は、2018年11月から東京オリンピックに向けて大改修の工事がスタートしました。ドラマを生みだした攻撃的かつアンダーグラウンドなムードは、あと1年もたてば全くといっていいほどなくなるのではないでしょうか。私はちょっと寂しいですね。大改修に向けての豊島区長の記者会見では、「池袋ウエストゲートパーク」の話題も出ています。ドラマの大ヒットでギャル文化やギャングのイメージが定着し、今回の大改修はそれを払しょくする意味もあるのだとか。ドラマが街に与える影響は、すごいですよね。

未来に繋げるドラマを作る脚本家、宮藤官九郎

―「池袋ウエストゲートパーク」の脚本は、宮藤官九郎さんですね。

宮藤官九郎さんは劇団大人計画所属で、宮藤さんの才能を開花させた大きな存在として、その主宰者の松尾スズキさんがいます。そしてもう一人忘れてはならないのが、TBSのプロデューサー・磯山晶さん。彼女が脚本家・宮藤官九郎を見出したと言っても、過言ではないでしょう。宮藤さんがテレビドラマで初単独脚本を書いたのは、1999年のコワイ童話「親ゆび姫」です。これも磯山さんがプロデュースをしています。その次が、この「池袋ウエストゲートパーク」。いい意味でハチャメチャで、彼しか書けない世界観ですよね。この企画を通し、宮藤さんに書かせ、金曜21時というゴールデン枠で放送したのは、まさに磯山さんの英断といえるでしょう。

―宮藤さんといえば、朝の連続テレビ小説「あまちゃん」のイメージが強いです。

そうですね。「木更津キャッツアイ」「タイガー&ドラゴン」などヒット作はありますが、「あまちゃん」で初めて宮藤さんを知った人も多いと思います。ところが「あまちゃん」も平均視聴率20.6%と、そんなに数字は取れていないんです、意外なことに。しかし「あまちゃん」は朝ドラの視聴者層を、もっと言えば、朝ドラでできる可能性を広げました。これこそ宮藤さんの功績ですよね。宮藤さんは視聴率より、ドラマの世界観、そして俳優さんの持ち味ひとつひとつをものすごく魅力的に見せ、忘れられない一作にする。彼の脚本には、ドラマの持つメッセージを、さらに未来につなげるパワーがあります。

―2019年には宮藤さん脚本で、東京オリンピック開催までの経緯を描くNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」が始まりますね。

NHK、しかも大河ドラマという制約の中で、長丁場執筆するのは大変なことです。ただ一般社会も同じですが、「なんでもご自由にどうぞ」ではなく、様々な制約の中で生まれる緊張感が全く別の面白さを生み出していくことは多いものです。型破りな宮藤さんが大河ドラマでどんな新しい風を巻き起こすのか、とても楽しみです!

「平成夫婦茶碗~ドケチの花道」の粋

―2000年のドラマで活躍した俳優さんの中で、印象に残っているのは誰でしょう?

やはり「池袋ウエストゲートパーク」の出演者はすごい。長瀬智也さんに窪塚洋介さん、山下智久さん、妻夫木聡さん、高橋一生さん。今や全員が主役を張っている人ばかりですね。私が当時鮮烈に印象に残っているのは、キング役の窪塚洋介さん。大好きでしたね。ぶっ飛んでいる演技が演技に思えなかった。窪塚さん自身が、制御できないエネルギーを持て余しているように感じました。狂気を自然に演じるというのは、ものすごく難しいんです。彼は映画「沈黙-サイレンス—」のように、弱さや迷いもしっかりと演技出来る人ですよね。柔軟性のある、素晴らしい俳優さんだと思います。

また、窪塚さんの持つ破天荒なイメージとは逆ですが、俳優として天性の風格を感じさせるのが東山紀之さん。2000年の「平成夫婦茶碗~ドケチの花道~」は良かったですね。彼は二枚目半が本当にうまい。笑いをおふざけで終わらせず、情や品を入れる抜群のセンスを感じます。「平成夫婦茶碗」の役も、働くのが嫌いでお金にだらしなくて最低な夫なのですが、おおげさな設定やマンガ的な展開も、彼が演じると応援したくなる。端正な顔立ちのせいもありますが、東山さんから溢れる誠実感が、ドラマの滑稽さをちょうど良い按配に調整しているのだと思います。

―「平成夫婦茶碗~ドケチの花道~」はストーリーも面白く、続編も作られましたね。

脚本は、2018年のドラマ賞を総なめした「義母と娘のブルース」の森下佳子さん。彼女のデビュー作なんです。とても笑いのセンスがあって、同時に胸に沁みる台詞を書く素晴らしい脚本家です。この後「世界の中心で、愛をさけぶ」「JIN-仁-」「ごちそうさん」など大ヒット作を連発し、2017年にはNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」の脚本も書いています。大河といえば、昨年の「西郷どん」を書いた中園ミホさんもこの年「やまとなでしこ」で大ヒットを飛ばしています。2000年は、前述した宮藤官九郎さんも含め、現在ドラマ界を盛り上げているトップランナーが輝きを放ち始めた年だったといっていいでしょう。

時代を切り取り訴えかけるというドラマの役割

最後にもう1作品、2000年は天童荒太さんが児童虐待について正面から描いた問題作「永遠の仔」がドラマ化されたのもよく覚えています。90年代から深刻化していた児童虐待問題を受け、児童虐待防止法が施行されたのがこの年です。「永遠の仔」はドラマで問題の深さを強く訴えたいという気迫を感じました。2000年とは、インターネットが本格的に普及し、サザエさんのように家族が茶の間に集まって一つのテレビを見るのではなく、それぞれが個人で違う方向を向き始め、家族のあり方が問われる時代でもあったように思います。だからこそ「永遠の仔」のように家族の脆弱性を描いたドラマが注目されると同時に、「平成夫婦茶碗」をはじめ、慎吾ママの「おっはー!」や大泉逸郎さんの演歌「孫」など、家族の温かさや絆を題材にしたものも多数ヒットしたのかもしれません。エンタメはまさに世相を映し出す鑑だと痛感します。

元毎日放送プロデューサーの影山教授

【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

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