連載第22回 2010年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

2019年5月28日 8:31更新

東京ウォーカー(全国版) 関西ウォーカー

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史

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面白いドラマ、さあ、始まるざんすよ!

夏は各地で記録的な猛暑が続き、政界では鳩山首相が辞任して菅直人政権が誕生した2010年。AKB48が大人気を博して「Beginner」と「ヘビーローテーション」が街中にあふれ、技術的なトラブルに見舞われながらも小惑星探査機「はやぶさ」が自力で地球に帰還し感動を呼んだ。海外に目を移せば、注目を集めたのがチリ鉱山落盤事故。南米チリの北部コピアポ近郊にあるサンホセ鉱山で、作業員33人が地下に閉じ込められ、その救出劇が毎日のようにニュースで流れる。「作業員の一人の妻と愛人がニアミス、というドラマ顔負けのハプニングもよく覚えています(笑)。テレビドラマも親しい人、家族との絆を再確認するドラマが多かったですね」と影山貴彦氏。さあ、一番に出てきたそのタイトルは?

重さと軽さのキャスティングバランスの勝利「フリーター、家を買う。」

―2010年、一番思い出に残っているドラマはなんでしょうか。

「フリーター、家を買う。」ですね。二宮和也さん演じる主人公は、就職をしても3ヵ月で辞めてしまう、面接をしても失敗ばかりのフリーター。家族との仲も険悪になっていきます。しかも彼の父親はとても居丈高で不器用で、家族の抱えている問題を正面からとらえることができない。そんな中、母親が近隣の付き合いの中で心のバランスを崩してしまう……。なかなかヘビーでシリアスな設定です。崩壊しかかった家族の再生がテーマでしたが、暗くしようと思ったらどこまでも暗くできた内容ですよね。けれど、絶望的な空気は漂わず、ところどころ明るさとユーモアが散りばめられていて、新感覚のホームドラマとして成功していました。あの匙加減は素晴らしかったです。

しかも、さりげない緩急のつけ方が絶妙だったですね。重くなりそうなところで、ふっと回避する。それは、主役の二宮さんの演技が大きいところだろうと思います。家族の心が離れていく、という心の変化を中心に描いたドラマですから、画面的には正直地味ですし、難しい役柄だったと思います。彼が凄いのはとことん〝普通の青年〟なんです。それでいて心に刺さる。浅野温子さん演じるうつ病の母親に、二宮さんがハンドクリームを塗ってあげるシーンなど、母親への罪悪感や愛情が、見ているこちらが苦しくなるほど滲み出ていました。かと思えば、ハローワークのシーンでは、職員を演じたアンジャッシュ児嶋さんとの飄々としたやり取りでクスッと笑わせてくれる。会話のテンポとバランス感覚が素晴らしいです。

ヒロイン役を務めた香里奈さんも、演技派という評価はあまりされませんが、持っているポテンシャルが独特といいますか。彼女が立っているだけでサラッと空気が澄んで、明るく物事が進むことを予感させる、あの存在感はちょっと珍しいです。軽いけれど薄っぺらくならないというのは、努力で身に付きにくい演技力だと思います。二宮さんと香里奈さんが漂わせる現代っ子特有のカジュアルな雰囲気と賢さは、本当に羨ましく思いました。目の前の悲劇に必要以上に酔わず、ライトな感覚で自分なりにできることを探していく。もう時代性ですよね。競争心メラメラで生きてきた私たちの世代には、なかなかあのスマートさは出せません。

家族のどん底を描きながら、常に流れている希望。すべてに対して我慢ができないし、いいかげんに生きているように見えるけれど、問題の本質はわかっていて、一生懸命にやるべきことを探る…。そんな再生のストーリーを、二宮さんと香里奈さんが気負わない自然体の演技で見せてくれたのが、このドラマの成功の理由だと思います。そして、彼らに対する、竹中直人さんと浅野温子さんの頑なさと重さも見事。キャスティングの対比の妙でしょう。

変幻自在の俳優、菅野美穂が演じた地味女子が秀逸「曲げられない女」

―「フリーター、家を買う。」もそうですが、この年は人づきあいや環境に馴染む難しさが描かれているドラマが多いように感じます。

なるほど。そういえば「曲げられない女」もそうでしたね。菅野美穂さん演じる主人公の荻原早紀が、もう見ていてハラハラするほど頑固で。自分の中の規則や約束事みたいなものを確認していかねば次に進めないし、こっちがダメならアッチを試すという柔軟性もゼロ。その、まっすぐすぎる性格を、本人も持て余しているという設定でした。王道としては、面倒くさがられて孤立するパターンが多いですが、「曲げられない女」が良かったのは、友人がそんな彼女を面白がって理解を深めていく、という展開。無理に変わらなくていい、変わらないからこそ得られる信頼もある、ということですよね。

菅野美穂さんは、とても思い入れのある俳優さんの一人です。というのも、実は昔一緒に仕事をさせていただいたことがあるんです。歌手としても活躍されていた頃なので、もうずいぶんと前になりますが、新曲のキャンペーンをしていた菅野さんに、彼女が芸人にドッキリを仕掛けるコーナーを提案しました。もちろん、菅野さんはあくまでもキャンペーンに来られているわけで、断られることもある程度覚悟していたんです。ところが「喜んで!」と笑顔で受けてくれて。そこから生放送が迫るギリギリの時間の中、慌てて早口でドッキリのシチュエーションを菅野さんに説明しました。すると本番、こちらの想像以上に演じ切ってくださって大成功! 今でもあの鮮やかさは忘れられません。「ちょっと早口過ぎるかな」と申し訳なく思うくらいの説明だったのに、こちらの意図を120%汲んでやってのけてくれる頭の良さと度胸。「この人、絶対すごい俳優になる」と感服したことを覚えています。

「曲げられない女」では、そんな菅野さんの持つ華やかなポジティブオーラや明るさを抑えていて、本当に新鮮でした。「変幻自在」という言葉がぴったり似合う方です。現在は子育てにほぼ専念し、お仕事はセーブしているようですが、いつ本格復帰しても応援する準備はできています。待っています(笑)!

「曲げられない女」といえば、ちょうどこの頃、AKB48が爆発的人気を誇っていました。当時センターを務めていた一人が前田敦子さんです。私が持つ彼女のイメージも「曲げられない女」。今は映画をメインに活躍されていますが、自分の持ち味をよくわかっている人だと思います。センシティブで、すごく冷めた目で周りを見ている。静かなるエキセントリックさを感じます。画面の端で立っているだけでも目について仕方がない、そんな人。そして特筆すべきは彼女の声。賀来千香子さん、鶴田真由さんと似た、色気をはらんだ、不思議と引き込まれる響きを感じます。素敵ですよね。

―色気と言えば、この年鈴木京香さんと長谷川博己さんが、年齢差のある許されぬ愛を演じた「セカンドバージン」が大きな話題となりました。

流行語にもなりましたね。この大ヒットを受けて、女性が年下の男性と恋に落ちるというドラマが続いたほどです。「セカンドバージン」は長谷川博己さんという素晴らしい役者を世に認知させた記念碑的作品ですが、彼については次回「家政婦のミタ」で詳しく語ることにしましょう。「セカンドバージン」の見どころの一つは、鈴木京香さんと深田恭子さんという2大女優の激突。どんなめちゃくちゃな設定を押し付けられても、この2人は説得力を持たせてしまう。鈴木さんと深田さんの美しさには、そんな強さを感じます。

もう一人、強さを感じさせる俳優としてぜひ語りたいのが、上戸彩さん。この年は彼女の飛躍の年と言っていいでしょう。4月に放送された「絶対零度~未解決事件特命捜査~」では、コツコツと努力を重ねて真実に近づいていく「カメ」こと桜木泉を演じ、10月には月9枠「流れ星」で、すれっからしのヒロイン梨沙を演じました。これで一気に実力派として開花した感がありましたね。特に「流れ星」は、それまでのアイドル的なイメージとは違った雰囲気をまとっていて、驚いたものです。新しいページをめくった気がしました。竹野内豊さん演じる水族館の飼育員、岡田健吾を翻弄するような役柄でしたが、切なさが前に出て良かったです。コブクロが歌う主題歌「流星」もとても合っていて、特に高い視聴率があったわけではありませんが、月9枠の中でも名作の一つとして挙げる人も多い。2014年、不倫をテーマにして大ヒットした「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」のヒロインで、上戸さんが漂わせる危うい色気が注目されましたが、そのベースは、この「流れ星」にあったと私は確信しています。

「無」そして「超人の風情」を感じる大野智

そして、2010年の最後にどうしても語りたいのが、大野智さん主演の「怪物くん」。「怪物くん」を実写化すると聞いた時は、心配した人も多かったと思います。アニメの実写化はハードルがものすごく高い。しかし、大野さんはスルッと飛び越えてしまった。強い自己主張がある人ではないからこそハマる、というのはあるかもしれません。欲のなさで役に染まる。彼はそのタイプに該当するのではないでしょうか。何を考えているかわからない感じがとてもいい。嵐のリーダーを務めていながらも、決して引っ張っていくような感じではない。それでもメンバーに「リーダーは大野以外いない」と思わせる。そこが彼らしいですよね。

菅野美穂さんを語ったときに「変幻自在」と言いましたが、彼女にはポジティブに渦巻く意欲というか、自ら輝きを発散するエネルギーを感じます。大野さんは同じ変幻自在でも、どちらかというと「無」。何も受け付けない無ではなく、なんでも吸収していく無。2017年の映画「忍びの国」での伊賀一の忍び無門役は、よくぞ彼をキャスティングしてくれた、と思わずこぶしを握り締めたほどです(笑)。あれは大野さんにしかできない役でしょう。自ら求める姿勢はあまり見せない。でも、私たちが気づかないうちに、とんでもないハイスペックな技を会得している。そんな超人的な空気を感じます。

そのほかにも、2010年は「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」の加瀬亮さん、「モテキ」の森山未來さんなど、信念を感じる若手俳優の演技に感心することが多かったように思います。どう動くのか先が読みにくい。個性を出し過ぎないというのかな。そういう人が、内に秘めたものを表現した時のエネルギーの強さは本当にすごい。かなりの衝撃を伴って心に響きます。自分を曲げない人は、どの時代も魅力的ですし、その揺るぎない価値観は信頼を生みます。それはドラマだけでなく、どの分野も同じであろうと思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授

【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

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