連載第19回 2007年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史

東京ウォーカー(全国版)

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


面白いドラマですが、なにか。


2007年-。巷の女性はエコバックをおしゃれに抱え、家に帰ればビリーズブートキャンプに煽られてダイエットに励んでいた時代だ。グラビア界ではリア・ディゾン、ゴルフでは石川遼が人気を博し、ヤマハの開発した音声合成システム「ボーカロイド」に対応した初音ミクが誕生。バーチャルアイドルとして、世間の注目を浴びた。「音楽では『千の風になって』がはやりましたね。ドラマ視聴率第一位は『華麗なる一族』ですか。私は平成のドラマを代表する俳優を一人選べと言われたら、やはり木村拓哉さんを挙げます。ドラマとしては2007年一番鮮烈に残っているのはこれですね」と影山貴彦氏が指したのは「ハケンの品格」!

やることはやる。すべてがカッコいい中園ミホのヒロインたち


―「ハケンの品格」は、決め台詞「○○ですが、なにか」も大流行しました。

篠原涼子さん演じる主人公の大前春子は、スーパー派遣社員。いろんな資格を持っていて、トラブルが起こったり業務が滞ったりすれば、彼女がその知識と技術ですべて解決してしまう。しかし定時にきっちり帰り、必要以上のことはしない。脚本は中園ミホさんです。お気づきの方も多いと思いますが、2012年に中園さん脚本で大ヒットする「ドクターX~外科医・大門未知子~」は、「ハケンの品格」とベースが同じなんですね。融通の利かないスーパーウーマンに、周りは最初眉をひそめるんですが、次第に結果を出す彼女の仕事ぶりと人間性を認めていく…。2000年のドラマ「やまとなでしこ」の神野桜子も、やはり周りにおもねることなく、きっちりとやることをやって文句を言わせない。中園作品のヒロインは、強くて自立していて、本当にカッコいいですね。

―「ハケンの品格」は、初めて大泉洋さんを知ったドラマでした。なんだこの面白い人は!  と思いましたね(笑)。

大泉洋さんは、今やすっかり人気俳優の一人ですが、もっと評価されなければならないと思います。トークがうまいので、イメージ的にバラエティ色が強くなってしまっているのですが、俳優としてすごいポテンシャルを持ってらっしゃいます。本当にいい芝居をします。「こんな夜更けにバナナかよ」「探偵はBARにいる」など、彼の存在に引き込まれましたから。

「ハケンの品格」には大泉さんと同じ、TEAM NACSの安田顕さんも出演されていました。彼らは北海道テレビのバラエティ番組「水曜どうでしょう」から全国区に飛び出して、この頃からドラマでメインキャストとして名を連ねることも増え、どんどん存在感を強めていきました。今年4月から始まったNHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」では、TEAM NACSから安田さん、戸次重幸さん、音尾琢真さんが出演しますね。彼らの活躍は、ローカルのスターが中央で輝くことができる、ということを証明しました。これはすごいことですよね。

そしてもう一人、「ハケンの品格」に出ていた小泉孝太郎さん。正直に白状しますと、私は彼のデビュー当時は、甘くて品のいい俳優、くらいにしか思っていませんでした。しかし、ドラマ出演を重ねるごとに、ジワジワと気になってきて。驚いたのが「下町ロケット」の椎名直之役。本当に憎たらしい顔をするんですよ! ヒール役は多くの俳優さんがやりたがります。うまくいけば主役よりも目立ちますから。ただ、実力が伴わない悪役は悲惨です。キャリアを終わらせかねない。それほどハイリスクでもあります。小泉孝太郎さんは、演技が成長盛りの時チャンスに乗り、しっかりと運を掴んでステージを上げた。今年冬クールの「グッドワイフ」も、キーマンとして素晴らしい演技を見せていましたし、これからも注目したい一人です。

長期シリーズが終わる時「3年B組金八先生」


―2007年は「3年B組金八先生」が第8シリーズ。最終シリーズとなりました。

ここまで続いたのが素晴らしいと思います。というのも、生徒は1クールごとに変わるけれど、金八先生を演じる武田鉄矢さんはじめ、レギュラーの方は歳を重ねていきますから。金八先生も、初期は若さでぶつかり、生徒の悩みを真正面から受け止めていました。けれど、生徒との年齢差が開くほど、金八先生らしい〝大人としてではなく、生徒と同じ目線で向き合う〟が通じなくなる。私も教員をしていますが、最初の頃と今では向き合い方を変えています。学生の受け止め方も、友達みたいな感覚で話せる先生ではなくなってきますから。制作サイドとも、様々なズレが出てくるのは仕方がないことです。こういった長期シリーズ化した人気ドラマは、どこまで続けるかではなく「いつ終わるか」を決めるのが本当に難しい。言い出す人の勇気を想像すると、胸が痛くなりますよね(苦笑)。

金八先生のイメージが定着した武田鉄矢さんは、この前後に2006年「白夜行」、2009年に「リミット -刑事の現場2-」で、金八先生とは対照的な、強引で融通が利かない非常に厳しい刑事の役をされています。これがゾッとするほど怖いのですが、金八先生と通ずる信念みたいなものも感じて、ああ、こういうイメージのスライドの仕方もあるのだ、と思いました。

舘ひろしと「パパとムスメの7日間」「一周回って熟成する人」の味わい深さ


固定イメージからの脱却といえば、2007年「パパとムスメの7日間」で主演した舘ひろしさんを語らなくてはなりません。「パパとムスメの7日間」は、内容的には〝入れ替わり〟。よくある手法です。古くは「転校生」、近年では遠藤憲一さんと菅田将暉さんの「民王」もヒットしました。なので、このドラマが始まったときは「ああ入れ替わりね」と軽く見ていたのですが、いやいや、本当に面白かった! そして、かわいかったです(笑)。舘さんと新垣結衣さんの力ですよね。ましてや舘さんという人は、本来は何をやってもカッコいい人。それがキャピキャピな女子高生のしぐさをして、見事にひっくり返したわけです。舘さんの演技が下手だったら「ご乱心」「イタイ」とか書かれ、炎上して終わったに違いありません。そうならず、これを機に役の幅を広げた。2018年の映画「終わった人」でのコミカルな演技では、数々の賞にノミネートされています。最優秀主演男優賞に輝いた「第61回ブルーリボン賞」では、司会を務めていた新垣結衣さんとハグをしていて、パパとムスメが最高の形で再会を果たしたなあと、感動しましたね。

そもそも舘さんは「パパとムスメの7日間」のオファーを、よくぞ受けたと思います。そして、舘さんにオファーを出した制作側が本当に凄い! これまでゴリゴリにカッコいい役をされていた舘さんですよ。普通無理だと思うじゃないですか。そこを、よくぞ出演依頼をし、よくぞ受けた。そして、よくぞ無事に世に出たと思います。多くの並々ならぬ「心意気」と「決断」が重なって生まれた、奇跡のドラマだと思います。しかも、このドラマは13本のワンクール放送ではなくて、第21回参議院議員通常選挙、2007年バレーボール・ワールドグランプリ、2007年世界陸上競技選手権大会を挟むので、全7話しかなかった。それでも第54回ザテレビジョンドラマアカデミー賞と2008年エランドール賞を受賞しています。納得ですね。

「男前」は最強の武器である。福山雅治と岡田准一


2007年はこのように、イメージチェンジや冒険をする俳優さんが多かった気がします。「木更津キャッツアイ」のぶっさん役など、等身大の好青年役が多かった岡田准一さんも、この年「SP警視庁警備部警護課第四係」で見事肉体派として開花しました。脚本家である金城一紀さんの熱量も最高でしたね。土曜23時と深夜の放送ながら、視聴率が高かったのも納得です。当時、とてもおとなしい同僚の方がいたんですが、「SP」放送期間は嬉しそうに、毎回、どのシーンがカッコよかった、と話しかけてくださって。これがドラマの力ですよね。

そしてもうひとり、2007年「ガリレオ」で理系男子を演じていた福山雅治さん。私は一度キャンペーンでお会いしたことがあるのですが、この世のものとは思えないほどの美しさでした。なにをやっても男前な福山さんですが、2019年4月に始まる「集団左遷‼」は、その甘いマスクを崩し、香川照之さん、市村正親さん、三上博史さんといった、圧の強い面々に噛みついていく役どころ。福山さんの勝負時だと思います。同じく、岡田さんも「白い巨塔」で主役の財前五郎を演じるし、2019年はお二人とも、更なるジャンプアップをするのではないでしょうか。

底の時期から抜け、熟成されていく演者たち


私が大好きだった2007年の名作の一つに「プロポーズ大作戦」というのもありました。山下智久さんと長澤まさみさんが主役。三上博史さんが、なんと天使役で出演し、何度もタイムスリップをして二人をくっつけようとするドラマです。主役の山下智久さんは、この10年後の2017年「ボク、運命の人です。」で、今度は三上さんの立場を演じることになります。天使ではなく、未来から来た主人公の息子という設定でしたが、主人公に人生をやり直させる役割は同じです。「プロポーズ大作戦」はフジ、「ボク、運命の人です。」は日本テレビと局は違いましたが、脚本家はどちらも金子茂樹さん。粋な引継ぎでしたね。

〝やり直す〟に掛けるわけではないですが、俳優の挑戦が役者人生にプラスとして出るかどうかは誰にもわからない。けれど、ただ待っているだけでは生き残れない世界です。ちょうど、沢尻エリカさんが「別に」発言で世間から大バッシングを受けたのも2007年です。一度底を見て、そこから這い上がってきた人は強いですね。沢尻さんは2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」のメインキャストに選ばれ、「白い巨塔」では岡田さんと共演します。彼女のように何周か回って、再び第一線に出てきた方は、熟成された魅力がある。過去の騒動を叩くより、まずはそこから上がってきたパワーを見届けないともったいないと思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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