【連載/ウワサの映画 Vol.8】映像スゴすぎ&アメリカ産。なのに思い出す「まんが日本昔ばなし」
東海ウォーカー
「坊やぁ~、よい子だ、ねんねしなぁ~」なんて歌が聞こえてきそうな、久々に日本らしいスピリットを宿したアニメの登場です。なんと、アメリカ産ですよ!アカデミー賞長編アニメーション賞&視覚効果賞ノミネートほか、世界中の賞レースで話題をさらった革新的ストップモーション・アニメ「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」。「コララインとボタンの魔女」のスタジオライカが、世界最高峰の技術を惜しみなく”古の日本”に注いでくれました!
ストップモーション・アニメといえば、ティム・バートン原案・原作の「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」あたりが有名ですね。あの、キャラのぎこちない動きが醸す異様さも魅力のひとつとなっています。そんな特色をもつこの映像表現が、妖しくてダークな雰囲気が充満する昔の日本にぴったりハマりました!アニメは我が国のお家芸なのに、ストップモーション・アニメ分野は未発達…。”とっても日本的な秀作”を海外陣に先に作られてしまったという、よもやの事態がちょっと悔しい…。
主人公は、三味線の音色で折り紙に命を与え、意のままに操るという不思議な力を持つ独眼の少年・クボ。闇の魔力をもつ〈月の帝〉にサムライだった父親・ハンゾウを奪われ、傷心の母親と暮らしています。クボの祖父こそが〈月の帝〉であり、クボの片目を奪ったのだと語る母。彼女は、村の盆踊りの晩、おばにあたる2人の女〈闇の姉妹〉に片目を狙われたクボを、身を挺して逃がすのでした。やがて、毒舌で面倒見のいいサル&お調子者で弓の名手のクワガタと共に、闇の魔力に打ち勝つための”3つの武具”を探す旅に出るクボ。彼は、自分が執拗に追われる理由が、かつて母が犯した悲しい罪にあると知り…。父母の過去と三味線に隠された秘密、クボと〈月の帝〉の戦いの行方とは!?
しかし、世にも手間のかかる手法なんですね…、ストップモーション・アニメって。1週間で製作される尺の平均は、たったの、たったの、3.31秒ですよ!クボの表情を4800万通り用意し、小さな人形のポーズや表情を微調整しつつ1秒に24回シャッターを切り、それをつなぎ合わせて映像にするという…、途方もない作業を延々と続けるわけです。しかも題材は”大昔の異文化圏”で、そのリサーチから取り組んだというから、完成までの道のりの長さと険しさにこちらが気を失いそう。驚愕の苦労の産物として、3DCGでは絶対に出せない深い味わいが生まれるのです。
本作で監督デビューを飾ったのは、黒澤 明や宮崎 駿を敬愛するライカのCEO・トラヴィス・ナイト。全編にわたり彼の日本愛を感じます。江戸時代から続く”折り紙”が、生命を得たように動き回るさまは実に優雅。クボの母親が高波をイカダで進む、見覚えのある冒頭シーンは葛飾北斎の版画を参考にしたそう。衣服用の”折り重ねた生地”の経年劣化を地道に観察するなど、時代考証の努力がうかがい知れます。日本のいろんな時代のいろんな要素と、少々ですが作り手の文化が混在しちゃってる点はツッコみたくなりましたが、描写がリアルな証拠なのでよしとして…。”クボ”ってファーストネームは、”ク~ボォ”という英語訛りも手伝って日本人には違和感アリアリ!”クー坊”と認識したらしっくりきましたけど(笑)。
アドベンチャーの興奮要素満載の壮大なエンターテインメントでありながらも、”闇の力”や”代償”などの暗部を潜ませた物語がどこか懐かしい。大切な教えを含んだ日本の昔話のテイストを汲む、単なる勧善懲悪ではないエンディングもオツでした。”わびさび”の美意識を指針に、文化から風景、人間に至るまで、息を飲む映像によって日本の美しさを再発見させてくれたライカに感謝です。身内より他人の説教の方が聞けるように、外国人が認めた日本像には、より素直に感嘆できるものかもしれませんねぇ。
シャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、レイフ・ファインズにルーニー・マーラと、声優陣も超豪華。華やかな大スターのお声もステキなのですが、個人的にはぜひとも、市原悦子&常田富士男の伝説のコンビによる吹き替え版を観てみたいものです。【東海ウォーカー】
【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「8年越しの花嫁 奇跡の実話」(12月16日公開)の佐藤 健!
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