連載第26回 2014年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

東京ウォーカー(全国版)

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


お言葉を返すようですが、時代の転換期です!


ディズニー映画「アナと雪の女王」が大ヒットし、主題歌の「ありのままで」が毎日のように流れていた2014年。消費税が5%から8%となり、STAP細胞事件や作曲家佐村河内守氏のゴーストライター事件、さらには兵庫県の元県議会議員野々村竜太郎号泣会見など、ワイドショーネタに事欠かなかった。「いろんな事件が重なる時期ってありますね。2014年はまさにそうでした。ドラマも、語りたくなる作品が多いですよ!」と影山貴彦氏。さて、まず一作目に名が挙がったのは…?

杏の頑固なまでの〝正義感〟がハマった「花咲舞が黙ってない」


―2014年、印象的だったドラマはなんでしょう?

杏さん主演の「花咲舞が黙ってない」は良かったですね。池井戸潤さん原作、しかも銀行を舞台にしていたので〝女半沢直樹〟のようなニュアンスで見始めました。正直、始まってすぐは、さほど期待もしていなかったんですよ(笑)。ところが、毎回観た後の気分がとても良くて、気がつけば毎週水曜22時にテレビの前でスタンバイするようになっていました。ドラマというのは「この作品が楽しみで仕方がない、来週が待ち遠しい」というものもあれば、そのドラマについて、とくにワクワク考えているわけではないのに、放送開始時間がくれば自然とチャンネルを合わせ、楽しんでいる…というのもあります。「花咲舞が黙ってない」は、まさに後者。小さな楽しみが続き、トータルで考えたらおおいに楽しんだ、というパターンですね。ドラマとしてすごく理想的な形の一つだと思います。前のめりになって観たくなるものだけが、名作ではありませんから。

どんな権力者にも「お言葉を返すようですが」と立ち向かう、熱血感溢れる杏さん、そんな彼女を冷めて見ているようで素晴らしい包容力でフォローする上司役の上川隆也さん。このコンビがとても良かったですね。杏さんの理知的なムードは、この「花咲舞」然り、2011年の「名前をなくした女神」然り、頑固なほど正義感が強く、孤立を恐れない役を演じさせると見事です。杏さんは、2019年7月開始のドラマ「偽装不倫」で4年ぶりに連続テレビドラマ主演を務めていますが、彼女がラブシーンをすると、なぜかすごく照れてしまうんです(笑)。多分、彼女の女剣士のような精悍さが先に立つんでしょうね。

脚本家井上由美子の「品格」―「昼顔」「緊急取調室」


―そして2014年は、問題作「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」もありました。

これも素晴らしかったですね。女優陣の熱演は特筆すべきでしょう! 主演の上戸彩さん、そして吉瀬美智子さん、伊藤歩さん。全員清潔感を漂わせていながらも、ドロッとした罪悪感や愛憎も表現し、本当に魅力的でした。また、脚本家の井上由美子さんの力量を思い知った作品です。正直、不倫がテーマですから、どこまでもベタベタで下品になってしまってもおかしくないんです。そこをプライムタイムにふさわしい人間ドラマとして、品格を保った井上由美子さんのセリフや描写に舌を巻きました。

斎藤工さんがおとなしい生物教師を、メガネをかけて演じてらっしゃるんですが、色っぽい人に、あえてそれを隠すキャラクターを当てたのも効果的でした。上戸彩さんも全然オシャレではなくて、伸びたTシャツを着ているんですけど、それがすごい色気を放っていて。こういった男性と女性の〝生活の中にある艶〟の表現とバランスが、リアルで絶妙でしたね。映画は衝撃的なラストでしたが「どれだけドラマで魅力的に描いてはいても、やはり不倫は周りを不幸にするものだし、最終的には自分もつらいのだ」という着地点を井上さんは示唆しているのかなと感じました。深読みかもしれませんが。

この年からスタートした「緊急取調室」も井上由美子さんの脚本。このドラマでは、表現過多にならない井上さんの余裕に参りました。「これからどうなるんだろう」と、視聴者に託すところを残しておく。思い入れが強くなるほど「このシーンの意図はこうだよ」と、台詞で語りたくなるものですが、井上さんはそれをしない。これが作品に素晴らしい余韻を生みだしているのだと思います。

ヒットを作る〝時代性とタイミング〟「若者たち2014」「おやじの背中」


―この年は名作「若者たち」のリメイク、「若者たち2014」もありましたね。

妻夫木聡さん、瑛太さん、満島ひかりさんなど、素晴らしい役者陣が揃っての大チャレンジでしたね。1966年の名作を2014年版に焼き直すという挑戦ですが、これはすごく難しかったのではないかな、と思います。何度もリメイクされている「白い巨塔」は、舞台が医学界。こういった職業が軸のドラマは、時代を経ても変わらない基本部分があるからストーリーがブレずに済むんです。ただ、人間の気持ちや日常生活がメインのドラマとなると、時代によって価値観、特に若者の考え方はずいぶん変遷しますから。「若者たち2014」も、偉大なるオリジナルへのオマージュに、2014年という時代性をどう入れるか。そのせめぎ合いで悩んだのではないでしょうか。今の時代にどう合わせるか、タイミングやポイントは本当に難しい。それはドラマのヒットデータを見るごとに痛感しますし、大げさではなく、ドラマの神様のきまぐれを感じる時もあります。

「おやじの背中」もそれを感じたドラマでしたね。オムニバス形式で、脚本家は1話ずつ変わるのですが、全員超がつく大物です。俳優・演出・脚本、すべていいんです。でも、大ヒットとまではいきませんでした。オムニバスはブリッジ的役割がいるかどうかでも、大きく変わりますね。オムニバスドラマで大ヒットした「世にも奇妙な物語」は、タモリさんというナビゲーターがそれぞれの話をつなぎ、世界観の統一に成功していましたが、怪奇ストーリーだからこそ、あの演出が生きた気もしますし。「おやじの背中」は、もう一度見直してみたいなと思います。もしかしたら当時と全く違う感想を持つかもしれません。

一つの時代の終わりを感じさせた「笑っていいとも」の終了、高倉健さんの死


―タモリさんといえば、2014年は「笑っていいとも」が32年間の歴史に幕を下ろしています。

これは、テレビの歴史の中でもすごい事件でしたね。この頃は、「笑っていいとも」をどうするのか、というのがフジテレビのトップの大命題であり、それを担ったのが「踊る大捜査線」のプロデューサーで、2013年に第9代フジテレビ代表取締役社長に就任した亀山千広氏でした。私は、「笑っていいとも」がこの年に終わったのは、タイミング的に間違っていなかったと思います。「笑っていいとも」の終了のきっかけを失ったら、タモリさんのタレント人生を終わらせてしまうことになるからです。しかし「笑っていいとも」は引き際を見つけ、タモリさんは今、よりタモリさんらしく元気に活躍されています。それが、すべての証明ですよね。「ブラタモリ」なんて全国に飛び出してますから(笑)。シニアの理想じゃないですか。70歳を超えてあんな人生を送れたら。

私が大学に入学したときに「笑っていいとも」が始まっていますから、あの番組は青春そのものなんです。なにをするにも新宿で。生放送が行われていた新宿アルタ前を通る時はいつもテンションが高まったものです。だから終了を知った時は、いろんな思いが押し寄せてきたし、一つの時代の終わりを感じました。またバラエティー番組で、あれくらい熱量のあるタイトルが生まれてほしいです。

―時代の終わりといえば、日本を代表する俳優、高倉健さんが死去したのもこの年です。健さんは映画俳優というイメージが強いのですが、テレビドラマはされなかったんでしょうか。

ドラマもゼロではないんです。連続テレビドラマでの主演作は1作だけで「あにき」というのがありました。やっぱり圧倒的に映画の人ですよね。代わりはいない。大好きです。特に山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」、降旗康男監督の「あなたへ」は何度観たことか。「鉄道員」も素晴らしかった。雪がしんしんと降り積もる中、駅長姿の健さんがピーッと笛を吹く。あのシーンだけでも、何時間でも観ていられると思いましたね。

お笑いの才能がドラマで開花する「素敵な選TAXI」


―ドラマに話を戻しましょう。「ファースト・クラス」は、ちょっと変わった演出でしたね。

ファッション業界で働く女性たちが敏感に周りを順位付けし、蹴落としていくという激しいバトルはすごかったです! 女性のギラギラとした強さに圧倒されたドラマでしたね。番組の冒頭と最後に、主要登場人物の力関係をしめした「マウンティングランキング」が発表されるという演出は何気ないアイデアでしたが、ドラマに迫力を加えていました。これが話題になり、「マウンティング」という言葉と現象が一気に認知度を高めていったのですから、面白いですよね。

演出の面白さといえば、もう1本どうしても語りたいのが、「素敵な選TAXI」です。脚本はバカリズムさん。私は「世にも奇妙な物語 2012年 秋の特別編『来世不動産』」で彼の才能に驚き、連続ドラマも書いてほしいと思っていたので、嬉しかったですね。乗客の望む過去まで連れていくことができる「選TAXI」の運転手・枝分が、人生の選択の失敗に苦しむ乗客を乗せ、その岐路までタイムスリップをするという内容です。喫茶店のシーンも良くて、愛すべき緩さのあるドラマでした。バカリズムさんのシュールな世界観と発想、そしてあのテンポは、お笑いの経験があるからこそ書けるのではないでしょうか。生まれるべくして生まれた才能だと思います。この次の年、2015年に芥川賞を受賞する又吉直樹さんと相通ずるものも感じますね。

バカリズムさんは2017年、原作・脚本・主演3役を務めた「架空OL日記」で、向田邦子賞を受賞。2020年には映画化されることも発表されました。もちろん、ドラマ版同様、彼が原作・脚本・主演を担当します。私は、バカリズムさんが監督として作品を撮る日も近い気がします。彼のように入り口は異業種でも、センスの塊みたいな人がいるんですよね。才能のビックリ箱。こういった新たな人材がドラマに新風を吹き込み、時代を作っていく。だからこそエンターテインメントは面白く、見逃せないですよね。

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【著者プロフィール】影山貴彦(かげやまたかひこ)同志社女子大学 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」(実業之日本社)、「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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