コーヒーで旅する日本/九州編|探究心が生み出す多層的なコーヒー。「ZELKOVA COFFEE」

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

うきは市の田園風景を望むテラス席(C)KADOKAWA

九州編の第13回は、福岡県・うきは市にある「ZELKOVA COFFEE」。九州に1台しかないという熱風式の焙煎機で、クリーンカップ(※1)に秀でた柔らかなコーヒーを焼き、着実にファンを増やす郊外のショップだ。ロースト マスターズ チーム チャレンジにも積極的に参加するなど、研究熱心なことで知られるオーナー兼ロースターの田中さんが求めるコーヒーの味わいとは。

(C)KADOKAWA

Profile|田中隆宣
1986(昭和61)年、福岡県うきは市生まれ。大学卒業後、両親が営む「ぶどうのたね」に自身のコーヒー専門店を開くために、全国のショップを巡り歩く。とある縁から、北海道の老舗喫茶でおよそ2年間修業。2014年に「ZELKOVA COFFEE」をオープンし、2015年から4年連続で、エリアごとに編成されたチームで焙煎技術を競うロースト マスターズ チーム チャレンジにも参加。

年間400以上のコーヒーショップを訪ね歩いて

「ZELKOVA COFFEE」は喫茶利用も可(C)KADOKAWA

耳納連山のふもと、のどかな風景が広がる里山に、着物店やカフェ、和菓子店などが集まる「ぶどうのたね」という場所がある。うきはエリアでは知られた人気スポットで、そこに2014年2月にオープンしたのが今回紹介する「ZELKOVA COFFEE」。店主兼ロースターの田中隆宣さんは「ぶどうのたね」を営む両親のもとに育ち、大学ではカメラのフィルムの現像やプリントについて専攻。ただ時代の流れからカメラはデジタル化し、大学で学んだ技術を活かせない事態に。

「将来のことを考えたとき、純粋に家業の着物店を継ぐという選択肢もありましたが、自分にしかできないことを『ぶどうのたね』でやりたいと思いました。雑貨店やアパレルショップ、カフェなど“暮らし”に関わる店が集まる『ぶどうのたね』との親和性を考え、コーヒーを一から勉強することにしました」と田中さん。

イートインのコーヒーは660円〜(C)KADOKAWA

まず田中さんが取り組んだのが、とにかくたくさんのコーヒーショップを巡ること。その数は多い年で年間400店以上にのぼったという。「全国各地のコーヒーを飲み歩き、コーヒーの世界の奥深さを体感しました。当時の私は、福岡や九州以外のコーヒーの文化を知るべきだと考え、北海道の老舗喫茶店で働かせていただきました。そこで抽出やサービスの仕事の基礎を学ぶなかで、時間を見つけてはコーヒー店を訪ね歩くことはライフワークとして続けていたんです。もちろん帰省した際は福岡や九州の店に足を運んでいて、そのときに地元である九州は店の数も多いし、なによりどの店も独自のカラーがあると感じました」と田中さん。

全国各地のコーヒーショップを巡り歩いた結果、福岡・九州のコーヒーカルチャーの独自性を見出した田中さん。故郷のうきは市に「ZELKOVA COFFEE」を開業する。

【写真】ゆったりとしたレイアウトの2階カフェスペース(C)KADOKAWA


九州に1台だけの焙煎機で表現する多層的な味わい

店前に立つケヤキの木がシンボル(C)KADOKAWA

店名の「ZELKOVA」は英語でケヤキの意味。店舗が立つ場所に植えられたケヤキの木にちなんで命名したそうだ。2022年2月現在、コーヒー豆はシングルオリジン6種と、ブレンド1種をラインナップ。九州に1台しかないというフジローヤルのRevolutionというロースターを愛機に、開業時から自家焙煎に取り組んでいる。

田中さんは「Revolutionは一度に5キロ程度焼ける小型のマシンでは珍しい、熱風式の焙煎機です。さまざまな自家焙煎店のコーヒーを飲み、当初は半熱風式の導入を考えたのですが、ずっと付き合っていく焙煎機は『ZELKOVA COFFEE』の生命線と言っても過言ではありません。メーカーの担当者さんの熱意や人間性にも惹かれ、Revolutionの導入を決めました」と田中さん。

フジローヤルの小型ロースターでは、Revolutionのみが熱風式(C)KADOKAWA

ドラムの回転数や風量、風圧など細かく調整できる最新式のマシンだけに、スペックは十二分のRevolution。導入当初、田中さんが苦労したのが、使っている人が周りにいないために、情報共有ができない点だった。ただ、マシンは違えど、おいしいコーヒーを焼くという焙煎士としての目的はだれしも同じ。九州各地に存在する先輩焙煎士たちの技術や考え方をより深く知るために、2015年から2018年までの4年間、毎年ロースト マスターズ チーム チャレンジに参加。ロースト マスターズ チーム チャレンジとは、エリア別に編成されたチームで焙煎技術を競うエキシビジョンマッチで、九州チームは過去、好成績を多く残している。

店頭に飾られたローストマスターズチームチャレンジの賞状(C)KADOKAWA

田中さんは「初めて参加した2015年は豆香洞コーヒーの後藤さん、ヴォアラ珈琲の井ノ上さん、 COFFEE COUNTY の森さんなど、九州を代表するような焙煎士の方々が参加されていて、その年は見事優勝。一方、私はというとチームの一員と呼ぶにはおこがましてく、勉強させていただいている、というぐらい何もわかりませんでした。ただ、本当に発見と気付きの連続で、とても良い経験になりました。それから2016年、2017年、2018年と毎年参加し、自分なりに焙煎に対する考え方を定めるのに役立ちましたね」

商社と一緒に産地に足を運び、気に入った生豆だけを厳選(C)KADOKAWA

そんな風に焙煎に対する考え方を固めていった田中さんが、コーヒーの味わいで大切にしているのは、構造的であるかということ。「表現が難しいのですが、“多層的”な味わいになるような焙煎を心がけています。奥行きとも表現できる味わいの立体感というのでしょうか」

その言葉通り、淹れてもらったシングリオリジンは少し温度が下がった状態でこそ、香り、甘み、酸味が引き立ち、複雑味を感じられた。

うきは市産の平飼いの鶏の卵を厳選したロールケーキが人気。自家製ロールケーキセット(1210円)(C)KADOKAWA

最後に今後の展望を聞いてみた。
「着物店を営む両親が、昔こう言っていたんです。『商品が売れない時にこそ、生産者への発注を絶やさぬように』。それは、コーヒーはもちろん、どんなものでも同じことが言えると店を開いてから強く感じています。コーヒーを栽培してくれる海外の生産者の生活を豊かにするために、私たちはコーヒーに日々親しむ人を増やしていかなければいけません。そのためにまずできることは店舗をもっと大きくすること。そういった考えから2店舗目の開業に着手するのが、今の目標です」(田中さん)

重厚な雰囲気の1階はカウンターのみ(C)KADOKAWA


田中さんレコメンドのコーヒーショップは「ヴォアラ珈琲」

次回、紹介するのは鹿児島県内に3店舗を展開する「ヴォアラ珈琲」。
「『ヴォアラ珈琲』のオーナー、井ノ上さんは九州にスペシャルティコーヒーを根付かせた先駆者の一人。2015年のロースト マスターズ チーム チャレンジにチームの一員として参加されていて、焙煎はもちろん店舗を営んでいく上で、さまざまな知見をいただきました。鹿児島を拠点にされ、今後どのような展開を考えられているか、また井ノ上さんのコーヒーのルーツなど、私自身知りたいことが多いです」(田中さん)

【ZELKOVA COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤルRevolution
●抽出/ハンドドリップ(Kalita ウェーブドリッパー)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン6種、100グラム594円〜

※1…口に含んだ際の味わいがクリーンで、雑味がないこと

取材・文=諫山力(Knot)
撮影=大野博之(FAKE.)


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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