「やぶれるテープ」「絶望が味わえるメジャー」などネットで話題の発明家に聞く、一億総SNS時代の“残るアイデア”

東京ウォーカー(全国版)

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柔軟な発想でさまざまなアイデア作品を生み出すことでいま話題の発明家、もにゃゐずみ( @Monyaizumi )さん。ビデオテープのテープ部分が外にはみ出してしまう、在りし日の失敗を再現した『思い切りやらかした「あの日の絶望」が味わえるメジャー』や、段ボールに貼られたテープを剥がした跡を模様にした『貼れば貼るほど破れるテープ』など、“あるある”と共感できる場面をあえて盛り込んだユニークな作品は発表のたびにネットを中心に大きな反響を呼び、一部の作品は実際に商品化されグッズとしても人気を集めている。浮き沈みの激しい現在のSNSにおいて、人の心を掴み続ける秘訣はどこにあるのか。もにゃゐずみさんに、その発想力の源や制作上のポリシーについてインタビューした。

段ボールからテープを剥がした跡を模様にした「貼れば貼るほど破れるテープ」画像提供:もにゃゐずみ(@Monyaizumi)


いいねの数を積み重ねても「残せていない」、手元に届くよう商品化の道へ

ビデオテープのはみ出しを再現したメジャー。リールハブ部分を押すと戻る仕組み画像提供:もにゃゐずみ(@Monyaizumi)


――はじめに、もにゃゐずみさんが発明をはじめたきっかけを教えてください。

「ネット上のいわゆる『バズ』というものに儚さを感じたのがきっかけです。僕はかれこれ10年くらい、『いま何が話題になりそうか』をその時々で分析し、ものづくりに限らずあらゆる表現手段でソーシャルメディアを中心に世の中を楽しませるようなことを半分趣味のような形でやってきました。一時活動を停止したのですが、2019年に再開し、その後1年間で累計1000万いいねに達しました。しかしその辺りで『何も残せていない』感覚に陥りました」

「1投稿1投稿がどんなにシェアされ、何百万何千万という人の目に触れても、1カ月後にそれが話題になることは今のSNSではほぼありません。かつてはソーシャルメディアで発信している人数も限られていて、ユーザーにとって一つの発信に対する時間のかけ方も、定着も、違いました。数年のブランクを経たことで、その儚さを図らずして思い知ったんです。それから、『本当の意味で人の心を動かすとはどういうことか』という問題意識をもとに、話題化に加えて『残り続ける』とは何かを模索するようになりました」

「その手段の一つとしてたどり着いたのが、『単なる一時的な話題性だけでなく、そのアイデアを明確な形にし、かつ、ぱっと見のオモシロさだけでなく別の感情も沸き起こるものを作り、それをみんなの手元に届く仕組みをつくる』というものでした。その取り組みとして確立したのが、“発明家”としての活動、オリジナル雑貨店の運営です」

最近は少なくなった?とは言え数多のトラウマを生み出してきたフリーズをファイルのデザインに画像提供:もにゃゐずみ(@Monyaizumi)


――“残る”ことへの意識を明確に持っているんですね。そうした経験を経てはじめて発表した作品はなんですか。

「資料を入れると『あの絶望感』を体験できるクリアファイル、『フリーズファイル』です。この時に初めて大きな反響に加えて『ほしい』という声を多くいただき、うれしかったことを覚えています」

――先日発表された「貼れば貼るほど破れるテープ」も商品化され話題です。

「商品の梱包作業でテープを扱うことが多く、デザインテープを一度作ってみたいという漠然とした好奇心が結構前からあり、テープと段ボールという梱包におけるツートップを掛け合わせて生まれた作品です。梱包作業となれば、テープだけでなく、扱う段ボールの量も計り知れず、ある日破棄する段ボールを解体している最中に『この破れた部分の模様をテープにしたらおもしろいんじゃないか』とふと思い立ったという経緯です」

貼れば貼るほど破れるテープ画像提供:もにゃゐずみ(@Monyaizumi)


自分の「なんか好き」を蓄積、月100本のアイデアからブラッシュアップ


――一つの作品を思いついてから完成までどのくらいの期間や工程がかかっているのでしょうか。

「まちまちです。プロトタイプや作品としての一品ものは30分でできることもあれば、1カ月かかることもあります。そこから商品にするとなった場合はさらに1〜3カ月程度要することが多いです」

――作品はいずれもユニークな発想が光っています。アイデアの発想はどんなところから生まれるのでしょうか。

「アイデアの源は、自分の『なんか好き』です。このアンテナは四六時中、常に持っておくようにしておいて、何か気づきや思いつきがあったらすぐにiPhoneのメモ帳に残します。すぐに説明できないものからできるものまで、とにかく『好き』を蓄積しておいて、別のまとまった時間に、冷静にそれらを客観的に言語化したり、そこから仮説を立てたりして『なんか好き』をアップデートしていきます」

明朝体神経衰弱。もにゃいずみさんは書道家として創作漢字も発表している画像提供:もにゃゐずみ(@Monyaizumi)


――そうしたアイデアはどのくらいのペースで出てくるものですか?

「アイデアそのものは1カ月に100個くらいですが、世に出そうと思えるレベルに至るまでの発想は1カ月に1、2個あるかないかです。精度が上がってきていまは少な目ですが、少し前まではひと月に2、300個くらい考えてました。世に出すアイデアのペースや本数はずっと変わっていないです」

――アイデア出しで苦労することはありますか?

「ありきたりな回答ですが、ずっとです。終始水を張ったバケツに頭を沈めていて、思いついたその一瞬だけ顔を上げて息継ぎができるような感覚です。数日で何度も息ができたと思えば、1~2カ月沈められっぱなしなんてこともざらなので恐ろしい。業種限らずアイデアベースでお仕事をされている方々みんなにわかってもらえるんじゃないかと思います」

「自分がワクワクするもの」を優先


――制作上でこだわっている部分や、大事にしていることがあれば教えてください。

「“自分がワクワクしているか常に自問自答すること”を大切にしています。いかに客観的に消費者が動くよう分析し尽くしたものでも、作っている当事者がワクワクしないものを世の中に届けたところで、人の心の動かし方は想定の範囲に収まって限界があると僕は考えていますし、想定通りの反応を求めるクリエイティブを繰り返すことにも虚無感を感じます。発明家になるまでの自分はまさに『いかにみんながおもしろいと思うか』を第一に考えていて、膨大な数の反応をいただけても空虚なものを感じていました。もちろんこれらは両輪がとても大切ですが、今の優先順位は前者です。この理念は意識的に大切にしているところです」

――今後「こんなものを作ってみたい」という構想があれば教えてください。

「たくさんありますが、一つだけ挙げるなら、岡本太郎の『明日の神話』や『太陽の塔』のような、物理的にとんでもなくデカいものを作ってみたいです。デカいのはスゴい。メッセージ性など、裏の論理的かつ合理的な事情を含みながらも、その『デカい』という子供も大人も一発でわかる視覚的インパクトによって、直感的に圧倒されてしまう感覚に魅力を感じてしまいます」

キーボードを押すと文字化け時によく表れる文字が打ち込まれていく。「書いたけど文字化けしてしまった」提出物を作るのに便利?画像提供:もにゃゐずみ(@Monyaizumi)


SNSが人口に膾炙(かいしゃ)したことで一つ一つの反響が大きくなった一方、ネット上の話題が消費されるスピードも比例するように早くなった。「心理的にも物理的にも残るためにはどうするべきか」という視点が、これからのSNSで活動する上で「話題を呼ぶにはどうするか」という視点よりも重要になっていくかもしれない。

現在も日々新作を制作中のもにゃゐずみさん。「やぶれるテープ」や「明朝体神経衰弱」など、商品化された文房具や雑貨、ゲームは もにゃゐずみさんのオンラインストア で販売中だ。

取材協力:もにゃゐずみ(@Monyaizumi)

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