コーヒーで旅する日本/九州編|来年で開業から10年。本質を問い、未来へ向かう「AND COFFEE ROASTERS」
九州ウォーカー
生豆が持つ個性をひたすら大切に

現在、山根さんが信頼を置き、店舗運営や焙煎を任せているのが店長を務める続さん。熊本市内の老舗喫茶で抽出やサービスの基礎を学んだ続さんだが、客として日常的に通っていた「AND COFFEE ROASTERS」のスタイル、浅煎りを主体としたコーヒーの味わいに惹かれた。「僕のコーヒーの概念を変えてくれたのが『AND COFFEE ROASTERS』。以前勤めていた喫茶店は深煎りが主体で、浅めに焙煎したスペシャルティコーヒーは僕にとって新鮮でした」と続さん。

「AND COFFEE ROASTERS」は開業時から浅煎りがほとんどで、深めに焼いた豆でも中煎り程度。豆のラインナップもシングルオリジンのみだ。デイリーで飲める味わいを大切にし、生産処理もナチュラル(※1)やウォッシュド(※2)が多い。続さんは「仕入れる豆や焙煎については山根と相談しながら決めていますが、やはり当店のカラーである浅煎り主体というのは変わりません。僕自身、生豆が本来持っている個性を最大限感じられる浅煎りに魅力を感じています。ただ、アンダーディベロップメント(※3)にならないように、しっかり豆の芯まで火が通るように心がけています」と焙煎について説明。

山根さんは「私も焙煎は独学ですし、これが正解だ、という答えは未だ持ち合わせていません。ただ、やっぱり素材が持っている味わい、個性だけは消したくないという思いで焙煎を続けてきました。開業当初は、やはり酸味に抵抗を示されるお客様が多かったのは事実。ただ、熊本の方々にも、スペシャルティコーヒーならではの魅力を知っていただきたかったんです。それで最初はコーヒーを1杯290円でご提供したり、ハンドドリップのワークショップをしたり、海外からバリスタを呼んでイベントをやったり、とにかくスペシャルティコーヒーに触れて、飲んでいただく機会を増やすためにさまざまな工夫はしましたね」と話す。
現在使っている焙煎機はPROBATだが、最初はフジローヤルの半熱風式だったそうで、「PROBATに変えたのも、よりライトで華やかかつ、スムースな口当たりを表現するため。そういった意味では開業した時から、目指す味わいの方向性はブレていないと思っています」(山根さん)
生産者の生活を守るという新たなミッション

一貫してスペシャルティコーヒーの特性が生きる焙煎、抽出を提案し続けてきた「AND COFFEE ROASTERS」。山根さんは「私は旅が好きで、まず旅先で調べるのがその土地のコーヒーショップ。店に行くと偶然の出会いがあったり、さまざまな人やモノと繋いでくれたりする。言わばコーヒーは場所だけではなく、私をさまざまなシーンに連れて行ってくれるものだと感じています」と話す。そのことを山根さんが考える「AND COFFEE ROASTERS」の未来が表している。今、山根さんは産地や農園で働く人たちといった“コーヒーの川上”に目を向け、生産者の暮らしをより良いものにするために動き始めている。
「自身がコーヒーをお客様に販売するようになり、自然と産地に興味を抱きました。店を開いて数年後に、商社さんと一緒にニカラグアに共同買い付けにも行きましたし、東京のコーヒーショップのオーナーさんとルワンダにも足を運びました。産地を自分の目で見て、さらには各国のコーヒー豆の流通方法を知るにつれ、果たして本当にこのやり方で生産者さんの生活が守られるのだろうか、と考えるようになりました」と山根さん。

現在、特に力を入れて取り組んでいるのが、信頼の置けるエクスポーターや生産者団体との関係性を深めていくことだ。「グアテマラ発のスペシャルティコーヒーの生産者団体にGOOD COFFEE FARMSという組織があるのですが、そこの代表、カルロスさんとご縁があり、当店も生豆を仕入させていただいています。GOOD COFFEE FARMSは、従来は大量の水を必要としたウォッシュドの生産処理工程に、自転車を改造したパルピング(※4)マシンを取り入れることで排水ゼロ、燃料・電気使用ゼロ、さらにはコーヒー農家の収入を増やすことを実現したことで話題に。今は沖縄でのコーヒー栽培にも力を入れ始めたところです。生産者の生活を守ること、持続可能性に重きを置く姿勢に強く共感しています。今後、そういった方々とより深く繋がり、コーヒー業界の“川下”にいる私たちだからこそできる、お客様たちに伝える役割をしっかりと担っていきたい」と山根さんは力を込める。
まもなく創業10年目を迎える「AND COFFEE ROASTERS」。生産者の生活を守るという、明確なミッションを掲げて、ますます本質的なコーヒーの魅力を広めていってくれそうだ。

山根さんレコメンドのコーヒーショップは「Appartement」
「『Appartement』のオーナー・齊木さんはもともと当店で長く働いてくれていた、言わば右腕的存在。齊木さんとは豆の買い付けに一緒にルワンダにも行きましたし、さまざまな面で店を支えてくれました。当店を卒業しましたが、今も大切な仲間です。熊本県山都町というローカルな場所に店を開いたことを含めて、いろいろな切り口でコーヒーを広める姿勢も齊木さんならではだと思っています」(山根さん)
【AND COFFEE ROASTERSのコーヒーデータ】
●焙煎機/PROBAT PROBATONE 5
●抽出/ハンドドリップ(HARIO V60)
●焙煎度合い/浅煎り〜中煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/150グラム1250円〜
※1…収穫したコーヒーの実を、そのまま果肉がついた状態で天日干しする方法
※2…コーヒーの実の果肉を機械で取り除き、発酵。さらに、その後の水洗過程で残りの付着物を除き、乾燥させる方法
※3…いわゆる焙煎不足。味わいが未発達な状態、カロリー不足など
※4…コーヒーの実の果肉部分と種子を分離させる脱殻工程
取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)
※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。
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