集中連載!極私的「シン・ゴジラ」の愉しみ方【Vol.2】

東京ウォーカー

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短期集中連載第2回!公開2週目にして、早くも興行収入21億円を突破した「シン・ゴジラ」。初代「ゴジラ」や庵野秀明総監督、樋口真嗣監督らへのリスペクトを交えた“愉しみ方”を掘り下げる!

連想ゲーム的に物事を考えられる面白さ


映画「シン・ゴジラ」よりTM&(C)TOHO CO., LTD.


「シン・ゴジラ」を観た直後の、簡単に言葉にできない、あの興奮はなんだろう。もちろん好みの問題もあるから、人によってはつまらないという人もいるに違いない。しかし、劇場での上映が終わった後の観客の高揚した顔に嘘はない。劇場から出た後も続く「怖かった」「凄かった」という言葉の数々。そして明解な言葉にはならなくても、自分が感じたこと、知っていることを口にし始めるさまは、本当に面白いものに出会った時の興奮そのものだ。

かくいう筆者も紛れもないそのひとり。初めて観た時は、純粋にその怖さ、その面白さに圧倒された。その上で、さまざまな映画的記憶が刺激される映画ファンとしての興奮を人に話したくなる。それはたとえば、写真出演という形でリスペクトされている岡本喜八監督の作品の影響。「日本のいちばん長い日」に代表されるカットテンポ、テロップの使い方などが引用され、政府関係者会議シーンをはじめ、廊下の移動ショット、現場で消防隊員、警察官が対応しているカットに至るまで徹底的に織り込まれ、ゴジラ出現という状況下で生きている人が描かれる、喜八タッチとも言うべきスピード感と情報量。

たとえば、クライマックスシーンで指揮所が設置された場所が科学技術館の屋上ということから思い出された名作「太陽を盗んだ男」の存在。「太陽を盗んだ男」は原爆を作った男と日本政府の戦いを描いた物語であり、科学技術館の屋上はクライマックスの対決の場所であった。そういう意味でゴジラという原子力の申し子のような存在と日本政府との戦いの図式、「太陽を盗んだ男」の初稿のタイトルが「日本対俺」だったこと、長谷川和彦監督のニックネームが“ゴジ”という、連想ゲーム的にいろんなことを考えさせる興味深さ。「エヴァンゲリヲン新劇場版:破」で「太陽を盗んだ男」の音楽が使われていたことを考えると確信犯なのかもしれない。

平成の初代「ゴジラ」に成り得る作品


【写真を見る】映画「シン・ゴジラ」よりTM&(C)TOHO CO., LTD.


庵野秀明総監督の作品寄りに考えるならば、ゴジラおなじみの放射能熱線がレーザービームのような収束型になっているのは「巨神兵東京に現わる」の巨神兵にそっくりだし、ゴジラが背びれからも放射能熱線を出す姿は、庵野監督がアニメーターとして影響受けた板野一郎が手がけた「伝説巨神イデオン」の全身から発射されるミサイルのイメージそのまま。ゴジラに対する作戦名ヤシオリ作戦は「新世紀エヴァンゲリオン」のヤシマ作戦を彷彿させるだけでなく、源平合戦の「屋島の戦い」において那須与一が海上の馬上から扇を矢で射抜いたエピソードが、新劇場版では日本の古称・八州(ヤシマ)になったように、ヤマタノオロチを酔わせるための酒・八塩折之酒(ヤシオリノサケ)」から命名されていて、日本そのものを意識させるものになっている。ご丁寧にも作戦を実行する車両部隊のコードネームもヤマタノオロチを退治した剣・天羽々斬(アメノハバキリ)。さらに言うなら、庵野総監督と樋口真嗣監督が一緒に携わった最初の映画が「八岐之大蛇の逆襲」であることを考えれば、感慨深くもなる。

面白い映画はそういう連鎖反応を生む。SNSでネタバレギリギリのところで多くの口コミが広がるのもよくわかる。けれど、「シン・ゴジラ」の凄さはそういうことすらも必要としていない面白さにある。それこそが観た直後の、簡単に言葉にできない、あの興奮。

54年に誕生した第1作目「ゴジラ」。この作品が作られなかったとしたら日本に怪獣という文化が根付かなかったかもしれない原点的作品。今、その作品を観て、歴史的に、映画的に評価することはできる。けれどあの当時、あの時代を生きた人が「ゴジラ」を観た時の感覚を味わうことは不可能だ。戦争や核への恐怖のメタファーとして作られたゴジラの存在を理解することはできるが、体感することは難しい。

「シン・ゴジラ」はその体験をさせてくれる作品になっているのだ。怪獣というものが存在すらしていない世界の日本に、巨大不明生物が現れる。東京湾に現れた第一形態。蒲田に上陸した不気味な第二形態。北品川で屹立する第三形態。進化を遂げる巨大不明生物はゴジラと呼称される圧倒的に巨大な第四形態へと変貌する。政府の対応が描写される中、街を破壊し続けるゴジラは本当に恐ろしい。3・11以降の自然災害及び放射能汚染の現実的恐怖とも相まって、ゴジラによる東京炎上の惨劇で感じた怖さは、今まで感じたことのないものだった。そして、「ゴジラ」映画には欠かせない懐かしの伊福部 昭による曲が高らかに鳴り響く中、人知を尽くした戦いのシーンの高揚感と衝撃。54年の「ゴジラ」をあの当時に観た人たちが体感したのは、おそらくこの怖さ、この面白さだったに違いない。そう、「シン・ゴジラ」は、「ゴジラ」と初めて出会うことを体験させてくれる傑作なのだ。

「ゴジラ」のことも知らず、庵野総監督のことも「エヴァ」のことも知らず、何の先入観もなしに「シン・ゴジラ」と出会える人が、本当にうらやましい。

【文/永野寿彦(ながのとしひこ)●シネマ・イラストライター。子供の時からひとりで映画館に潜り込んでいた根っからの映画好きライター。ジャンルを問わず、人間のいろんな面を魅せてくれるエンタメ映画は大好物】

編集部

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