コーヒーで旅する日本/関西編|衝撃の出合いから始まった、スペシャルティコーヒーの醍醐味の探求。「VOICE of COFFEE」

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

コンクリートと木材の質感を生かしたスタイリッシュなデザインは海外からも注目。空間にアクセントを加える奥の壁の黒い矩形は、銀塗装が酸化変色したもの


関西編の第36回は、神戸市中央区、栄町で創業から10年を迎える「VOICE of COFFEE」。2010年代に、コーヒースタンドやロースターが相次いで開店し、神戸のコーヒー激戦区となった界隈でいち早くオープンした、先駆け的な一軒だ。店主の坂田さんは、スペシャルティコーヒーとの出合いを機に、エンジニアからロースターへと転身。自らが感銘を受けた、素晴らしいコーヒーの香味=“VOICE of COFFEE”を伝えるべく、独学で焙煎を追求。開港以来、コーヒーと縁の深い神戸で、地元に根差して新たなコーヒーの魅力を発信している。

店主の坂田恵司さん


Profile|坂田恵司(さかた・けいじ)
1964(昭和39)年、京都府生まれ。外資系企業でエンジニアとして働いていた頃、偶然、旅先で訪れたコーヒー専門店でスペシャルティコーヒーに出合って、その魅力に傾倒。その後、東京のスペシャルティコーヒー専門店に通い、開業セミナーやテイスティング会に参加しながら、独学で焙煎を研究し、2013年、神戸・栄町に「VOICE of COFFEE」をオープンし、2017年に移転リニューアル。近年は、環境問題や循環型社会に貢献する取り組みにも力を入れる。

旅先で偶然出合ったスペシャルティコーヒーの衝撃

小さなビルに個性的なショップが点在する栄町

神戸を代表する繁華街・元町の南側、かつては港町の活気を体現していた栄町エリア。界隈には今も、レトロなビルが数多く立ち並び、当時の面影を伝えている。2000年代に、点在するビルの中に小さな雑貨店が集う“雑貨の街”として様変わりした栄町に、さらなる変化をもたらしたのが、コーヒーショップの急増。多彩な店が個性を競う“神戸のコーヒーストリート”は、いまや神戸っ子の日常に欠かせない存在になっている。中でも、自家焙煎のコーヒーショップとして、いち早くオープンした界隈のコーヒーショップのパイオニアが「VOICE of COFFEE」だ。

「当時は栄町や元町あたりでコーヒー豆の販売をメインにする店は珍しかったですね」と振り返る店主の坂田さん。開店前、エンジニアとして企業に勤めていた頃は、コーヒーは“普段の飲み物”以上の存在ではなかったという。「社会人になってから自分でドリップはしていましたが、店巡りとかしてないし、豆にもこだわりがなかった。喫茶店は時間つぶしやおしゃべりに行く場所というイメージでした」。そんな坂田さんが、開店に至るきっかけとなったのは、当時、初めて体験したスペシャルティコーヒー。およそ20年前、旅先でたまたま入ったコーヒー店で、衝撃的な出合いが待っていた。

元理容室の跡地を改装。ビルの外壁にうっすらと昔の痕跡が残る


「どんな店かも知らずに、飲んでみたら、今までにない突き抜けたおいしさで、奥行き、複雑さ、コクが相まった味わいの密度が段違い。アメリカンのような薄いコーヒーが多かったから余計に、その違いに驚きましたね」。そう振り返る坂田さんが訪ねたのは、日本のスペシャルティコーヒー専門店の草分け的な一軒。まだ、その評判も一般に広まっていない頃、スペシャルティならではの高品質でユニークな風味は、まさに未知の体験だったと想像できる。その衝撃の理由を探求するべく、帰るなりすぐに、このコーヒーがどこで手に入るのか探し始めた。

コーヒー豆は蓋つきのガラス器で陳列。豆の香りを試すこともできる


独自に磨いた焙煎技術で、個性的な豆を多彩に提案

直火式の焙煎機で、個性的な豆のキャラクターを表現

この時、見つけたのが東京のスペシャルティコーヒー専門店。再び口にしたコーヒーからは、初めて飲んだ時と同じ風味を感じた。すぐにその店に通うようになり、ほどなくスペシャルティコーヒーの展示会・SCAJも訪ね、そこでもさらなる刺激を受けた。「会場はまさにコーヒーだらけ。種類の多さにも目を見張りました。この時、コーヒー器具メーカーの珈琲サイフオンも出店していて、無償配布されていたコーノ式ドリッパーを使って、家で淹れてみて難しいなと感じたことから、自然と抽出も勉強し始めたんです」

ただただ、おいしいコーヒーを突き詰めたい。坂田さんの行動力は止まることはなかった。その後は、店が主催するセミナーで抽出を学び、新豆のテイスティング会などにも参加。5年ほど経った頃、本気で仕事にしようと思い始めた、ある転機があった。「病気で2カ月入院した時のこと。手術のための同意書を書く時に、“人間いつ死ぬとも限らない”というのを感じて。このままエンジニアで終わるのもどうか?というのが頭をよぎったんです。それなら、今とは全く違う分野で好きなことをしたいな、と考えた時に浮かんだのがコーヒーでした」。折しも、退院後に開業セミナーが開かれていて、参加するうちに、思いは現実のものに変わっていった。当時は横浜に赴任中だったが、神戸に家を所有していたこともあり、「いずれ関西に戻るつもりだったので、神戸で始めよう」と、関西に戻って新たな道を進み始めた。

テイクアウトのコーヒーは一杯ずつ丁寧に抽出


横浜時代に、コーヒーに関して多岐にわたる知識や技術を学んだ坂田さんだったが、焙煎だけは独学で始めることに。「焙煎は方々で教わったものの、人それぞれで持論が全く違っていました。だから、これだけは自分で感覚をつかむしかないと感じたんです。しかも、同じ機械を使っていても、その日の天気や風、湿度などで毎日変わる。安定して味を作るのは難しい」と、開店予定の物件に焙煎機を設置してから試行錯誤を重ね、コーヒー豆の個性をいかに表現するかに腐心してきた。

カウンターにずらりと並ぶ豆は、スペシャルティグレードのシングルオリジンが8~10種に、定番のブレンドが3種。近年はコーヒーの個性的な酸味を生かす浅煎りが主流だが、「極端な浅煎り、深煎りはなく、飲みやすさを重視しています」と坂田さん。関西ならではの嗜好もあって、中深~深煎りが好まれるという。一方でユニークなのは、時季ごとに配合が変わるオリジナルブレンド。

「うちの場合はシングルオリジンありきのブレンド。豆は少量ずつ仕入れ、3カ月ほどで入れ替わっていくので都度、組み合わせが変わるんです。味を変えずに、使う銘柄を変えるので同じ味を作るのが難しいんですが、配合は無限にあるので理想を求めていきたい」。逆に言えば、常に新鮮な豆の風味が楽しめるということ。しかも、多彩なスペシャルティグレードの豆を使うのだから、ある意味、最も贅沢なブレンド。3種のブレンドの味わいの表現を、飲み比べてみるのも一興だ。

テイクアウトのドリップコーヒー450円。豆を購入すると220円の試飲価格に


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