【加藤登紀子にロングインタビュー:その3】偉人7人との対談集「命を結ぶ」を発売!

関西ウォーカー

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(その2の続き)

―加藤さんがおっしゃっていた「自分のやりたいことや自分をどう生きるのかということと、どうすれば世の中に自分を受け入れてもらえるのかということがせめぎ合っている」という言葉がすごく心に入ってきて。端目から見ていると、加藤さんは自分の思う通りに音楽を…人生を生きていらっしゃっているように見えていたので、とても意外でしたね。

これは、歌とか…それ以外でも自分自身で“何か”を表現したいと思っている人や、たとえば普通に会社務めをされている人にでも、若い世代の人たちにはこれからもそういう葛藤が出てくると思うんだけど、どんな環境にいても「自分の思っていること」「自分が言いたいこと」というのが必ずあるはずで、だけどそれを言える状況に居ないとか、発言権や決定権が自分に無いということでそれを閉じ込めておくしかないってことも多いと思うのね。でもね、発言権がなかろうが決定権がなかろうが、「自分はこう思っている」「自分はこう感じている」という確かな気持ちを持ち続けていることが大切なの。自分の求めていることは必ずしも認められないかもしれない。だけど、それなら相手が求めているものに順応していくだけでいいのかって、そういうことにはならないよねっていうことをわかってもらいたくて。例え容易に受け入れてもらえないとしても、それでもぶつけ合ってせめぎ合っていくことで自分自身がもっとハッキリ見えて、自分の気持ちがしっかり固まってくる。そうすることで、ある時にふと受け入れてもらえたり届いたりすることがあるから。

―ご自身がちゃんと戦わないといけない相手が常にいらっしゃったんですね。

うん。自分からは全然見えないところで傷付けられたこともありましたよ(笑)。面と向かって「もう歌は作らないでください」って言われたこともありましたよ(笑)。

―…歌を作らないでくれって言われたんですか?

そう(笑)。ほら、あたしが作ると…レコード会社的に「ちょっと…」っていう曲もできちゃうじゃない?(笑)。だけどあたしは「冗談じゃない」って、作り手というのはそれを作ることで「生きている」んだから、自分が生きるためにそれを作っているんだから、どういうもの作ろうと放っておいてよって(笑)。それで上前をハネているのはそっちでしょ、儲けてるのはそっちでしょって(笑)。

―アハハハハハハ!

作り手をうまく誘導して利用して、いわゆる“売れる曲”を作らせて、そこからお金をかすめ取るのなんか勝手にすればいいけど、そうやって作り手の気持ちまで、心の内まで口出しするのはやめてくださいって、そういうことは随分と論争しましたよ(笑)。だからレコード会社とか…音楽を「商品」にする立場にいる人たちの事は「敵」だって思ってたの。だけどね、「敵」でいいのよ。ある程度、お互い立場は違うところにいるっていうことははっきりわかっておいたほうがいいの。作りたい人と売りたい人、それぞれのベクトルがぶつかり合いながらひとつのものを作りあげていくっていうのが大切だと思うから。戦うっていうことは、そういうことなのよ(笑)。だからレコード会社の人たちにもいつも言うんだけれど「わかりました、あなたの言う通りに致します」なんて言ってばかりじゃだめよって(笑)。そちらに譲れない一線があるなら、それを守るよう努力すればいいの。売れないなと思ったなら、ちゃんと「この曲は売れません」って言えばいいの(笑)。そういうプレッシャーは、昔から今もずっとありますよね。

―先ほどの「ジャズを健全化すること」のお話と繋がりますけど、世の中の人すべてが、そういう…幸せとかポジティブな面を鼓舞した歌だけを求めているというようには思えないんですけどね。

そう、だから世間の人じゃないのよ、レコード会社が求めてるのよ(笑)。

―あっそうか(笑)。

そうそう(笑)。たぶん「こうだろう」っていうざっくりとした勝手な予想をたてているだけで、本当に今、世の中の人が求めていることは何だろうってことを真剣に考えていないんじゃないかと思うわよね。もちろん、そういうことを真剣に考えている人もいると思うんだけど、それでも自分の目が届く範囲の一部分の人を、あたかもオピニオンリーダーにしているだけか、たまたま見聞きした一瞬のことですべてを勝手に判断しているに過ぎないのよね。

―戦争という過酷な経験をされている方に対して、唯一すごく羨ましいと感じる部分は「生」というものに対する…「生きる」ということのリアリティが違うということですね。死生観というか、そういうことに対する意識の深さが、やはり不自由の少ない時代しか生きたことのない世代とはまったく違う。歴史的な事実を伝えるという意味はもちろんですが、それによって与えられた喪失感とか失望感っていう感覚のようなものもちゃんと伝えていける方がどんどん少なくなってしまうというのは、ある意味ですごく恐いことだなと思います。

うん。本当にそうですよね。でもじゃあ、あたしは戦争をちゃんと知っているのかと聞かれたら知らないのよね。永さんたち世代の方々は、ちょうど戦争時代の真ん中に多感な年齢でいらっしゃったから嫌というほどご存知でしょうけれど、私は本当に幼かったので、彼らほど事実として知っていることって少ないの。だけど確かにその時代を生きていたということで、出来るだけ知りたいとは思っているの。その気持ちが強かったから、それを知っている方…自分の親からもよく戦争と、その時代の話は聞いていたし。やっぱり親子だからこそ通じ合える部分ってあると思うの。実際に私の娘たちも、夫の生前にはそれほど話をするわけではなかったのだけれど、この間「最近よくお父さんと話するんだよ」って言っていて。「何かあると、よくお父さんに相談する」って。「亡くなってから今のほうが、お父さんとよく話するんだよ」って言っていましたね。不思議なものでね(笑)。やっぱり「伝えたい」という強い思いを上の世代の人間がブレずにちゃんと持っていれば、ちゃんと大事なことは伝わるし、そこからさらに世代ごとに繋がっていくって思うの。

(終わり)※その1に戻る→http://news.walkerplus.com/2012/0511/36/

【取材・文=三好千夏】

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