女の品性とはこういうもの!『十二単衣を着た悪魔』 黒木瞳監督インタビュー

関西ウォーカー

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恋人に振られ、仕事も不安定。自信を失ったネガティブなフリーター男子が『源氏物語』の世界へタイムスリップ!『源氏物語』最強の美しき悪女、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)に出会い、悪戦苦闘しながらも徐々に成長していく姿を描いた異世界トリップエンターテインメントが映画『十二単衣を着た悪魔』だ。

数々の傑作を生みだしてきた脚本家で小説家の内館牧子の原作本にほれこんだ女優・黒木瞳が、『嫌な女』(16)以来4年ぶりに監督として挑んだ長編作品。「内館さんの作品に登場する女性のなかでも、弘徽殿女御は最高峰」という黒木監督に、作品に込めた思いを聞いた。

2012年から原作のファンだった黒木瞳監督


原作を読み返して「ああ、撮りたい!」と心から思ったんです

フリーターの伊藤雷(らい)は、バイトで"『源氏物語』と疾患展"というイベントの設営に参加する。そこで『源氏物語』の登場人物である「デキる弟・二宮(光源氏)」と「いつも弟に一歩先をいかれてしまう長男・一宮」の関係に、頭脳明晰な弟を持つ自分の人生を重ねてしまう。その帰り道、恋人に振られてしまい、京大に合格した弟の祝賀会が開かれる実家に戻ることもバツが悪い雷は、そのまま町をぶらつくことに。

そんな時、雷鳴轟き激しい雨が。不思議な光に包まれた雷が目覚めると、なんと1000年前の『源氏物語』の世界だった。そこで出会ったのが、悪女と名高い弘徽殿女御。口から出まかせで陰陽師と名乗り信頼を得た雷は、息子を帝にしたいと野心に燃える彼女に翻弄されていきながらも次第に触発されていく。コンプレックス男子は果たしてここでどう生き抜いていく!?

初めて対面した弘徽殿女御と雷。これから怒涛の25年が始まる(C)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー


監督が原作本の『十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞』と出会ったのは初版が出版された2012年。2年前に内館牧子原作の映画『終わった人』(18)に出演し、再び本を読み返したところ「やっぱりおもしろい。『ああ、これを映画として撮りたい!』という気持ちになった」という。

原作小説は400ぺージを超え、描かれる時間は25年という膨大なもの。今回は『源氏物語』全五十四帖のうち十三帖の「明石」までを描いた。「それでも登場させたい、外せない女御たちがいる。登場人物をどこまで出していくのか、その中で何が描けるのかを考えました」と、脚本作りの苦労を語った。

弘徽殿女御がすばらしい。女性の品格とはこういうもの

原作の重要な場面を抽出しながら脚本の構成を進めていた監督だが「すべてを通して忠実に再現しなければいけないと思ったのは、雷の成長。現在にいた雷が『源氏物語』というフィクションのなかに入っていき、成長を遂げる物語であることは確実に届けないといけないと思った」と監督。

さらに「なんといっても、弘徽殿女御という人がとにかくすばらしい。『女性の品性とはこういうものだ!』ということを原作では強く打ち出されていたんです。そこを忠実に伝えたかったですね」と力強く語った。

女性が強く生きるための名言が続々

監督を魅了した弘徽殿女御は、帝の正妃で源氏物語最大のヒール(悪役)キャラ。帝が寵愛した桐壺更衣が亡くなった後に、これみよがしに嫌味を言ったり嫌がらせのように音楽の催しを行ったりと、敵に回すと怖いヒステリックで意地悪い役どころだ。しかし、原作では、彼女は早すぎたキャリアウーマンであったという斬新な発想で描かれている。

特に注目したいのは、彼女が放つ数々の名言。「男は能力を形にして示せ」「かわいい女はバカでもなれる。しかし、怖い女になるには能力がいる」など、働く女性にとっては心の指針になるようなセリフがたくさん登場するのだ。

まっすぐな瞳で相手を見つめ、パワフルな名言を放つ弘徽殿女御に観客は心奪われる(C)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー


「男は能力を形にして示せ。言ってみたいですよね(笑)。これは『男の人ってそういうものでしょ?』という意味だと思うんです。政(まつりごと)は女性に関係のない時代。男性が国を作っていくものだという時代ですよね。そういう意味で、男性たちに『きちんとやってくださいね』という願いを込めて、ということだと思います」と分析。

「怖い女になるには能力がいる」というセリフには「人の英知が優れていないと出てこないと思う。かわいいだけじゃあ何者にも成れないことを知っている。怖いと言われても、自分はまったくかまわないと言い放つあたりをみても、本当に頭のいい人なんだろうなと思います。かっこいいですよね」と監督。帝に媚びるのではなく目標のためなら〝あえて怖い女でいる″という戦略家。そんな一面も魅力的に描かれ、観客はどんどん彼女の魅力に引き込まれていくことになるのだ。

一番見せたかったのは、雷と関わり変化した弘徽殿女御の成長

弘徽殿女御と雷のかかわりは、とても興味深い。現代の薬を体調の悪い弘徽殿女御に与えると急激に回復したことから、雷は陰陽師として登用される。それ以来、弘徽殿女御は雷に嫁をとらせたり、ことあるごとに呼び寄せたりと雷に全幅の信頼を置く。そんな中「一番大事なシーンだった」と監督が言うのは、弘徽殿女御と雷が二人で語る最後の場面。これまで、いつも上の立場であった弘徽殿女御が、初めて雷に影響を受け、その後、光源氏との恋に盲目となり生霊と化してしまった六条御息所に、女性としてエールを送るきっかけとなる一連のシーンだ。

「台本には細かい指示をたくさん書くのですが、この場面は『一番大事です』と記したほど。どうやったらこの重要なシーンをお客様に届けられるんだろうと演出や技術スタッフとたくさん相談しました」と監督。

しかしその心配は必要なかったそう。「順撮りができたので、もう、弘徽殿女御と雷の信頼関係が生まれていたんです」という。「自分の息子に対する弘徽殿女御の母としての愛や、雷が人々との関わりのなかで得た愛、そういった心情が生まれていたのが映像を見ていてもよく伝わってきた。だからもう、そのままの姿を撮ることにしたんです」とクライマックスシーンの撮影秘話を語った。

「役者二人が、しっかりと魂を入れてセリフを言ってくださったので、それをこちらは撮るだけでしたね」とも振り返る。

「雷にとっては、初めて上の立場の彼女に意見を言った場面であり、雷の成長物語としてもクライマックスシーンです。その助言を彼女が受け入れたことで、弘徽殿女御もまた成長することになった」という。その心の変化を受けて、六条御息所と語らうシーンには、これまで以上にすばらしいセリフがたくさん詰まっている。「雷の言葉を借りて、彼女を励ますんですよ。この場面は本当にいいです。編集しながら、監督ではなくひとりの観客になってしまうほどでした」と笑顔で振り返った。

弘徽殿女御を演じた三吉彩花さんの十二単衣姿は、あまりにも美しかった

弘徽殿女御を演じるのは大ヒットホラー『犬鳴村』(20)やヒューマンドラマ『Daughters』(20)など主演作が続く三吉彩花、雷には伊藤健太郎、雷が愛した倫子には伊藤沙莉など注目の役者が続々登場する。

伊藤沙莉演じる倫子の優しさも胸を打つ(C)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー


監督は撮影に入る前に三吉と二人きりで稽古をしたという。「台本の読み合わせをしながら、弘徽殿女御がどんな人なのか、細かいところまで徹底的に稽古しました。私のことが嫌いになるんじゃないかなというくらい」と笑う。

印象的なのは、セリフの言い回しの稽古。「私は、音符でセリフを教えるんです。この時はミの音ではなくソの音で入ってというように。やってみせると私がイメージする弘徽殿女御はこういうことなんだな、と伝わりやすい。でもそれも最初だけ。日々彼女は自分自身の弘徽殿女御になっていきましたから、たいしたものだと思います」。

その後、カメラテストを行ったとき、御簾から姿を現した三吉の姿を見た監督は「よし、これで8割はOK!」と確信したという。「その扮装があまりにも美しかったんです。あとは私たちが、より美しく、感情が現れるように彼女を撮っていけばいい」と思ったそうで、三好が弘徽殿女御になった瞬間を語ってくれた。

監督の思いを体現した弘徽殿女御。雅な十二単衣で三吉彩花の美しさがより極まる(C)2019「十二単衣を着た悪魔」フィルムパートナー


『源氏物語』の時代はロック。弘徽殿女御の登場シーンに注目

「平安時代ってロックだと思う」という監督の気持ちが表れているのが、弘徽殿女御が雷と初めて対面するシーンだ。2重の御簾が1枚ずつ上がっていく場面では、力強いドラムにギターがグイングインとうなるパワフルなロックが花を添え、インパクト大!平安時代=雅楽という印象を覆す最強の登場シーンとなっている。

なぜロックを?と聞くと「熱い血潮というか、みんながキラキラと輝いて恋をする『源氏物語』は魂が燃えたぎっている。そんなロック魂を感じる世界だからこそ雷も成長できるのでは?と思い、ロックしかないと。もちろん平安時代なので雅楽も使っています」。主題歌にもOKAMOTO’S『History』を起用し、エンドロールまでロック魂をちりばめた演出となった。

ほかにも、雷が現代の歌を思わず口ずさんでしまうアイデアや、弘徽殿女御の十二単衣の色合わせに徹底的にこだわりぬいたりと、監督の美意識がスクリーンいっぱいに表現された今作。雷といっしょに平安絵巻の世界にタイムスリップしよう。

取材中、宝塚歌劇団時代に通ったサンドイッチの名店「ルマン」の話題も登場。フルーツサンドとエッグサンドのファンだそう


取材・文=田村のりこ

映画『十二単衣を着た悪魔』は大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開中。

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