高良健吾、監督には「モノのように扱われるぐらいがいい」 経験から得た“俳優=素材”という美学
東京ウォーカー(全国版)
『おと・な・り』や『ユリゴコロ』の熊澤尚人監督が、“人が生きる豊かさと年を重ねる美しさ”を繊細に紡いだ自身の小説「おもいで写眞」を映画化。本作で深川麻衣演じる主人公・結子の幼馴染を演じるのは、『多十郎殉愛記』や『アンダー・ユア・ベッド』など、さまざまな作品に挑戦し続けている高良健吾。今年2月14日(日)より放送のNHK大河ドラマ「青天を衝け」にも出演する高良に、1月29日(金)より公開される映画の撮影秘話や、同事務所の俳優陣が連なる共演者について、また、俳優としていま感じていることについて語ってもらった。
監督に意見を全否定されたとしても「その先に新しい自分が見つかるはず」
――熊澤尚人監督と初めてご一緒されてみていかがでしたか?
【高良健吾】17か18歳で上京した時に、事務所の社長が熊澤監督を紹介してくれてごあいさつしたのが初対面でしたね。そのあと、お仕事でご一緒できそうなタイミングが何度かあったのですが、なかなか実現しなかったので、今回ようやくご一緒できてうれしかったです。
――熊澤組の現場はいかがでしたか?
【高良健吾】主演の深川(麻衣)さんに厳しく演出されている姿が印象的でした。僕に対しては“好きにやってください”という感じだったのですが、彼女はだいぶ追い込まれていました。ただ、どんどん変わっていく深川さんの姿を見られるのは僕としてはラッキーだったなと。というのも、最近は監督に追い込まれて俳優が変わっていく姿を見る機会は少ないので、とても貴重なことだと感じたんです。きっと彼女にとっても幸せな時間だったと思うし、僕にとっても良い経験になりました。
――高良さんご自身は、“好きにやってください”と言われるのと細かく演出されるのとどちらが合っていると思われますか?
【高良健吾】どっちが合う、合わないというよりは、モノのように扱われるぐらいがいいんじゃないかな、とは最近思いますね。例えば、自分の意見を監督に全否定されても受け入れられるというか、“お前の考えた芝居はダメだ。俺が全部演出をつけてやる”と言われて演じることになっても、その先に絶対に新しい自分が見つかるはずなんです。海外の監督で俳優のことを“モデル”という人がいますが、そういう監督に演出されたら絶対に楽しいだろうなと思います。
――俳優はあくまでも“作品の素材のひとつである”という認識なのでしょうか?
【高良健吾】そうですね。これまでさまざまな作品に関わってきた中で、自分の意見を貫いてやりたいように演じた時は意外と良くなかったということもあったので、昔より“俳優=素材”というのは意識しているかもしれません。
後輩の深川麻衣さんに対して「必要以上のアドバイスはしなかった」
――高良さんが演じる一郎は、役場で働くのんきで優柔不断な男性として描かれていますが、ご自身ではどういう人物と捉えて演じられたのでしょうか?
【高良健吾】一郎は相手の“らしさ”をちゃんと大切にできる人なので、結子に対しても押し付けがましいことは言わないんです。言ったとしてもポイントを押さえていて、幼なじみだからこその厳しさと愛情を持って伝えている。そういう優しさがある人だと捉えて演じていました。一方で、結子は自分らしさも相手の“らしさ”もあまり大切にできていないので、理解の範囲を超えると相手を突っぱねてしまうんです。そういった相反する2人の姿が面白い作品でもあるのかなと思います。
――居酒屋で結子と一郎がお互いの足を踏み合うシーンが個人的には好きでした。
【高良健吾】いま、好きとおっしゃったので驚いています…。実は僕の中では、台本を読んだ時にあのシーンはいらないんじゃないかと思ってしまって(笑)。
――そうだったんですか!(笑)
【高良健吾】足を踏み合ったりするのはどうなんだろうと思って、ほかに何かアイデアはないだろうかと考えたりもしたんですけど…結局それは言わなかったです。あのシーンが好きと言っていただけてうれしいですし、あのとき何も言わなくて良かったなと思いました(笑)。
――本作はテンカラット設立25周年企画で製作された作品ということで、同じ事務所に所属する後輩の深川麻衣さんが結子を、結子や一郎にとって頼りになるお姉さん的存在の女性を先輩の香里奈さんが演じていますね。深川さんには何かアドバイスはされたのでしょうか?
【高良健吾】彼女のお芝居に対して10個気付いたことがあったとしても、それを全部伝えるのはとても失礼だと思ったので、言ったとしても1、2個程度だったのではないかなと。彼女は僕が言わなくても自分で気付けるはずなので、必要以上にアドバイスをするということはなかったです。
――香里奈さんとはご一緒されてみていかがでしたか?
【高良健吾】香里奈さんはめちゃくちゃカッコイイ人で、尊敬しています。誰に対しても気さくで、年下に対しては面倒見がいいので、本作の役柄と同じように頼りになる姉貴って感じです。撮影期間中はよくみんなで食事に行ったのですが、香里奈さんから誘われたら断れません(笑)。一緒にいると元気が出る素敵な先輩です。
――高良さんや深川さん、香里奈さんなど俳優陣のお芝居に引き込まれたのはもちろんですが、富山の美しい景色にも心動かされました。
【高良健吾】自分の好みを言うと、もっともっと富山の景色が見たいと思いました。富山でのロケ撮影はとても充実していて、現場とホテルの往復なので、作品の世界観にドップリ浸れるんです。それこそ一郎は富山で生まれ育っているので、その場所で撮影できるというのはすごくありがたいというか。東京での普段の暮らしから離れることで、良いお芝居ができたように思います。
“完全リモート映画”の撮影を通して感じた「限界」
――以前、高良さんが、インタビューで若松孝二監督の「映画で戦うんだ、権力と」という言葉に感動したと語ってらっしゃったのが印象的でした。そんな高良さんだからこそ、昨年から続くコロナ禍の中で、映画やドラマ、演劇といったエンタメを守っていくために何をするべきかなど、さまざまなことをお考えになったのではないでしょうか。
【高良健吾】まず、若松さんがおっしゃった“権力と戦う”という言葉と、現代を生きる僕の“コロナ禍でエンタメを守るために戦う”という言葉では重みが全く違うと思うんです。もちろん若松さんが戦っていた時代と現代でリンクする部分もあると思いますが、同じように語るのは難しいですね。
ただ、こういう状況だからこそ映画を作り続けないといけないとか、対面が難しいならリモートで芝居をしてみようとか、そういったことは考えました。それが僕にとっての“エンタメを守るために戦う”なのかなと。
同じ考えを持つ映画人、そしてエンタメを作る人たちがたくさんいたことに勇気をもらえたし、行定勲監督が完全リモートで製作した映画『きょうのできごと a day in the home』に誘ってもらえたのもすごくうれしかった。それがある意味、僕にとっての“戦う”だったのかなと思いますね。
――『きょうのできごと a day in the home』の撮影を通してどんなことを感じましたか?
【高良健吾】撮影はとても面白かったのですが、それと同時に良い意味で限界も感じました。やっぱりお芝居は活劇じゃないと、と改めて思ったというか。でも経験してみないとわからないこともあるので、参加できて良かったです。
――では最後に、俳優としての今後の展望をお聞かせいただけますか。
【高良健吾】例えば、スポーツ選手だったら体力の衰えを感じた時に現役引退を考えると思うのですが、俳優は役を与えられる限り生涯続けられる職業で、定年がないんですよね。本作には古谷一行さんや吉行和子さんといった大先輩が出演されていますが、できれば僕もあそこまで続けられたらという想いはあります。現場を重ねれば重ねるほどお芝居の幅が広がる可能性もあるので、やりがいも感じますし、俳優というお仕事が大好きなんです。ただ、あまり簡単には“一生続けます”と言えない難しさもあるので、これからも変わらず地道にひたむきに、いただいた役を演じていけたらと思います。
取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト:渡辺慎也(Koa Hole)
◆ヘアメイク:高桑里圭
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