劇団ひとり「たけしさんは僕の道しるべ」一番大事なことを映像化してしまったと語る監督最新作

東京ウォーカー(全国版)

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――なるほど。お笑い芸人の視点から見て感じる、このお話の魅力についても伺いたいです。

【劇団ひとり】深見師匠は、芸人の美学の塊のような人だったと思うんです。端から見れば照れ屋で不器用で、いわゆる「顔で笑って、腹で泣くのが美しい」とされている人。僕たちお笑い芸人は基本、テレビに出ている時はみんな「顔で笑って腹で泣く」のが美しく、仕事だから影の姿は人に見せなくてもいいと思っています。でも僕の我としては、本当は腹で泣いているというのを見せたくて。だから、こういう映画で見せているのかなと思います。

――監督をやるにあたり、たけしさんとはやり取りはされたのですか?

【劇団ひとり】ふたりでお話をさせていただける時間を、この映画のためだけにとっていただいて。深見師匠や当時の演芸場の雰囲気をうかがいました。あと、僕はたけしさんとよくお仕事をさせてもらっていて。待ち時間とかにも、根掘り葉掘り聞かせていただきましたね。

――監督をされるのは久しぶりだったと思いますが、現場は楽しかったですか?

【劇団ひとり】楽しかったですね。頭の中でずっと思い描いていたものが、目の前で形になっていくことは何事にも代え難くて、苦労が苦労にならないんです。コロナ禍で撮影が中断するどうしようもない苦労はありましたが、芝居がうまくいかない時にどうしようという苦労はげんなりするものではなく、これをどう乗り越えて行こうかというワクワクするもので。心地よい苦労と、本当に逃げ出したい苦労と、僕の頭の中はそれをどこでどういう風に線引きしているかはかわからないのですが、映画に関する苦労は全部“いい苦労”でした。

――ひとりさんの人生において、すごく大事な作品になったと思いますが、この作品を作りあげて今どんなお気持ちですか?

【劇団ひとり】今、僕の中では、一番大事なことを映像化してしまったという空っぽ感は正直ありますが、これで悔いなしという気持ちです。たけしさんや深見師匠をこういう形でみんなに知ってもらえたことで、お笑いの世界に入って初めてお笑いに対して恩返しできたのかなと思っています。

(C)Netflix

たけしさんはまだ作品を観られていないのですが、今たけしさんの一番そばにいる無法松さんにご出演していただいて試写を観てもらい、「弟子の俺でもゾッとするぐらい似てた」と言っていただけたのが、すごく心強いです。

――改めて、ひとりさんにとってたけしさんはどんな存在でしょうか?

【劇団ひとり】たけしさんは、僕にとっての「道しるべ」ですね。10代の頃からずっとたけしさんを追いかけてきましたから。自分の美学もありますが、これでさえ自分の考えなのか、たけしさんの受け売りなのかも分からないぐらい、いろいろな話を聞いて、本を読んできました。たけしさんに憧れて、背中を追いかけて、この世界に入って、一視聴者だった僕が今、たけしさんの映画を撮れているって、不思議ですよね。

――自分の好きな人の作品を撮れるのはすごいことですし、夢がありますね。

【劇団ひとり】そうですよね。子供の頃、こんな日が来るなんて夢にも思ってないですから。タモリさんが赤塚不二夫先生の葬儀の時に、「僕も赤塚先生のひとつの作品」と言っていましたが、まさにそれと同じで、僕もたけしさんの作品の一部なんだと思います。そういう意味で言うと、たけしさんへの思いが今回ひとつ形になったのはすごくうれしいです。

――昭和、平成、令和と、世代によってお笑い芸人さんたちの特色があると思いますが、その変化をどう感じられていますか?

【劇団ひとり】基本的にはいい方向に進化していると思います。例えば、差別的な発言を言わなくなってますよね。僕らの上の世代は、そこら辺はしっちゃかめっちゃかでしたが、新世代やそれを見て育つ新しいお笑い芸人はそういうことを言わない。そういう意味ではどんどんスマートになり、昔のような少しいびつな人間はちょっと出づらくなるのかなと思います。

「飲むも打つも買うも芸の肥やし」と言っているお笑い芸人は、僕にとってはアメコミのスーパーヒーローのようなかっこいい面もありますが、特にテレビはもう厳しいかもしれません。僕は、そのヒーローの昔のいいところだけを映像に残して、再現していて。僕はお笑いも好きだけど、お笑い芸人が好きで、たけしさんもそうですが、その人の生き方に魅力を感じます。

――たけしさんをはじめ、松本人志さんやバカリズムさんなど、監督業に挑戦している芸人の方も多いですが、意識されたり、お話されたりすることはありますか?

【劇団ひとり】意識しますね。会った時に、どうやって撮っているのか、絵コンテをどうしてるかなど、具体的なことは聞きます。最近、話した人もいますが、聞いた情報がだいたい愚痴だったので、名前は伏せときます(笑)。

――芸人だからこそ撮れるものや強みはどこだと思いますか?

【劇団ひとり】お笑いのシーンやお笑いの心情は、ほかの監督さんよりはうまくできているはずです。


――芸人、監督、作家、ご家庭の顔とさまざまな顔を持たれていると思いますが、それぞれの顔は根底で繋がっていますか?それとも切り分けていますか?

【劇団ひとり】仕事面は全部一緒で、家庭はまったく別ですね。仕事に関して言うと、お笑い、執筆、映画と、目的地が違うだけで、取り組む姿勢は変わらないです。

――では、ご家庭の中での顔は?

【劇団ひとり】とにかく家庭では、順位的には一番下の方で、とにかく奥さんの尻に敷かれて、言われるがままに動いている感じです(笑)。父としては、娘が大人になった時に自分がしている仕事を観て、それで何か感じてくれたらうれしいです。

――今回の作品は分岐点だと思いますが、今後撮りたい作品はありますか?

【劇団ひとり】日本のミュージカル映画はまだ代表作がないので、そこはやりたいと前から思っています。子供の頃はミュージカル映画が嫌いだったのですが、20代後半ぐらいから逆にすごく好きになって。いつか自分でも作りたいですし、今構想中です。


スタイリスト=星野和美(MIXX JUICE)
ヘアメイク=小出みさ(MIXX JUICE)
撮影=八木英里奈
取材・文=高山美穂

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