【その1】小説家や翻訳家として活躍中の渡辺由佳里。教育をテーマに展開される、新刊の内容とは?
関西ウォーカー
_インタビュー前に、少しだけ渡辺さんのことについてリサーチしようと思ったのですが、あらゆる肩書きが出て来てビックリしました(笑)。最初は小説家という認識だったんですけど、助産婦、エッセイスト、翻訳家、洋書の書評…など、すごくマルチに活動されていますね。
「いえいえ、マルチっていうよりも、むしろ何も精通していないというか(笑)。何も成し遂げていないっていう(笑)。ツイッターでも『渡辺由佳里はいったい何者なんだ?』みたいなことが書かれていたことがあったんですけど、『そんなの自分でも知りません!』って(笑)。」
_「何者ですか?」と聞かれて、何とお答えするんでしょうか(笑)。
「それがね、すごく難しいんですよ(笑)。ホームページを作った時に、一応そこに自己紹介として『雑文を書いています』とは書いてあるんですけど(笑)。基本的には物を書いているつもりなんですが、すごく興味のある事のひとつに洋書がありまして、洋書の紹介を趣味でやっていたんですけど、その趣味が嵩じて出版社の方に翻訳する洋書の書籍を紹介したりですとか。まあ、いつかそれが何かの形で仕事になればいいかなと(笑)。無いものを作りたいという気持ちがあって。あとは以前は小説家になりたくて、一応売れない小説を2冊ほど書いたんですけども(笑)。」
_「神たちの誤算」と「ノー ティアーズ」ですね。
「はい。しばらく小説のほうは書かないでいるんですが、現在はと言うと、社会的に伝えたいと思う題材を自分で選んで、ノンフィクションのエッセイやハウツー本のようなものを書かせていただいております。」
_新たに出版される書籍のテーマはどのようなものですか?
「次作のテーマとなっているのは『住民が手作りする公教育』なんです。ずっとブログで書いていたものを、今回単行本として出版することになりました。ずっと昔から教育に興味を持っていたんですが、私が生活しているボストン近郊の街で10数年前からずっと取材を続けていたもので。取材対象である子供たちが幼稚園だった頃からずっと継続して取材を続けているのですが、公立学校に通う子供たちだけでなく彼らの親、教師、教育委員、教育委員会、行政委員も取材対象となっています。」
_教育というテーマに辿り着いた経緯というのは?
「取材を始めた動機というのは、『公立学校ってどういうふうに動いているんだろう?』という個人的な疑問から始まったのですが、どんどん出てくる疑問を解き明かそうとしたら、取材対象が学校や子供たち、先生だけでは済まなくなってきて(笑)。どういうふうに教育長が選ばれていくのか、というプロセスの最初からずっとウォッチャーしてきました。それをそろそろまとめないといけないな、とは思っていたんですが、なにしろ取材内容が、気が付いたらとても膨大な量になっていたので(笑)。最近のことですが、日本で“いじめ”の問題が大きく取り上げられていて、ソーシャルネットワーク上でもいろんな方が好きずきにワーワー騒いでいたじゃないですか。だけどネット上で騒いだところで、また同じような事件が起こってしまう。それを根本的に正していくためには、子供を家庭や学校だけで育てていくのではなく、“社会”で育てていく必要性があると考えました。言いたい放題で、口は出すけれども手は出さないとか、一応手は出してもそれが短期的で、結局邪魔だけをするという関わり方ではいけないと思うんです。そういう理想的な教育環境を作るというのは本当に大変で、時間も労力も…もちろん精神的にも長く大変なことなんです。やってみたところで報われないことも多いですし、失敗すれば大勢の人から非難されたりとか(笑)。そういう…なんて言うのかな、報われないことでも一生懸命やろうという意志を持った人たちが手を繋いでやっているからこそ、結果的にいい教育というのが出来ると。だけど受けている側というのは、そういう実態や実状というのはなかなか見えないんですよね。ですので、今回出版される私の本では、これだけ教育の現場の内情は大変なんだ、というリアルな現場を理解していただきたいという思いがあるんです。」
_ボストンと日本の教育現場の著しい違いというのは?
「ボストン市街の教育と郊外とでは全然違うんですよね。市内は市内の中だけで行っているんですが、ボストン市とかニューヨーク市、シカゴなどどいった大都市の公立学校というのは、本当に手が出せないくらい難しいんです。教育委員会、労働組合もすごく大きくなりすぎていて、改善しようと手を出したら、よってたかって潰されてしまうという。結局、最終的に誰の権利を守るの?となった時に、やっぱり教師ですとか、組合員の権利を守ることの方にみんな一生懸命になってしまっていて、子供の権利というのは後回しにされがちなんですよね。そしてこういうことに政治家は口を出せないという部分もあって、やはり都市という環境では改善とひとことで言いましてもなかなか難しいですね。ところで、郊外の町の公立学校は、町の固定資産税で賄われているんです。私の町ですと、町の税収入の5〜6割が公立学校のほうにいっちゃうんです。それは相当な量ですよね。なので、町の人間は自分自身に子供がいなくても、自分たちの税金ですから、公立学校をどう運営するのかということに対してはすごく積極的で。『どう予算を使うんだ』って、毎年、喧々囂々ともめているという(笑)。自分の町だけでそれを決められるという特権がありますので、規則もしやすいし変更もしやすいし、良い教師を雇いやすい。これはコミュニティの規模が小さいからこそ出来るという利点でもありますね。日本との大きな違いはそこだと思うんですよ。良い学校を作るという目標のもとに、学校関係者、親、子どもがいない人を含むコミュニティ全体が手をつなぎ、恊働をしやすいのです。上から押し付けられた規則が少なく、現場の自由裁量があるのが大きいです」
※【その2】に続く
【取材・文=三好千夏】
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