料理に凝縮された、創業100年の伝統が紡ぐ味と技術「はり重グリル」

東京ウォーカー(全国版)

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大阪・道頓堀にある大阪松竹座の隣に、ひときわ目を引く建物がある。この土地で長きにわたり人々や町の変遷を見てきたであろう建物は、昭和の古き良き時代を彷彿とさせる。この歴史ある建物で、長年営業し続ける名店がある。2019年でちょうど創業100年を迎える「はり重」だ。

3代目の藤本有吾さん。クラシカルな雰囲気のグリル。店内はまるで昭和の時代にタイムスリップしたかのよう


御堂筋通りにも面している店舗。精肉店にはひっきりなしに客が訪れる


1階では精肉店とカレーショップ、グリルを、2階ではしゃぶしゃぶやすき焼きを提供する和食店。この大所帯を率いるのが、3代目の藤本有吾さんだ。「私なんかが偉そうに店のことを話していいものか…」と謙遜しながらも、はり重の魅力について、愛情たっぷりに話してくれた。

時代とともに守るべきものと進化させるものを見極めていく


大学卒業後、大手化粧品メーカーに就職。営業マンとして、6年ほど働いたあと、29歳で店に戻り、経営者となるべく経験を積んだ


はり重の起こりは、遡ること大正時代。1919年(大正8年)、有吾さんの祖父にあたる初代の藤本喜蔵氏が大阪府堺市で小さな店を開いたのが始まりだ。その後、繁華街として栄えていた新世界にすき焼き屋兼精肉販売の店を開店。戦後の1948年(昭和23年)に、現在の地・道頓堀に場所を移して再スタートを切ったという。

従来の和食に加えて、洋食やカレーもスタート。「当時の道頓堀は、五座とよばれる演劇場や芝居小屋がたくさんあって。上方文化の発信地として多くの人でにぎわっていたそうです。当時は、役者さんや芸者さん、旦那衆も足しげく通ってくれていたと聞いています」と有吾さん。はり重の肉は、界隈でたちまち評判となり、独立店としては2号店となる大宝寺店をアメリカ村にオープン。先代の時代には、百貨店への出店を始め、大丸心斎橋、大阪髙島屋、近鉄上本町で、精肉や総菜を販売するようになったという。

道頓堀店の前を、たくさんの人が行き交う様子が描かれた絵画が飾られている


有吾さんの代からは、ネットショッピングを新たにスタート。「寂しい話なのですが、年々、精肉を買いに来るお客さんが少しずつ減っていて…。そんなときに『道頓堀まで買いに来るのは難しいけど、はり重のお肉を食べたい』という遠方のお客さんもいらっしゃることを知って」

有吾さんは「東北に住むご年配のお客様から注文が入って配送をしたところ、お肉を食べたお客さんから『幼いころに両親が食べさせてくれた、はり重のお肉を今度は孫に食べさせてあげたいと、注文したんです。月日が経っても、やっぱりおいしいものはおいしいですね』とメールをいただいて。本当にうれしかったですね」と続けた。自社のサイトをわざわざ検索して注文してくれるお客さんがいたということに、有吾さんはとても感銘を受けたそうだ。

創業から変わらない店内。蝶ネクタイ姿のウェイターも当時のままだ


時代が移りゆくにつれ進化したものも。「和食、洋食、カレーを同一店舗で提供するのではなく、まったく別の店舗として、それぞれのスタイルで提供し続けている。わざわざ空間を棲み分けしたうえで、どのジャンルも突き詰めることができる。先代には本当に感謝しています」と有吾さん。

理屈を超えたお客さんの「美味しい」のひと言が一番うれしい


長年愛され続ける「はり重のお肉」。年末年始は1日で数頭消費することもあるという牛は、産地ではなく、“黒毛和牛の雌”にこだわって仕入れている。「肉のきめ細かさ、甘さ、脂の質が違いますね。雄に比べて雌のほうが脂の融点が低いので。人体の中で溶けるスピードも早い。つまり、胃もたれもしにくい。うちの店では、年配のお客さんでもサーロインステーキをペロリと完食してしまうほど。そこに、黒毛和牛の雌を選ぶ理由があるんです」。

王道の「ビーフカツレツ」(2200円)。ビフカツには、黒毛和牛のフィレを使用。1頭から取れる分量が少ないヘレはとても貴重だ


洋食の味の要となるデミソースも同様。特別なことをするわけでもなく、長年、手間ひまかけてじっくり煮込んできたという。「ビーフカツレツ」(2200円)を食べたお客さんには、「50年前からずっとこの味や」と言われることも。定番のビーフカツやハンバーグは洋食店開店当時から提供し続けている。

「ハンバーグステーキ」(1750円)。ビーフオムライスやグラタンも昔から変わらぬ味わいで愛されている


ハンバーグは、今流行りの100%牛肉の粗びき肉汁たっぷりのタイプではなく、老若男女に愛される優しい味わい。牛豚合わせた細かめのひき肉を使うことで、ふんわりやわらかい食感になるという。「うちのハンバーグとミンチカツは味がいいって評判なんです。ほかの店に比べて、変わった食材を入れているわけではないのですが、調味料の配合と肉の熟成が合ってるんでしょうね」。“王道”の味を作るのも、やはり長年の経験と牛肉の質によるのだ。

守り続ける暖簾と、道頓堀の町衆文化


赤と緑の暖簾がかかる精肉店の店頭では、ミンチカツやビフカツサンドも販売している


有吾さんは「うちの店は知っているけど、入ったことはない、敷居が高いと思っている人にもっとはり重に来てほしい」と話す。デートでも観光でも、外食の選択肢に入れてもらえるくらい、いい意味でハードルを下げたいと思い続けているという。「グリルで提供している洋食も、特段珍しいメニューではないかもしれない。でも、王道を突き詰めると、こんな味になるんだぞ、ということを知ってほしい。一から作ったデミソースの美味しさも、きっと分かってもらえるはず」。

現在は、精肉店の先頭に立つ傍ら、道頓堀商店会の副会長としても活躍している有吾さん。元は上方文化の中心であったにも関わらず、“文化的な町”というイメージが徐々になくなっていることを懸念している。「商店会でも、ライブエンターテインメントの町を受け継いで行こうと、さまざまなイベントを主催しているんです。観光客はもちろんですが、その前に地元に住んでいる僕たちが楽しめるような町にしないと」と語る口調は頼もしい。「はり重」と商店街の挑戦はまだ始まったばかりだ。

※はり重グリルはAmexとJCBの地元を応援するプログラム「SHOP LOCAL」参加店です

【構成=CRAING/取材・文=高島夢子(エディットプラス)/撮影=木村文香(UNPLUGGED)/ウォーカープラス編集部】

※記事内の価格は特に記載がない場合は税抜き表示です。商品によって軽減税率の対象となる場合があり、表示価格と異なる場合があります。

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