連載第25回 2013年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

2019年7月9日 7:00更新

東京ウォーカー(全国版) 関西ウォーカー

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史

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ドラマの魅力、倍返しだ!

富士山が関連する文化財とともに世界文化遺産に登録され、日本を代表する二つの神社、出雲大社と伊勢神宮がそろって遷宮した2013年。この歳の流行語大賞は、「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「じぇじぇじぇ」「倍返し」という4つが選定された。「『じぇじぇじぇ』と『倍返し』はドラマから。これでもわかるように、2013年のラインナップを見ると、とても力強く心に訴える作品が多いです」と影山貴彦氏。まずは、続編放送の決定が発表された、あのドラマから!

大阪編、キャスティング、時代劇要素…「半沢直樹」の勝因

―2013年は、「半沢直樹」と「あまちゃん」という、社会現象になった名作が2作ありますね。

すごい年ですよね。「半沢直樹」は初回の視聴率が19.4%。そこから1回も落ちずに20%から30%を維持して、最終回が42.2%(ビデオリサーチ・関東)。これは平成30年間のドラマ視聴率ナンバー1です。作り手としてこんな仕事ができたら、最高どころかちょっと怖くなってしまうのではないか、と思わせるくらい、作り手の思いと視聴者の反応が理想的に合った作品でした。「半沢直樹」の強さの一つとして、まず、第1話から5話の大阪編で関西の視聴者の心を掴んだということです。赤井英和さんも登場し、いい味を出しておられました。それに全国区のドラマで阪急うめだ本店や梅田の大歩道橋が映し出されると、すごく嬉しいし、「これは応援せな!」となる。舞台が東京に移っても、簡単に離脱しません。これぞ関西の愛すべきご当地性ですよね。逆に東京から始まっていたら、関西の支持は、ここまで根付かなかったと思います。

また「半沢直樹」には、関西で支持の高い仇討ちドラマの要素もありました。「倍返しだ!」という決め台詞も含め、「必殺仕事人」さながらの時代劇的なウェットさが絶妙だった。もちろんウェットに振り過ぎると、関東の支持が離れるものですが、そのバランスをキャスティングが見事に取っていたと思います。ベタベタにならなかったのは、主演の堺雅人のスマートさがあってこそ。堺さんはこの年「半沢直樹」の次クール、膨大なセリフのある「リーガル・ハイ」の続編にも出演しているんですよね。この凄まじいテンションの2作をぶっ続けで演じるのは、相当のエネルギーが必要だったはずです。よくぞ燃え尽きず、高いポテンシャルを維持して演じきられたな、と感動しかありません。

そして、「半沢直樹」で徹底的に悪を演じきった香川照之さん。素晴らしかったと同時に、後半、「もっともっと!」と演出が大きくなっていった感も見えていました。そして香川さんも、そのあたりをしっかりと理解しているんですね。2020年の「集団左遷‼」では、押さえの芝居に振りきっていて、素晴らしいと思いました。香川さんのほかにも、半沢の同僚で上司からのノルマの押し付けに病んでいく近藤を演じた滝藤賢一さんも凄まじかった! 見ていて胸が痛くなるほどでした。そして半沢直樹の妻、花役の上戸彩さん。いろいろとトラブルに巻き込まれるんですが、鮮やかに切り抜けるんですよ。彼女のあっけらかんとした現代的な強さと明るさも、「半沢直樹」が重くならなかった大きな要因ではないかな、と思います。

いまや見逃し配信や録画で楽しめるタイムシフトの時代ですが、「半沢直樹」の高視聴率を見ると、やはり誰しも最高に面白いドラマはリアルタイムで観るのだ、と確信できました。次の日、会社の同僚やツイッターでネタバレされては困る、自分の目で観る! 作り手は視聴者に、これくらいに思わせる心意気を忘れてはいけません。サイドストーリーをネットで出すとか、インスタで撮影の裏側をアップするとか、それはあくまでサブ。そこに頼り過ぎると、視聴者も賢いですから、シラケてしまいます。

しかも「半沢直樹」は、スペシャル番組に数度、流れを止められているんですよね。7月21日はJNN選挙特別番組放送、8月18日は「世界陸上モスクワ」放送のため休止しています。にもかかわらず、視聴率を一度も落としていない。それどころか、また1週間も待たせるのか、という反応が多かった。すごいことですよね。さらに第8話は、「2014世界バレーアジア最終予選男子・日本対韓国」試合中継の延長によって遅れて放送されましたが、TBSはバレーボールが終わったら、試合のハイライトなしで「半沢直樹」を放送したんです。私もその時、テレビの前でスタンバイしていたのですが、試合が終わったあと、余韻ゼロでいきなり始まったので「うぉっ!」とびっくりしたのをよく覚えています(笑)。

―続編が2020年4月に放送されることが発表されました。

そうですね。2013年の最終回では、出向命令が出るところで終わりましたが、それから7年経っていますからね。どんなスタートになるのか…。しかも「半沢直樹」の大ヒットで、日曜劇場は〝下克上枠″と言われるほど、弱者が権威に立ち向かうというパターンの様々な名作が誕生しました。これらとどう差別化を図るのかも、楽しみのひとつですね。ただし、オープニングは絶対変えてほしくない! 黄色に黒のタイトルロゴ、そして服部隆之さんの音楽。変えたら私は怒りますよ(笑)!

―本当に好きなんですね(笑)。では次に、2013年のもう1本の名作「あまちゃん」のお話を。

間違いなく、平成30年間のNHK朝の連続テレビ小説で最高傑作です。「あまちゃん」がなければ、NHK朝ドラは2019年まで続いていなかったかもしれません。朝ドラの視聴率が低迷するなか、今までやったことのないことを、これでもか! というほど盛り込んでいました。これまでの朝ドラのヒロインは、つらいことがあっても頑張り、笑顔で乗り切るという優等生が多かったですが、「あまちゃん」のアキは、ちょっと違っていた。「あまちゃん」は「アマチュア」のあまちゃんでもあるし、「海女さん」にもなりきれない「あまちゃん」、そして「私って甘ちゃんだなあ」という「あまちゃん」も含めていたのではないでしょうか。その未完成さを、能年玲奈さんが思いきり突き抜けて演じていた。だからこそ、視聴者は応援したくなったのだと思います。

「あまちゃん」の東日本大震災の描き方

「あまちゃん」は東日本大震災のシーンがありましたが、その悲惨さを、ジオラマ、トンネルを抜けたところの瓦礫を歩くシーン、そして宮本信子さんのナレーションで描き切っています。私たちはこれだけで、こんなに震災のことを思い出すんだ、と感じました。1回目からジオラマが出てくるので、脚本を担当した宮藤官九郎さんは、最初から描き方を決めていたと思います。ただ放送時、「震災のシーンはどうするんだ」とそればかり追求するメディアもあり、私はそれに対して違和感を持っていましたね。

今「あまちゃん」にかかわったスタッフの多くは、大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」で新たな世界を切り開こうとしています。そして「いだてん」でも宮藤官九郎さんは様々なチャレンジを盛り込み、大河ドラマの新たな可能性に向けて種まきをしています。昔ヒットした作品のパターンをなぞるのももちろん方法の一つですが、それを続けていても先細りしてしまう。挑戦と開拓が必要です。そして、それは当然「誰もやったことがない」から、どんな結果が出るのか誰もわからない。すごい勇気のいることです。それをしている作り手に対して、少し数字が伸びなかったから叩くというのは、あまりにも浅はかですよね。メディアはゼロから物語を作り出す人たちを、もっとリスペクトすべきだと思います。

―「最高の離婚」も東日本大震災が描かれていました。

「最高の離婚」は脚本が坂元裕二さん。こちらも名作です。瑛太さん演じる光生と尾野真千子さん演じる結夏が、東日本大震災の帰宅難民として都心の街を歩いて帰っている時に出会い結婚する、という設定です。その後、気持ちのすれ違いが重なっていく……。近くにいるとわかりづらい、複雑な愛情を見事に描いていました。特に7話での置手紙のシーンは忘れられません。結夏が家を出る決意をして、光生のためにハンバーグを作り、光生への思いをかわいい便せんに何枚もしたためる。それをナレーションで読ませるのですが、実際はくしゃくしゃにして捨ててしまい、広告チラシの裏に「冷蔵庫にハンバーグあるからチンしてね」とだけ書いて出ていくんです。思い出しても……すいません、涙が出ますよね(泣)。素晴らしいシーンです。

杉咲花の渦巻くようなエネルギーと、亀梨和也の空気をまとめる自然さ

― 2013年に注目した俳優や脚本家を教えてください。

湊かなえさんの原作をドラマ化した「夜行観覧車」の脚本家、奥寺佐渡子さん、清水友佳子さん。女性らしいきめ細やかな心理描写が素晴らしかったです。彼女たちは2017年に、同じく湊かなえさん原作のドラマ「リバース」で、第93回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞しています。最近では2019年春クールで私がナンバー1に挙げた「わたし、定時で帰ります。」も、このお二人ですね。「夜行観覧車」は殺人というミステリー要素はもちろんですが、人の心理を深くえぐり出し、ゾッとしました。心の奥のドロッとしたところが爆発する感じは、TBS金曜ドラマの真骨頂と言えるでしょう。

「すごい俳優が出てきたな」と思ったのは、「夜行観覧車」で、主演の鈴木京香さんの娘役を演じていた杉咲花さん。普段はおとなしいのですが、いろんなストレスがたまりにたまり、ついに暴れるシーンは狂気を感じました。多くの視聴者が、このドラマで彼女の才能を確信したのではないでしょうか。男性では「東京バンドワゴン~下町大家族物語」の亀梨和也さん。「野ブタ。をプロデュース」もそうでしたが、亀梨さんが等身大の青年を演じると、全体の空気がやさしくなるのを感じます。「東京バンドワゴン」の彼も本当に愛しくて、大好きだったですね。彼の父親を演じた玉置浩二さんも、役者として素晴らしいと思います。亀梨さん然り、玉置さん然り、ナチュラルな芝居をする人は、とても繊細で傷つきやすい。逆の言い方をすれば、デリケートだからこそ、自然でなにげない仕草で感動を作ることができる。そこに惹かれるんですよね。

前を向こう。思いを伝えようとする作り手のエネルギー

満島ひかりさんが主演を務め、複雑な親子の関係から「生きる」という壮大なテーマを描き出した「Woman」もこの年だったんですね。脚本はやはり坂元裕二さん。2013年に坂元さんは、「最高の離婚」と「Woman」という密度の濃い作品を2本も書いていたということですか! 「半沢直樹」と「リーガル・ハイ」に主演している堺雅人さん、そして半年間ハイテンションで「あまちゃん」を書き切った宮藤官九郎さん。この3人のパワーは特筆すべきものがありますが、2013年という年は全体的に、やっとリアルに「元気になっていかねば」という人々の気持ちと、メディアの動きがリンクしてきたころだったのではないでしょうか。生きる希望を描こうとするエネルギーをすごく感じます。震災から2年経ち、時間をかけて前を向く。それをしようとしていた人たちの凄まじい努力が、名作を生み出したのだと思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授

【著者プロフィール】影山貴彦(かげやまたかひこ)同志社女子大学 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」(実業之日本社)、「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

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