コーヒーで旅する日本/東海編|地元の人とコーヒー好きが交わり、故郷を活気ある場所に!「FUKUSUKE COFFEE ROASTERY」
東海ウォーカー
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第29回は、愛知県安城市にある「FUKUSUKE COFFEE ROASTERY」。店主の三浦拓也さんは、カナダ・バンクーバーでコーヒーについて学び、帰国後は2018年に焙煎日本一となった「ROKUMEI COFFEE CO.」で修業。2022年には、若手ロースターが焙煎技術とプレゼンテーションを競う日本大会「1st crack coffee challenge 2022」で優勝を飾り、2023年4月に、地元である愛知県安城市に凱旋して店を始めた。華々しい経歴を持つ三浦さんだが、実はコーヒーを飲み始めたのは24歳ごろから。三浦さんの人生を一変させた、コーヒーの魅力とは一体何なのか。コーヒーにハマったきっかけから、開業したばかりの店のこと、これからの目標など、カナダ渡航から独立開業までの激動の5年間を中心に話を伺った。

Profile|三浦拓也(みうら・たくや)
1992年(平成4年)、愛知県安城市生まれ。大学を卒業してから福祉業界で働いていたが、パナマのゲイシャを飲んで以来コーヒーにハマり、退職してカナダ・バンクーバーへ。1年間、現地のロースターで働く。帰国後、JCRC(ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ)での優勝経験を持つ奈良市の「ROKUMEI COFFEE CO.」で3年間研鑽を積み、焙煎士として活躍。2022年7月、ギーセンジャパンが主催する競技会「1st crack coffee challenge 2022」で優勝。2023年4月、実家であるアルミサッシ店を改装して「FUKUSUKE COFFEE ROASTERY」をオープン。
生まれ育った街に活気をもたらしたい

「FUKUSUKE COFFEE ROASTERY」がある愛知県安城市は、徳川家康の生誕地として注目を集める岡崎市の西隣。中心市街地のJR安城駅周辺から5キロほど南にある桜井地区は、店主の三浦拓也さんが生まれ育った場所だ。「私が小さい頃、このあたりは商店街として賑わっていて、ウチはアルミサッシの店を営んでいました。あの頃みたいに、コーヒーを通じて地域を楽しく盛り上げていきたいんです」と三浦さん。

店名の由来は、江戸時代から桜井地区に伝わる「桜井凧」のモチーフ「福助」。店内に飾られている「桜井凧」の実物に、「地域を盛り上げたい」と語った三浦さんの想いが表れている。

定番のブレンドコーヒーにも、地元への想いを込めた。FUKUSUKE BLENDとTENJIN BLENDは「桜井凧」のモチーフからイメージを膨らませたものに、SAKURAI BLENDは桜井の街そのものをイメージしたものになっている。SAKURAI BLENDは、ギーセンジャパンが主催する焙煎の競技会『1st crack coffee challenge 2022』の優勝ブレンドでもあり、初代チャンピオンに輝いた三浦さんにとって特に思い出深いブレンドだ。

「SAKURAI BLENDにはウガンダ、ミャンマー、エチオピアの3つをブレンドしています。浅煎り好きにも深煎り好きにも親しまれるように、チェリーのような華やかなフルーティーさと、チョコレートのようなコクのある甘さをバランスよく表現しました。ドリップだけではなく、カフェラテにしても香りや甘さが際立ちます」

「地域を盛り上げたい」と開業した三浦さんだが、オープンに期待を寄せるのは地元の人たちばかりではない。その経歴から、コアなコーヒーファンからも注目を集めている。そもそも、三浦さんがコーヒーを飲むようになったのは社会人になってから。当時はコーヒーに興味がなく、福祉の仕事をしていたという。「岡崎市のスペシャルティコーヒー店『豆蔵』に行ったときにパナマのゲイシャを飲んで、コーヒーにハマりました。まったく苦くないことに驚いたんです。なんかお花のようないい香りもするし、余韻が凄すぎて30分くらいフリーズしちゃいました(笑)。それから自分でもコーヒーを淹れるようになって、気付いたら好きになりすぎちゃって、コーヒーの仕事を志すことに決めました」

「ひとつの物事にとことんのめり込むところがある」という三浦さんは、世界の味を知るために、ワーキングホリデー制度を活用してカナダ・バンクーバーへ向かった。「スペシャルティコーヒー専門のローカルなロースターなどで働き、日本はドリップ文化、カナダはエスプレッソ文化という違いがあることを知りました。今までドリップばかり飲んでいたので、現地でエスプレッソを教えてもらって『こんなに甘いんだ』と驚きましたね。お客様とフランクに接する雰囲気も魅力的でした」
豆に対して適切な熱量を与える

たくさんの学びと刺激を得て帰国し、日本での修業先に選んだのはJCRC2018で優勝した奈良市の「ROKUMEI COFFEE CO.」。焙煎日本一の店で、3年にわたって焙煎士としての経験を積んだ。「独立した今も、『ROKUMEI COFFEE CO.』には生豆の仕入れなどでお世話になっていますよ。品質向上に頑張っている地域など、応援したい産地や生産者の豆を定番で使っています。『ROKUMEI COFFEE CO.』で焙煎をしていたことを知ってくれている方や、『1st crack coffee challenge 2022』の優勝を知った方など、コーヒー好きの方がわざわざ遠くから来てくださるのでありがたいです」

三浦さんに焙煎のおもしろさを尋ねたら、「ほんのちょっと変わっただけでめちゃめちゃ味が変わってしまうところ」という答えが返ってきた。焙煎機を設置している場所によっては、季節や時間帯によって気温や湿度に大きな違いが出てくる。これらの繊細な違いを見続けて、年間を通して上手に調整していかなければならないが、これがまたおもしろいのだと言う。一方、焙煎機についてはそれほどこだわりがあるわけではないのだとか。「豆に対して適切な熱量を与えていたら、どんな焙煎機でも素晴らしく焼き上がると思っています。それでも機器によって味の出方に個性はあって、当店の焙煎機『DIEDRICH IR2.5』はクリアでやさしい味に仕上がるな、と感じています」

メインの焙煎機の隣には、COFFEE DISCOVERYの小型焙煎機を設置。こちらはサンプルロースターとして使用しているそうだ。「シングルオリジンは豆によって焙煎度合いをいろいろと変えています。近年のスペシャルティコーヒーカルチャーである浅煎りも、日本の喫茶文化で古くから親しまれてきた深煎りも、どちらもコーヒーの楽しみだと考えているので、中浅煎りから軽めの深煎りまでさまざまな焙煎度合いを取りそろえています。浅煎りは風味と甘さが最大になるポイントを狙い、深煎りは苦味の中にも素材本来の風味が感じられる味わいを目指しています」
急須コーヒーに託した想い

「FUKUSUKE COFFEE ROASTERY」では、ドリップやエスプレッソに加え、ほかにないちょっと変わった抽出方法を提案している。それは、日本茶のように急須で淹れる方法だ。「挽いた豆を急須に入れて、お湯を注いで4分待ちます。仕上げに少しかき混ぜれば完成。そのままカップに注いで飲みます。カッピングとほぼ同じ淹れ方なので、ドリップと比べコーヒーのテイスティングに近い味わいを表現することができます」

これは、ドリッパーやフィルターがなくても、豆から挽いたコーヒーを手軽に味わってほしいと願う三浦さんが考えたもの。「コーヒーを日常的に飲むけれどインスタントやドリップバッグを利用している、という方が、この地域にも結構いらっしゃいます。そういうご家庭でも、急須はあったりするんですよね。だから、急須でもコーヒーをおいしく淹れられることを知ってほしいな、と思っています」

ドリップにおいても、三浦さんが提案する淹れ方は非常にシンプルだ。「どの豆でも、挽き目、温度、量はすべて同じにしています。挽き目は中挽きから中細挽きくらい。温度は93度。量は豆が16.5グラム、お湯が250グラムです。急須の場合は一気にお湯を注ぎますが、ドリップの場合はお湯を50グラムずつ注ぎ、落ちきったら次を注いでいきます。中心からフチの方まで、均等にお湯をかけて問題ありません。ドリッパーは何でもいいのですが、当店ではORIGAMIを使っています。当店はコーヒー豆屋なので、ご家庭で気軽においしく淹れられるような抽出方法を目指しています。可能な限りシンプル、かつおいしいレシピにしているので、ぜひ試していただきたいですね」
コーヒーが繋ぐ、世代を越えた交流

店頭に並ぶコーヒーの種類は、定番の3ブレンドに加えてシングルオリジンが7種類ほど。これらすべてが自由に試飲できるのも、「FUKUSUKE COFFEE ROASTERY」の特徴だろう。抽出方法はすべて急須なので、自分の好きな味を見つけ出すにはもってこい。

「毎日散歩のついでに寄ってくれる近所のおじいちゃんと、コーヒー好きでわざわざ遠方から来てくれた若い子たちが、コーヒーを試飲しながら話しているところを見かけると、本当にうれしい気持ちになります。独立する直前に焙煎大会で優勝できたことで、地元メディアからも注目を集めました。桜井の街に暮らす人々と、コーヒーを目当てに来てくれる人々との接点として、ここからもう一度昔の商店街のような賑わいを取り戻していけたらいいな、と思っているんです」と話す三浦さんの顔には、いつも幸せそうな笑みが浮かんでいた。取材を終えて店を出たときにふと目に留まったのは、「笑う門には『福助』来たる」の一文。いつも笑顔で溢れ、福を呼び込む場所となりますように。三浦さんの挑戦は始まったばかりだ。
三浦さんレコメンドのコーヒーショップは「BUNT COFFEE」
「私は、喫茶店みたいなスタイルで営業しているコーヒー店が好きなんです。当店と同じく愛知県安城市にある『BUNT COFFEE』は、地域に根ざしながらおいしいスペシャルティコーヒーを提供していて、自分のなかで『こういう風にしたいな』というビジョンと近しいと思っています。地域の人が気負いなく通える日常にあって、めちゃめちゃおいしいスペシャルティコーヒーがトンッと出てくるんです。先日飲んだ、ボリビアのゲイシャがおいしかったですね!ゲイシャらしい、フローラルでキレイな味わいでした」(三浦さん)
【FUKUSUKE COFFEE ROASTERYのコーヒーデータ】
●焙煎機/ディートリッヒ半熱風式2.5キロ
●抽出/ハンドドリップ(ORIGAMI)、急須、エスプレッソマシン(エレクトラ ヴァーヴ)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム800円~
取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二
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※新型コロナウイルス感染対策の実施については個人・事業者の判断が基本となります。
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