【その2】冲方 丁の歴史小説第3弾「はなとゆめ」が発売中! 舞台は平安、生き生きと描かれた“清少納言”ってどんな人!?
関西ウォーカー
※【その1】の続き
_それにしても平安時代の人々はやたらと自由恋愛ですよね(笑)。これも意外でした。
冲方「そうですね。男女の想いっていうのは本当に現代と大差ないですよね。むしろ江戸時代よりも平安時代のほうが現代に近いのかもしれないですよ。とは言っても、現代ほど女性が自由に外に出られない時代ではあるので、基本的には男性のほうがやりたい放題なのですが(笑)、それに対するカウンターとして女性のほうの主義主張が生まれてくる。そのやりとりの中で生まれて行く恋愛観が現代に似ているということと、奇しくも彼らが当時使っていた恋愛のツールが現代のツールに似ているんですよね。和歌がメールに変わったっていうだけですから。日記もフェイスブックやツイッターと同じですし、当時の日記は儀礼とか伝統を子孫に伝えるという目的があったんですが、やはりそこにはいろんな人の感情が入ってきますので『あいつはけしからん』とか『あれは真似をするな』とか『これは素晴らしい』とか。ブログやフェイスブックのような効果を発揮するあたり、非常に現代の状況に似ているところが多いですよね。今回の作品でお世話になった先生がおっしゃるには『平安男子と現代男子は非常に似ている』ということらしいですよ(笑)」
_いわゆる「草食系」でもなく。もはや『女子』になっていくという(笑)。
冲方「基本的に男子はみんな『女子化していく』らしいですよ(笑)。特に平安時代は男女の言葉の差もないので、この小説では敢えて女性言葉を使うことで女性の人物像を描くようにしましたが、本来は言葉尻だけだと男女の区別はつかなかったんですよね。それで、表現として『より雅に』と意識していくと、必然的に男性がどんどん女性化していくという現象が起こる(笑)。現にこの作品を書いている僕は、いわゆる“女装”をしている気分でしたし(笑)」
_今作を読んだ私個人の感想としましては、清少納言と中宮定子の“生き様”に影響を受けすぎて、歴史小説というよりは自己啓発本を読んだような気持ちになりましたね。『女っぷりをあげたければ、今すぐそのモテ本を捨ててこれを読みなさい!』という(笑)。
冲方「ハハハハ!そうなんですか?それは嬉しいですね(笑)。帯に『これであなたも女子力アップ』とか書きましょうか(笑)。でも本当に、実際は清少納言ってモテモテだったんですよ。『私くせっ毛です』とか『私は不器量です』『私モテません』とか、枕草子ではさんざん後ろ向きな自己主張をしているんですが、そんなはずはなくて。絶対的な文化力を持っていて、みんな清少納言の動向に注視している状況下で『あいつの局にはやたらと男が通っている』とかもう周囲には知られてしまってるにも関わらず、こんなことを言っている(笑)」
_それは謙遜でしょうか(笑)?
冲方「いや、もう『ヤバい』と思ったんじゃないでしょうか(笑)。『モメごとは勘弁してくれ』ってかわしていたんじゃないですかね。ただ単に美貌が良くて男にモテていても評判が悪かったりする女性もいるのですが、清少納言は人間的に自分の見せ方が非常に巧いというか魅力的なので、わざと自分を自分で茶化したり。むしろそうすることで悪意が中和していくというのをよく解っていたんじゃないでしょうか」
_私が作中で一番ぐっときた清少納言の台詞は「私なりの狼藉を紙のうえで働いてやる」でしたね。なんというパンクウーマンなんだと(笑)。
冲方「ハハハハ!そうなんですよね。最初はロックなんですよ。それがどんどんパンクになっていく(笑)。清少納言に関しては伝統的な教養もあるから、そういう言動が余計にインパクトが激しいんですよね」
_多くの資料をもとに描かれたであろう今作の清少納言という人物像ですが、少なからず冲方先生ご自身の理想も投影されていたりするのでしょうか?
冲方「僕の理想的な書き方や姿勢をすでに彼女が体現してしまっていたので、わざわざ創作せずとも済みました。ただ枕草子は悲しみや痛みの世界が驚くほど割愛されているんです。文中で『哀れなり』という言葉も、ただ1度しか使われていなくて。それだけ明るさのみを書き綴ったというのは、彼女自身の凄く強い意志の力があったのではないかと思って。その伏された部分というのをちゃんとこちらであぶり出していかなくてはならなかったのですが、そのあぶり出し方で彼女の人物像が変わってきたりというのはありましたね。そこに現代ならではの理解の仕方が入ってきますので、今回は僕自身が彼女を全肯定して描いていますが、これがもし『中宮定子の立場から見た清少納言』という位置づけから描いていれば、彼女の像もまた少し角度が変わっていたんじゃないかなと思いますね」
_作品の中で繰り広げられる男女のやりとりを見ていると、男と女の関わりというのは、今も昔も大差ないなあと…
冲方「この当時って『一夫多妻制』だったんですけど、同じように権力を持った女性の『一妻多夫制」は認められなかったというのも日本人独特の感性なんですよね。血筋を大事にするので『誰が親なのか』ということをハッキリさせたいんですよね。今ならDNA鑑定が出来るんですが、当時はそうもいかないですから(笑)。結果として一妻多夫制にはならず、女性はただひとりの人を愛して、男性もお前だけだよと言いながらも巧く逃げ回るという(笑)。ここは今も昔も変わらない男女の構造ですね(笑)』
※【その3】に続く
【取材・文=三好千夏】
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