戸田恵子インタビュー 三谷幸喜作演の一人舞台は 「私のできることすべてが入ってます」
関西ウォーカー
戸田恵子が三谷幸喜の作・演出により、ミヤコ蝶々をモチーフにした一人芝居「なにわバタフライ」(2004年初演、10年、12年再演)を演じて以来、再び三谷作品の一人舞台を上演する。昨年、還暦を迎えた記念にと三谷に新作を依頼、東京で上演し好評を得た作品だ。今回の再演で全国21か所を巡演、大阪にも初登場する。

映画『オズの魔法使』で知られるアメリカの大女優、ジュディ・ガーランドの半生を、付き人兼専属の代役だったジュディ・シルバーマンが書いた日記をもとに描くという設定で、女性3人の生バンドと共にエンターテインメント性を盛り込んで作り上げた舞台だ。
ジュディ・ガーランド(1922~69)の名前を若い人たちは知らないかもしれない。トニー賞、グラミー賞を受賞した往年の大女優&歌手。映画『キャバレー』でアカデミー賞を受賞したライザ・ミネリの母でもある。ミュージカル映画を語る時、「オーバー・ザ・レインボウ」の歌とワクワクする思いが同時に浮かぶ、大スターだ。
前回の一人芝居「なにわバタフライ」の開演前、一人で黙々とストレッチを続ける戸田さんの姿が甦る。また、「ひとり芝居の稽古場は寂しい」と話していた三谷との会話も思い出す。それなのに? なぜ? 当時から年数を経て、体力的にもキツイだろう…と思いながらも、三谷が戸田さんのお祝いに贈った新作を観たい気持ちが勝る。近年、大人向けのおしゃれなショーが、関西ではほとんどない。私自身も楽しみに合同取材会に出掛けた。
【なぜ、一人舞台を?】

本来ならば、1人でやるのは好きじゃないんです。さみしいし。ウォーミングアップも1人で稽古場で黙々とやらなきゃいけない。ほんとに自分との闘いで。たくさんの人と一緒にお芝居するのが楽しくて、誰かとセリフを交わすことが好きで女優をやっているんですよね。でも、誰かを頼むってことは、事務所さんにスケジュールを抑えていただかなくちゃいけない。人のスケジュールを抑えることはとても大変なことで、それだけ人様にご迷惑をかけることになるので、いろいろ考えたらやっぱり一人でやるのが一番迷惑がかからない方法ということで、一人になってしまったんです。
【三谷幸喜への依頼は】
「なにわバタフライ」とは違った形で、今回は歌とかエンターテインメント的なものも取り入れて何かできたらうれしいな、と。たまたまニューヨークで見たショーにインスパイアされたところもあり、一人のアーティストを描いたものはどうでしょう? という提案だけさせていただいてお渡ししたら、三谷さんはジュディ・ガーランドを選んでくださって。
私の大好きなアメリカの大女優さんで、その人の話がモチーフになった、歌もあってショーに近い、ちょっと新しいものの形になりました。
【初演から再演へ】
ただ蓋を開けてみたら、去年は本が出来たのは初日の6日前で。それまでプロットはもらってましたが、中身が全然わからなかったんです。台本は、ちょっとビックリするほどのセリフ量があり、これをやるのに6日は短すぎた、さすがに。ほんとに頑張って公演を終わらせたっていうぐらい、終わってからもだいぶ胃が痛くて。去年は心ここにあらずの状態で終わった感じなので、ぜひとも再演を、と。東京の小さな劇場で4日間だけの公演でしたし、お客様もおかげさまで入りきらない状態で、たくさん不満もいただき(笑)。じゃあ、もういっかい。今度は台本があるから精神状態もいい状態で出来るので、どうせなら全国に行って新しい形のものを観ていただこうということで組ませていただきました。
【作品の構成】

ジュディ・ガーランドの付き人だったジュディ・シルバーマンという、同じ名前のジュディという人の30年間書き綴った日記の中から、ジュディ・ガーランド にまつわる部分だけをピックアップして、ガーランドが17歳でミュージカル映画『オズの魔法使』のドロシーを演じる少し前から、2人のジュディが亡くなるところまでを、シルバーマンの目線を通して年代を追って描きます。ジュディ・ガーランドが愛した歌の数々を、有名な『オズの魔法使』の「オーバー・ザ・レインボウ」やスタンダードジャズのナンバーなど10~11曲ぐらい散りばめながら、日記を朗読したり、戸田恵子が語る部分もあったり、という構成です。歌うところは、ジュディ・ガーランドに扮してやります。

ジュディ・ガーランドのことを知らなくても、全体がグッとつかめる話になっているので。知らないアメリカのミュージカル女優の話を聞くのにはすごく楽しいと思います。
【私のココを見てというところは?】
一人で何もかもやるという、ところですかね。ちょっとテンテコマイ。三谷さんの演出は、とにかく楽しんでもらうために惜しみなくやるっていう精神なので、意外に動くことになって、ちょっと驚きました。もちろん歌いますし、ナレーションに朗読、自分自身が語ったり、道具を動かすのも全部私一人でやっているので、ほんとに還暦記念にふさわしい、私の今までのお仕事のすべてがこの中に入っているという感じです。三谷さんは「これは戸田恵子のいいとこ取りなんで」って。とにかく私の出来ることを全部、この中にいれていただいたっていう。入れすぎたって感じはありますけど(笑)。
【三谷さんの演出力】
作家としての力は当然ですけど、私はいつも演出も「あぁ、すごく力がある方だな」というふうに思ってて。だから、ものすごくつまらない本でも、きっと演出されたらおもしろくなるんじゃないかっていうぐらい演出する力をお持ちだと思います。三谷さんと仕事したら、私はよりワンランクアップできるっていう勝手な自信がありますね、他力本願的な。私にまだこんなに引き出しありましたか?っていうところを開けていってくださる。そういうことにチャレンジできるのがおもしろいですよね。
【生バンドについて】

生バンドなので生の音も楽しんでいただきたいです。私1人に3人を付けて回るっていうすごく贅沢なことなので。還暦なので何かスペシャル感をと思って、女性のトリオで揃えたいと希望を出したら、三谷さんは音楽はお任せしますということだったので、昔から知り合いの荻野清子さんに相談してレディスで、と。で、実際一緒にいろんなライブハウスに行って、観て、生意気にも私たちが決めさせていただいたアーチストなんです。ただ歌の演奏だけじゃなくて、効果音やピアノ弾きながら登場人物になったりとか、いろいろ参加してもらって楽しくやってます。
【ジュディ・ガーランドとのご縁】
実はジュディ・ガーランドを演じるのは、2回目なんです。前回は宮本亜門さん作・演出の「アステア・バイ・マイセルフ」(1990年)という、フレッド・アステアをオマージュした作品の中に出てくるジュディ・ガーランド。アステアとのシーンを完コピしました。今回も私がお願いしたわけじゃなくて、三谷さんが選んでくださったので、あぁ、ジュディを私にやらせてもらえるんだなぁって、すごくうれしかった。大好きな女優ですしね。
【大スターの人生】

改めて今回、ジュディ・ガーランドの一生をみたら、名女優、大女優、大スターはすごく波乱に富んだ人生を送ってるっていうことを感じます。前にやった蝶々さんもヒロポンを打ってたし、ジュディ・ガーランドも薬物中毒だった。あの時代に子役からとにかく働かされて、何度も結婚して…。「そういった時代の人たちは似てるね」って三谷さんとも、よく話します。望んでそうなったんじゃないなぁということをつくづく感じながら。
賞をたくさんもらい、ショービジネスでは成功をおさめて来たけれど、プライベートではほんとに…。最後の亡くなり方も可哀そうって、改めて感じました。初演の時もそれなりに大変な人生だなと思ったんですけど。今回は台本を何回も見る時間がありましたから。
ジュディ・ガーランドは、47歳で亡くなってるんですよ。何度もつぶれてハリウッドを去って、また戻ってきて。バイタリティあるなぁと思いますけれども、ほんとに短い人生を駆け抜けたなぁというふうに思って。なのに、ほとんどの人がその人生を知らない。それをちょっとでも紹介出来て、またジュディ・ガーランドの映画とか観てもらえたら、今観てもどれだけ素晴らしいかがわかりますから。
【ツアー中に気を付けていること】

もうとにかく体力を温存することが一番。昔みたいに出歩いたりは一切しないです。とにかく毎日、1人で歌ってしゃべって。今も通し稽古は絶対に1回だけ。稽古時間も4時間MAX。やれたとしても次の日につながらないので。今回はちょっと組みすぎなぐらいなので、調子に乗らないこと。調子に乗ってる私を見たら、みんなで私を止めてくださいって言ってます。精力を付けて、休んで、1日1回、1時間半のステージに全力投球できるように。誰かが管理してくれるわけじゃないから、自分で気を付けておかないとね。
とだけいこ●1957年、愛知県生まれ。歌手デビュー以降、声優、女優、ナレーターなど多彩に活動。アンパンマンの声などで知られ、三谷幸喜との出会いから多くのドラマや映画、舞台などに出演し活躍中。歌手としてアルバム「Back Gammon」を9月にリリース。来年1月にはリリース記念ライブが控える
STAGE「虹のかけら~もうひとりのジュディ」

公演期間:12月3日(火)18時30分、4日(水)14時 会場:サンケイホールブリーゼ 構成・演出:三谷幸喜 出演:戸田恵子 音楽監督:荻野清子 ピアノ・アレンジ:荻野清子 ベース:平野なつき ドラム:BUN Imai 価格:S7800円 ブリーゼシート5000円 問合わせ:06-6341-8888(ブリーゼチケットセンター)
取材・文=高橋晴代
高橋晴代・はーこ
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