高橋尚子に学ぶ「目標達成への一番の近道」

東京ウォーカー(全国版)

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2000年のシドニーオリンピックの金メダリストで、同年、女子スポーツ界で初の国民栄誉賞を受賞した高橋尚子さん。現役引退後もさまざまな挑戦を続けている彼女に、「チャレンジ」をテーマに話を聞いた。

高橋尚子さんにインタビュー(C)佐山順丸


――高橋さんのこれまでのキャリアの中で、最大のチャレンジを教えてください? シドニー五輪金メダル、世界新記録など、数々の偉業を成し遂げていますが、一番大きなチャレンジだったと考えているものは?

高橋尚子「どれかひとつ、というのは難しくて、一回一回、毎日がチャレンジというイメージです。オリンピックがあったり、世界記録を目指したり、そのときそのときで、常に大きなチャレンジをしてきたのかなと思います。それまでしたことのないことを練習でも取り入れて、開拓をして、新たな世界を開く。言い方はよくないですけど、自分の体を、ある意味、“人体実験”のように、いろんなことをして、『人間の能力はどこまで広げられるのか』を追求する。化学や医学ではまだはっきりとわからないこと、例えば『人間は42キロをどこまで速く走れるか』ということも、一つの能力の開拓だと思いますし、秘められた力をどれだけ出せるかに挑む、それが一番大きなチャレンジだったかなと思います」

「それから、新しい道を開拓するということが非常に大きかったかなと思います。走りの中での開拓もそうですし、小出(義雄)監督のもとを離れて自分で『チームQ』を作って、自分たちの足で歩いていくといったことも新しい試みですし、常に何かにチャレンジしていると思います」

――チャレンジがプレッシャーになることはないですか? もしプレッシャーがあるとすれば、それを乗り越えるコツは?

高橋「世界記録やオリンピックのメダルは、公言したことで、みんなに見られている形になるので、目指すと言った以上は達成しなればいけない、という責任は強くもっていました。それがプレッシャーかと言われればそうかもしれないですけど、ある意味『結果にとらわれない』というか、『最終的な目標の場所』を普段の生活ではあまり考えていなかったというのも事実です。目標を達成する一番の近道は、今日、今、何をするか、何ができるのか、一日という限られた時間の中で最高の力をすべて注ぎ込むことができるのかということ。今を積み重ねることが一番の近道だと私は思っています。現役時代も、後悔なくやり切ったと思える一日を過ごすことを一番大切にしてきました。もうこれ以上走れないとか、これ以上やれないくらいやりきったと思う日、スタッフのみんなで『よく頑張ったね』と抱き合って終われるような日を積み重ねていくと、本番のスタートラインに立ったときに後悔することがゼロになるんです。その結果が優勝であれば、もちろんうれしい。でも、2位とか3位とか、負けてしまっても、素直に『自分よりももっと頑張ってきた選手なんだな』と勝った人を素直にたたえられること、それがスポーツマンシップなのかなと思うんです。国籍や人種が違っていても、同じ思いでその大会まで向かってきた選手は、最も魂の近い相手であり、仲間だと思います。そう感じることができるよう、私は日々の瞬間、瞬間をすごく大切にしていました。」

「現役を引退し、今は『走ること』が本業ではなくなっていますが、今の新しい仕事と向き合う中でも、選手だったときの姿を『自分の師』として思い出しながらやっています。現役時代は80パーセントとか90パーセントとか、納得した毎日を過ごせましたが、今は、たとえばテレビの仕事でも『今日は20パーセントだったな』とか落ち込むことも多いんです(苦笑)。でも、始めからトップなれる選手はいないわけで、必ず誰もが『トップでない時期』を経験して上に上がっていくものだと思っています。なので、自分はまだその『時期』なんだ、一日一日を大切にあの頃と同じようにやっていけば、必ず一歩ずつ上がっていける。まるで現役のときの自分に教えられているような感じです」

――高橋さんがこれからのチャレンジとして考えていることは?スポーツキャスターや解説、ランナーズインフォメーション研究所、ランナーの育成や途上国の支援活動にも取り組まれていますね。

【写真を見る】走る楽しさについて笑顔で語る高橋尚子さん(C)佐山順丸


高橋「現役時代の私は、食べて寝て走る、という“井の中の蛙”状態でした(笑)。一日の生活は、携帯を見ない、パソコンも見ない、テレビも見ない、コンビニにも行かないといった感じで、とても閉鎖的で、常に陸上と向き合っている状況でした。当時の私にとっては良かったことだと思いますが、現役を終えてみて、いろいろな社会、世界を見させていただいて、今はまた、自分の幅を広げていけたのかなと感じています。でも、今は、これ以上幅を広げずに、今の分野で少しずつ階段を上がっていけたらと考えています。スポーツキャスターのお仕事も今の核になっていますが、マラソンをずっと続けてきて、特に今はマラソンを楽しんでくれる人が増えてきているので、私は一人でも多くの『走る人』の応援者になりたいと思っています。現役時代、みなさんの応援がすごく支えになりましたし、いつもゴールまで背中を押してもらっていたので、その恩返しをしたいなと。マラソン大会では、参加者の95パーセント以上の人とハイタッチをするということを決めていて、レース前日や前々日にそのための作戦会議も行っています。」

「アフリカの子どもたちへの靴の支援、スマイル アフリカ プロジェクトも大切な取り組みです。私にとって靴は最後の最後まで一緒に戦ってくれる非常に大切なアイテムであり、戦友でした。靴を履けない子どもたちが世界にいるということは現役を終えたあとに知りました。知っているつもりと知っていることは違うと思い、しっかりと自分の目で見て、その支援ができるようにと考えました。活動は8年目になりますが、毎回、アフリカに靴を届けに行かせていただいています。子どもたちのあたたかい笑顔に出会うことは、私にとっても貴重な時間です。いろいろな分野でいろいろな経験をさせてもらっていることが、私にとって本当に大切なことです。現役の時の金メダルは人生が大きく変わった節目でもありましたが、金メダルが私の宝物のすべてではなくて、一番の財産は、人とのつながりを得たことだったのかなと思います。そのつながりが今も広がっていて、さらに大切なものになってきているなと感じます。金メダルよりも、小出監督に出会えたこと、陸上をしていたことでいろいろな人に出会えたこと、それが一番大切なことなんだと思います」

――日常生活の中で何か小さなチャレンジはありますか?

高橋「今の生活も、現役のときと基本的な部分は変わらないのかなと思います。どうしても走ることから離れられないんですよね(笑)。現役時代は『練習』という小出監督の“恐ろしいメニュー”があるんですけど、それはそれは恐ろしくて(笑)、1週間に一度、『80キロ走る日』があって、平均でも毎日40〜50キロは走るんです。こういう厳しい練習を積み重ねていくと、陸上を嫌いになったり、『もうマラソンは嫌だな』と思ってしまう人もいる中で、私がそうならなかった理由があると思います。小出監督の“きついメニュー”はある意味、仕事で、その仕事が終わったあとに私は『遊びで走ってきます』と言って、楽しんで走る時間を一時間ほど必ず持っていました。『探検ラン』といって知らないところを走ったり、きれいな景色のところに走りにいったりするのです。走ることは楽しい、という原点に毎日戻ることができた。これが長くマラソンを好きでいられる理由ですね。今では“仕事の形”は変わりましたが、日々の生活の中で『遊んできますよ!』というジョギングの時間を作ることは大切にしています。テレビの仕事をしていると、夜が遅かったり、朝が早かったり、24時間のどこにでもスケジュールの線が引けてしまう、本当にすごい世界だなと感じていますが、そんな中でも走る時間を捻出することにチャレンジしています。一般のランナーの方も時間を捻出することに大変な苦労をしていらっしゃると思うのですが、皆さんに負けないように、その時間を捻出しているのが日々のチャレンジなのかなと思っています(笑)」

「目標達成への近道」について語ってくれた高橋尚子さん(C)佐山順丸


――毎日を特別な一日にするために心掛けていることはありますか?

高橋「一生懸命やったときって、すべてをちゃんと覚えているんですよね。現役時代は食べて寝て走るだけで、他のことは何もしていないのに、すごく一生懸命、陸上をしていたからこそ、練習日誌を開くと、練習風景が同じようなものでも、その時に何を思ったかが、風とか天候とともに蘇ってくるんです。自分のやりたいことを毎日、一生懸命にやることで、結果的に思いが刻まれていくのかなと思います。あとは、ランナーズハイというか、走っていると、どんどん気持ち良くなってきて、悩み事をポジティブに解決できるようになったり、周りの人に感謝する気持ちになるので、結果として自分だけでなく周りの人へもあたたかい気持ちになれます。自分だけの殻に閉じこもらず、いろいろなところを見わたしてみて、感謝の気持ちを口にすること。それから、私は普段から景色を見るようにしています。景色は、365日同じものはないんです。雲は毎日違うし、景色に感動することって多かったりしますよね。そういうふうに、心を動かされる自分でありたいなって思っています。景色やそのときの状態で自分の気持ちが動いたり、感受性を豊かに保つことで、日々の生活に彩りが出るのかなと思います。電車から、ビルから、“今日の空”を眺めてみるだけでも日々の違いを感じることができて、感動や喜びを見つけることができれば、毎日に彩りが出て、特別な一日になっていくのではないかなと思います」【ウォーカープラス編集部/浅野祐介】

浅野祐介

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