コーヒーで旅する日本/関西編|メルボルンスタイルを神戸で体現。「coffee up!」が発信するコーヒーと日常の親密な関係

東京ウォーカー(全国版)

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郊外でも品質のいいコーヒーが体験できる“峠の焙煎所”

白亜の建物にCOFFEEの文字が目を引く「ridge」。店の前にはその名も「峠」のバス停がある

当初コーヒー豆は、焙煎事業を見据えた勉強も兼ねてマルチロースターとして国内外さまざまな焙煎所の豆を使っていたが、2022年、焙煎所を併設した姉妹店「ridge」を開店し、本格的に自家焙煎をスタート。智也さんがロースターとして、店の味作りを担当している。「本格的に焙煎修行をしたのは帰国後ですが、オーストラリアでも学んだり有名ロースターから直接教わったりしていました。今は商社から自身で原料を選定し焙煎できるので、お客様にも勧めがいがあります。何かと突き詰めるタイプなので、焙煎にもやりがいを感じています」と、新たな仕事に手ごたえを感じている。

開放感たっぷりの「ridge」の店内は、天窓から射し込む陽光とき木々の彩りが鮮やか


日々の焙煎を行う「ridge」は市街から車で約20分、真麻さんの地元でもある神戸市北区にある。峠を意味する店名通り、六甲山を越える峠のてっぺんに建つ店は、駅前にある本店とは一転、緑深い静かなロケーションが魅力だ。「メルボルンのカフェは、どんな郊外のエリアにも地元の人々のお気に入りの一軒があり、健康的で品質のいいお店が多くて。決して街中ではない私の地元でも、バリスタによる品質のいいコーヒー体験を楽しんでほしいと思ったんです」と真麻さんの思い入れもひとしお。開放感たっぷりの店内には、目の前でコーヒーを淹れるカウンターやカフェスペースも併設。 「バリスタとの会話の中で、コーヒーの楽しみ方の多様性に触れ、コーヒーショップのよさを感じてもらえる場に」との思いが形になった空間だ。

時季ごとに替わるスペシャルティコーヒーの品ぞろえは、深煎りのブレンド1種に、個性豊かなシングルオリジン4~5種を提案。はじめはブレンドを注文するお客が大半だったが、風味の特徴を丁寧にプレゼンし、さまざまな豆の風味を試してもらうことで信用を得て、今ではシングルオリジンのファンが多くを占めるまでになったとか。柑橘、ハーブのような爽やかなフレーバー、フローラルな芳香やワインを思わせる果実味など、今までにない多彩なコーヒーとの出合いを演出する。

カフェラテ(550円)。ケニアの浅煎りのエスプレッソは、ジューシーな甘味が後を引く


さらに、メルボルン仕込みのスイーツやフードも充実。「ridge」限定のシナモンロールをはじめ、バナナブレッドやマフィンといったベイクに加え、午前中はアボカドトーストやプルドポークホットサンドなどのブレックファストも提供。「coffee up!と同じく、朝から健康的にコーヒータイムを楽しめるように。家では普段作らないようなメニューラインナップを心がけ、メルボルンのカフェで大好きだったものを用意しました。朝カフェをルーティンにするよさをぜひ感じていただきたい」という真麻さん。ちょっと早起きして、爽やかなカフェタイムから気持ちのいい1日を始めるのも、ここならではの醍醐味だ。

“自分好みの楽しみ方”を広げる、日々の一杯の積み重ね

「ridge」の焙煎室では、開店前から研究を重ねてきた金藤さんが試行錯誤を重ねる

「coffee up!」と「ridge」では、ラテアートやハンドドリップの教室も定期的に開催。店の営業とは別の形でも、コーヒ-に親しむ機会を広げている。

近年は、メルボルン帰りのバリスタも増えつつあるが、ここでは一般のコーヒー教室以外にも、開業希望者や海外で働きたいバリスタにプライベートレッスンも実施している。「世界のどこでも、どんなコーヒーショップでも通用する知識と技術を習得したバリスタを育成するために、レッスンにも力を入れています。そのために私たち自身が日々学び、挑戦し続けアップデートし、得たものを惜しみなく伝えるという役割にもやりがいを感じています」と、自身の体験をもとに、多くのバリスタを送り出している。

ブレックファスト(~12:00)のアボカドトースト(800円)。ほんのりチリ風味のアボカドペーストはライムを絞るとさっぱりとした後味に。フラットホワイト(550円)のエスプレッソはシングルオリジンの浅煎りを使い、ミルク系コーヒーでも個性の違いを引き出す


スペシャルティコーヒーの普及以降、全国的にコーヒー専門店は今も増えているが、豆の販売を主体とする店が多く、メルボルンのような、地域の老若男女誰もが生活の一部としてコーヒーショップに親しむようなカルチャーはまだまだ築かれていない。 「豆売り主体のお店で一部のコーヒー好きに限られる客層も、メルボルンのようなショップスタイルなら、地域でコーヒーショップに親しむ人を増やすことができます。バリスタとして、コーヒーと向き合い、それを伝え、街の人々のコーヒー観を育てることもできる。需要があれば質の高いコーヒーショップの数も増え、その循環でいいコーヒー文化は作られていくのだとメルボルンで目の当たりにしました。神戸の街でもそんな可能性を持ったコーヒーショップで働きたいと思ったが、なかなかなくそれなら自分がそういう場を作ろうと思ったのが、開店の理由でした」と真麻さん。それでも、これから多くのバリスタが海外に渡り、2人と同じ思いを持った店も増えつつある。より質の高いコーヒーの楽しみ方を伝え広めるこの店で、日々提供する一杯は、小さくとも着実にコーヒーカルチャーの変化を進めている。

ペストリーも、メルボルンで教わったレシピで現地の味を再現


金藤さんレコメンドのコーヒーショップは「KUUHAKU COFFEE」

次回、紹介するのは、兵庫県姫路市の「KUUHAKU COFFEE」。
「姫路でスペシャルティコーヒーと言えばこの店。同業者からも信頼厚い一軒です。店主の寳さんは、サイフォン専門店を経て、あちこちで間借りで店を開きながら1年半前に開店。数少ない、スペシャルティコーヒーとサイフォンのスタイルで、コーヒーシーンを盛り上げています。また、自身の学びや競技会への挑戦にも熱心に取り組み、得た経験を多くの人に惜しみなくシェアしてくれます。最近、2号店であるロースタリーもオープンしました」(金藤さん)


【coffee up!のコーヒーデータ】
●焙煎機/ プロバット 5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(シネッソ)
●焙煎度合い/浅~中深煎り
●テイクアウト/ あり(450円~)
●豆の販売/シングルオリジン5~6種、100グラム850円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

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